大手ゼネコンを辞職してつくり上げたのは、「福井の玄関」を自負するゲストハウス。ゼロからDIYを学び、傷んでいた建物を仲間とリノベーションした。どのように誕生したのか、お話を伺った。
掲載:2022年8月号
延べ200名に支えられたDIY改修工事
「2時間悩みましたが、こんな好条件はほかにないと思ってその場で決めました」
県庁所在地の主要駅から徒歩約5分の場所にある「福井ゲストハウスSAMMIE’S」。建物を購入したときのことを、森岡咲子さんはそう振り返る。
築約60年の建物は買い取りで50万円、約30坪の土地は借地で諸費用を含めても総額100万円を切っていた。建物の傷みは激しかったが、それも咲子さんは想定内だったという。
「建物は自分が思う通りにD IYで直そうと決めていたので、ワークショップに参加したりして最低限の技術は身につけていました」
咲子さんは福井市出身。東京大学経済学部で芸術と公共性を研究し、ヨーロッパで歴史的建造物がリノベーションによって人びとが集う新たな場所となっている様子を見て強く共感していた。だが、大手ゼネコンに就職すると新しい建物ばかりつくる仕事や大量消費で成り立つ都市生活に違和感を抱くようになる。そうしたなか、近しい人の死や東日本大震災を経験した咲子さんは「いま、自分にできることをやろう」と決心する。
そのころから帰省するたびに自然が豊かな福井の魅力を再認識していった。福井のガイドブック制作にも携わるようになり、福井市にゲストハウスがないことを知って「自分がやろう!」と思い立った。約7年勤めた会社を退職してUターンすると、購入した建物の改修に専念することになる。
「前の仕事柄、すべきことはわかっていましたが、やってみると壁の下地づくりだけでヘトヘトになり、心が折れかけました。そんなとき、帰省を繰り返すなかで出会った延べ200人を超える人が手伝ってくれたんです」
改修費は、建物代も含めて約480万円。2015年のオープン時には、出会った人びとが新たな人を呼び、自然とお客さんが来るようになっていた。夫の永山恭平さんももとは兵庫から来た宿泊客で、鯖江にあるメガネの企業で働いている。そして、千晴ちゃんと陽一くんが誕生し、いまはゲストハウスの近くに購入した家で暮らしている。
咲子さんは、コロナ禍でできた時間を利用して、高校の非常勤講師を始めた。これを機に、小学校の教師の資格を取得しようと勉強中だ。
「SAMMIE’Sは、ゲストの方にとって『福井の玄関』でありたいと思ってやっています。いつか、親子で長期滞在しながら、子どもたちが教育を受けられる環境をつくれたらいいな」
自分にできることを求め続ける姿勢が、彼女のなかでいまも大きな原動力になっている。
【オーナー森岡咲子さんから田舎宿開業へのアドバイス】
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小規模宿の強みは濃い接客ができること。私も対話を大事にし、ゲストの方の人柄や趣味を理解しようと努めています。ここに住む私たちの「ご縁のお裾分け」ができれば、再訪者も増えるはず。宿主やスタッフの人柄、ここでしかできない経験も宿の個性や魅力につながります。価格設定も自信を持って行って!
福井ゲストハウスSAMMIE’S サミーズ
2015年にオープンした福井駅東口からすぐのゲストハウス。男女別ドミトリーと個室がある。駐車場2台分。
住所/福井県福井市日之出2-6-8 ☎0776-97-9559
料金/ドミトリー1泊3300円、個室1泊6900円〜、駐車1台500円
http://sammies.jp/
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問い合わせ:福井市移住定住推進室 ☎0776-20-5514
https://www.city.fukui.lg.jp/sisei/plan/connect/teiju.html
文・写真/吉田智彦 写真提供/森岡咲子さん、福井県福井市
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