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田舎暮らしの本 1月号

12月2日(金)
850円(税込)

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火野正平さんインタビュー「でも女はな……早い。男よりはるかに切り替えがうまい」

掲載:2022年12月号

年齢を重ね、その演技にますます味わいを増す俳優の火野正平さん。水上勉(みずかみつとむ)によるエッセイを元にした映画『土を喰らう十二ヵ月』で、山歩きに詳しい大工さんを演じます。フリージャズが流れ、なんともおいしそうな料理が続々と登場するこの映画のこと、人気の『にっぽん縦断 こころ旅』(NHK BSプレミアム、4K)のこと、長年通っているというハワイ、カウアイ島のことを聞きました。

ひの・しょうへい●1949年5月30日生まれ、東京都出身。1973年にNHK大河ドラマ『国盗り物語』で注目を集め、翌年『俺の血は他人の血』に主演して映画デビュー。最近の主な出演映画は『そこのみにて光輝く』『空海―KU-KAI―美しき王妃の謎』『Fukushima50』。2021年『罪の声』で日本映画批評家大賞ゴールデン・グローリー賞を受賞した。また2011年から『にっぽん縦断 こころ旅』(NHK BSプレミアム、4K)に出演中。

 

8月は家族でカウアイ島。お盆で田舎に帰る感覚

 「撮影は1年半かかったみたいだけど、俺が実際に撮影した日数は少なくて。1年目が終わって、来年まで生きてるかいな?と思ったもん。それにジュリーとしか一緒に撮影してないから、話の持ち合わせが……。だから、違う話をしようや」

 〝ジュリー〞こと沢田研二さん主演の『土を喰らう十二ヵ月』に出演した火野正平さんは、とぼけた調子で語り始めた。目の前に置かれた本誌を手に取り、「今、田舎に行きたいと思てんねん。俺な、コロナ禍で行けてないけど毎年8月は仕事せんとカウアイ島で過ごすんや」とまずは、30数年通うハワイについて。

 「ハワイって言わないで、カウアイ島。アメリカの田舎なんよ。山というか谷、バレーだな。借りるのは海沿いの道路から演歌1曲分、奥へ入ったところ。演歌を聴きながら、ちょうど歌い終わったころに着く。なんでカウアイ島で演歌?と思いながら」

 ここ10年ほどは、広〜い敷地内に大家さんの自宅もある貸家に滞在。それ以前は「民宿みたいなホテル」が定宿だった。

 「海がすぐそこだったけど、年をとると波をうるさく感じて。山に行くと聞こえてくるのはせいぜい木の揺れる音くらいで、こっちのがええなあと。朝起きたら、その日に行くところを決めるねん。一家で行くから、俺が隊長やねんな。天気を見て、海に行こうとか山にしようとか。カウアイ島はグリーンアイランドと呼ばれるくらい、トレッキングする場所も多い。トレッキングといってもちょっと車で行って……ってようしゃべんな俺!」

 カウアイ島への愛から冗舌になる自分にツッコミを入れ、「無口になろう」と口を閉ざす火野さん。「いやいや、しゃべってくださいよ」と頼み込んで先を促す。

 「海ではぼーっとしてるな。シュノーケリングくらいはやるけど潜りはしないし、サーフィンもゴルフもやらん。なんもしないために行くんだから。そこでは日本人もほとんど見かけなくて、1カ月のうちに2〜3組会うくらい。するとうれしくて。よぉ来たな、飯食いに来い!とウチに呼んだりする。それでまだつながってる奴が結構いるよ」

 カウアイ島との出合いは、時代劇シリーズ『長七郎江戸日記』(1983年〜)のメンバーで出演した、改編期の番組対抗バラエティ。まさかの優勝、そのご褒美が「ハワイご招待」だった。

 「初めて行ったとき生後8カ月だった下の娘が33歳になるからな。今、フラ(ダンス)をやってるよ。向こうで知り合ったコーディネートしてくれたおっちゃんがすてきで。その人は亡くなったけど、その家族といまだにやりとりしてる。かあちゃんや娘には、お盆で田舎に帰る感覚かも。〝どこでも連れてくよ、どこ行きたい?〞と尋ねると〝う〜ん……カウアイ〞って。俺も空港でレンタカーを借りて走り出すと、毎年、同じ地点で涙がふっと出る。なんで泣けるのかわからん。ぼろぼろ泣くんじゃなく、つ〜んとなって涙が出る」

 でも終の棲家となると話は別、であるらしい。

 「行きたいときに行くから、そこがいい。難しいもんだよな」

『土を喰らう十二ヵ月』では、山歩きに詳しい地元の大工を演じた火野さん。

 

自分に21世紀は来んやろと思ってた

 「もうほぼいけるやろ」

 火野さんは話を切り上げようとするので、慌てて映画『土を喰らう十二ヵ月』の話に戻す。少年時代に京都の禅寺で精進料理を学んだという水上勉による料理エッセイを、『ナビィの恋』の中江裕司監督が脚色。信州の人里離れた山荘で暮らす作家、ツトムの四季を綴る。ロケ地は長野県白馬村(はくばむら)に残された茅葺き屋根の大きな古民家だった。床が黒光りしていて囲炉裏があり、かまどでご飯を炊く。

 「いい家だったぞ〜。50年近く、もう誰も住んでいない集落らしいけど、景色もよくてな。居間の大きな窓からは北アルプスが一望できて」

 沢田研二さん演じるツトムは自ら収穫した野菜を使い、手間を楽しむように日々料理する。冬は室(むろ)で野菜を保存し、春には山菜を採って。献立は畑と相談し、季節をそのままからだに取り込むように食す。出てくる料理は、どれも本当においしそうだ。こんな生活はどうですか?と、火野さんに尋ねる。

「俺さ、ガキの時分は岐阜県の大垣(おおがき)で。今と違ってもっと田舎だった。伊吹山(いぶきやま)がランドマークみたいになっていて、水の町なんだよ。水がキレイで、子どものころは揖斐川(いびがわ)でよく遊んだ。でも冬は寒いぞ〜。〝伊吹おろし〞といってな、日本海から吹いた風が伊吹山に当たって、乾いた冷たい風が吹き下ろしてくる。寒いぞ。田舎はいいけど、信州も寒いだろうなぁ……。雪は、遠くで見るのがええわ」

 火野さんが演じたのは、ツトムの知り合いの大工さん。

 「役づくり? そんなのできるもんと違うやろ。昔から仕事のやり方は同じで台本を読み、何をやる係かな?と考えて。あまり湿っぽかったら笑わしたろと思うし、おちゃらけ過ぎていたらシュッとしようと思う」

 大工さんは、ツトムに山歩きを教えた師匠。2人は焚き火を囲み、タラの芽を焼いて食べる。「昔の人はうめぇもん食ってたんだなぁ」なんて言いながら。

 「俺もタラの芽のある場所を京都で1カ所知ってるよ。物心ついてから女の人が切れたことはあっても、犬が切れたことはないんだけど(笑)、犬っころと一緒に山へ入っていくんだ。タラの芽を見つけ、あと数日かなと採らずに帰って。3〜4日後に行ってみたら、キレ〜イにもうない。知ってる人は知ってるんやな。もっと奥に入ったところに倒木を見つけたことがあって、キノコが金色に輝いてるやんか。ヌメリスギタケだと思うけど、確かにそうかわからん。そういうときはとりあえず人に食わせる」

 そう笑う火野さんだが、草木や虫には詳しい。視聴者の手紙に書かれたこころの風景を訪ねて自転車で旅する『にっぽん縦断 こころ旅』(NHK BSプレミアム、4K)。12年目になるこの番組でも、ふと自転車を止めてノビルを採ったりする。

 「誰でも普通に知ってることくらいやけどな。でもザリガニやウナギやスズメを、仕掛けをつくって獲るのはうまいぞ。野山で遊んでいたのは確かだから。そいでだんだん年をとり、女遊びになって、えらいことになっちゃったんだけど」

「俺には人の偉いか偉くないかの区別がつかんから、誰でもしゃべり方は一緒」

 

 『土を喰らう十二ヵ月』もまた、大人の恋愛モノのようでもある。

 ツトムには年の離れた恋人がいる。松たか子演じる担当編集者の真知子。知的な美人だけど気取りがなく、ツトムの手料理を「おいしい!」と言いながらぱくぱくと食べてよく笑う。でも真知子は、ツトムが亡き妻の遺骨を居間に置いたままなのが気になっている。ツトムのほうも顔には出さないが、年齢差がどこかで引っかかる。

 「最初ツトムは〝真知子、ここに住まないか〞と言う。それで真知子が〝暮らす〞と言うと〝暮らすな〞って。そんなかわいそうな話はないやん。でも女はな……早い。男よりはるかに切り替えがうまい。例えば金持ちから急に貧乏になったら、男は自殺するけど女は平気や。貧乏から金持ちになっても、女はずっと金持ちみたいだけど、男は成り上がりもんみたいになる。男と女は違うで」

 さすがの説得力! そんな火野さんに、もっと男女の話を聞きたくなる。

 「ガキの時分は大概の男がジェームズ・ディーンに憧れて、俺もご多聞に漏れずだった。でもフランスのジェーン・バーキンという女優さんが来日したときに、飛行機から降りてくるのを見て。後ろに、汚れてるやろ襟!と思うようなシャツを着たおっさんがいた。セルジュ・ゲンズブールやねん。それで明らかにジェーン・バーキンはこのおっさんにほれてるのがわかる。それを見て、ああ男の格好よさってこれやなと。格好悪くても、格好ええねんて」
 
 50歳くらいまではそう思っていたそうだが、「73になったらようわからん。今は喧嘩も弱いやろうし」と笑うさまもなんとも魅力的。よく〝人間味〞と言うけれど、味があるというのは火野さんのような人を言うのだろう。怖くて優しく、弱くて強い。繊細でありながら、まあどうでもええやろ、みたいなおおらかさが前面に出るようでもある。全部が適当なようで、これだけは譲れないという美学がその芯を貫くよう。モテないわけがない、男にも女にも。

 「『こころ旅』をやるまで、人類の半分以上は俺を大っ嫌いやろと思ってたんやけど。新聞に〝女の敵〞と書かれたこともあるし。でも、あれ〜?って。人って違うんや、あったかいもんやなと。俺には人の偉いか偉くないかの区別がつかんから、誰でもしゃべり方は一緒。そのなかで面白いおばちゃんおじちゃんがいたり、カワイイ子どもがいたり。なんで続いているのかと思ったら、楽しいからやな」

 映画の後半、ツトムは死と向き合う。寝床で、「いちど死んでみることにした。皆さんさようなら」とか言って、朝にはいつものように目を覚ます。

 「若いころは、自分に21世紀は来んやろと思ってた。やんちゃしてたし、親父もからだが強くなかったしな。それがいつの間にか21世紀になり、60歳の自分なんて考えもしなかったのに、まだ生きてる。もうそろそろええやろ、とは思うけど」
 
 73歳は予想と違って大人ですか?と尋ねると、「いや大人を通り越してるから!」と突っ込まれる。そんな火野さんを見ていると、年齢を重ねるのも悪くなさそうだと素直に思える。劇中の沢田研二さんもスター歌手の華やかさを潔く脱ぎ捨てて、まさに小説家のたたずまい。

 「最後に曲が流れ、ジュリーだ!って思ったよ。あのころより今の歌のほうがすてきだなって」

 歌も演技も、年齢や経験を重ねたからこそ到達できる領域があるのだろう。火野さんは以前、大切にする言葉として米国の作家チャールズ・ブコウスキーの「考えるな、反応しろ」を挙げた。それは自身が目指す芝居にも共通するのだろうか?

 「さっき役づくりの話が出たけど、つくっても相手がいることで。反応し合うのがお芝居になるんやと思う。そのほうが楽やん。反応できなかったら、しなければいいんやから。でも芝居のうまさってよくわからんな。子役なんて、なんも芝居してなくてもいいなと思うじゃないか。うまい役者って、画(え)がうまいのかな。画に映った自分をつくるのが。そんなんがうまくなりたいと思うけど……って、こんなんでええか? ありがとさん」

 

『土を喰らう十二ヵ月』( 配給:日活)
●監督・脚本:中江裕司 ●原案:水上勉『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』(新潮文庫刊)、『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』(文化出版局刊) ●出演:沢田研二、松たか子、西田尚美、尾美としのり、瀧川鯉八、檀ふみ、火野正平、奈良岡朋子 ●11月11日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開

信州の山荘で犬のさんしょと暮らす作家のツトム(沢田研二)。日々の楽しみは、畑で穫れた野菜や山で収穫する山菜で料理をつくること。時折、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてきて、一緒に食卓を囲む。少し離れたところで畑を耕しながら1人で暮らす義母のチエ(奈良岡朋子)を訪ねたり、世話になった禅寺の和尚の娘、文子(檀ふみ)が訪ねてきたり。ある日チエが亡くなり、山歩きの師匠である大工(火野正平)に棺桶と祭壇づくりを頼む。
ⓒ2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会 https://tsuchiwokurau12.jp/

 

文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 

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