ペット探偵がペットと飼い主の絆、そして家族の絆を取り戻す――。湘南を舞台にした映画『海岸通りのネコミミ探偵』が公開されます。ちょっと変わり者のペット探偵を演じるのは和田正人さん。映画のこと、子育てのこと、箱根駅伝のこと、そして故郷である高知県土佐町(とさちょう)のこと。たっぷりとお話を聞きました。
掲載:2023年1月号
ペットと、家族と、〝絆〞が1つのテーマ
「僕自身、ペット探偵という職業を初めて知りました。これだけペットとの生活が広まった世の中で当然あるべき職業だなと。依頼を受けたらその家の周り、地域をリサーチしてペットの生態を考えて。しっかり準備が必要だけど、のんびりしてると見つけるのが難しくなるらしくて」
映画『海岸通りのネコミミ探偵』でペット探偵の猿渡(さるわたり)を演じた和田正人さんはそう切り出した。和田さん自身、ポメラニアンを飼っている。「イヴちゃん、ウに点々のほうです」と表記を念押しする。
「もともと僕が飼っていた犬ですけど、すっかり妻になついちゃってます。今はもう当たり前に溶け込む家族の一員で。だからこそ、突然いなくなったら?と考えると、ペット探偵が題材の映画って多くの人の心にすっと入っていけるんじゃないかと」
猿渡はもじゃもじゃ頭に丸サングラス、ド派手なアロハシャツというインパクトあるキャラ。どこか格好いい人でもある。
「こういう役でのお手本は『シティーハンター』の冴羽獠(さえばりょう)。おちゃらけてるけどやるときはや
る、その格好よさです。それで見た目は完全に崩しました! ペット探偵って?と思ったらヘンなやつが出てきた。なんだろうコイツ……?という出オチが大事と、パンチの効いたキャラクターにしたくて。僕はもともと眼鏡が好きで。いつか探偵をやるなら『探偵物語』の松田優作さんのような……と思ってましたが、あの大きさのサングラスだと目が見えない。目を見せたいと思ってネットで探し、購入して衣装合わせで提案しました。髪形なども劇中で彼が〝堅い仕事をしていたけど居心地のいい場所を求めた〞と語るように、どこかで一気に解き放たれた自由さみたいなものを表現したくて」
猿渡のもとにはモルモット、ミドリガメと次々依頼が舞い込む。
「本来あるべきペットと飼い主の絆、家族の絆と、〝絆〞が1つのテーマ。ペットや家族に対して、たまに雑になるときが当然あるけれども、優しさを持ってていねいに接していこうと思えるような、見終えたあと少〜しだけ心が温かくなるような映画なんです」
3歳の長女がいきなり添い寝!
猿渡は見た目だけでなく、事務所も個性的。どこかアメリカンで、古いものと新しいものがセンスよく混在。手づくり感もあって居心地よさそうだ。和田さん自身、自宅のベランダ目隠しなどでDIYを楽しんでいる。
「あの事務所にはアンティークの看板がたくさんあって。自分でもサーフボード型の看板を探してベランダに付けたり、だいぶ参考にしました。今まさにそこで妻が、ご両親らを呼んでバーベキューしてます。僕は準備だけして、〝じゃあすいませんお義父さん〞と、ここに来ましたから!」
10月に第2子となる男の子が生まれたばかりで、3歳の娘さんと2人のパパ、さぞやカオスな日々では?と尋ねると、「息子はまだ寝てばかりでおとなしいけど、2年後くらいはカオスかも」と笑う。
「長女は春から幼稚園で、面接は人生でいちばん緊張しました! 妻は出産直後だったので僕だけで付き添わなきゃならず、準備が大変で。普段から遊んだりお風呂に入れたりはしてますけど、基本はまだ、〝ママ、ママ〞。面接でママがいなくて、わ〜!となったら困るので、1カ月ほどかけて寝かしつけをしたり積極的にかかわって。だいぶパパを頼ってくれるようになったけど、今はもう〝ママ、ママ〞に戻りました(笑)」
パパ業に奮闘する姿が目に浮かぶよう。そんなパパの優しい目線の先に、新生児と3歳児とイヴちゃんがいる。かわいい上下関係はどんな感じ?
「娘にとってはイヴ先輩、パイセンみたいです(笑)。それで新たに弟がやってきて、最近はお姉ちゃんらしく〝イヴちゃんだめっ〞と犬にマウントを取り始めてます。ペットって、子どもの成長にいい。小さい生き物の世話を覚え、あと何年かしたら亡くなるわけです。そのときに命の尊さを学べる。いいパートナーになっているんじゃないかと」
2人目が生まれると女の子は下の子の面倒を見てくれるよ、周囲にそう言われていた。
「そんなことある?と思うじゃないですか。まだ甘えん坊だし、やんちゃだし。そしたら下の子が病院から帰ってきた瞬間、僕が目を離した隙にベビーベッドのサークルに入って。背中をトントンして、そのあと急に添い寝を始めたんです。そしたら息子が本当に寝た。いきなり添い寝した!と感動しました」
〝在りのままに。在るべき形へ。とにかく貴方らしく人生を歩んでほしい〞、それが生まれたばかりの我が子へのメッセージ。
「大人になると生きていくって大変だなとか、いろんなものに影響を受けながらこうあるべきみたいなことを考えますけど、常に大事なのは初心の自分。和田正人なら和田正人らしく、自分らしく生きていく。それをまっとうできたやつが勝ちだと、思っているところがあるんです」
そんな和田さんのルーツは、陸上。大学時代に箱根駅伝に2回出場した本物のアスリートだった。そこから俳優へ、25歳での転身。そこには真っすぐな道が続いていた。
「スポーツって30歳前後が体力の限界。そこで一線を退き、別の仕事を見つけないといけない。実業団として企業に所属してサラリーマンをやるとか、教員免許があるので地元に戻って教師になって陸上を指導するとか。でも、なんかワクワクしないなと。ず〜っとプレイヤーとして走ってきて、それが人生の途中ですぽ〜んとなくなったとして。そのあとサラリーマンや教員になっても60歳くらいで終わるでしょう? そうではなく、自分はプレイヤーとして走り続けたい。ぎりぎりのところで戦っているのが好きなんでしょうね」
当時所属していた陸上部が廃部になるタイミングで陸上をやめようと決断。翌日にはオーディション雑誌を買っていた。
「あのときの行動力は、すげぇな!と自分でも言えるくらいで。覚悟を決めたのだと思います。大学への道を切り開いてくれた高校時代の陸上の恩師は、将来、僕を後継者にしたかったと思うんです。それに……ウチは父親とじいちゃん、ばあちゃんが、兄と僕を育ててくれたのですが、親父は再婚もせず、酒も飲まない。タバコも吸わない人で仕事一筋。あの人の楽しみは?といったら、陸上をやる僕を応援することでした。だから陸上をやめて芸能界に入るのは、そんな親父の期待や応援してくださるたくさんの人の恩を裏切ること。しかも敷かれたレールを走るような生き方だったのが、初めて大脱線したんです。だからこそ相当な覚悟でした」
そうしてスタートダッシュを成し遂げ、あっという間に舞台やドラマや映画で出演作の絶えない実力派として定着した。
「もちろん慣れてくるところはあります。昔は毎回緊張したのがほどよい緊張感になり、人見知りだったのが、少しはコミュニケーションを取れるようになった。それで自分とは違う職業の違う人間を演じるのだから、いつも新鮮です。それで毎回面白い。将来、何になるのか悩んだ自分がいろんな職業を体験でき、こんな最高なことはないです」
それでもまだまだ、うまくいかないときのほうが多いそう。
「だからこそ、オーディションもそうでしたが、陸上で優勝したり自己ベストを出したときのような喜びがたま〜にある。本音で、よかったぞ!と褒めてもらったり、作品の思いが届いた!と実感することも。するとやめられなくなります。いや、死ぬまでやると決めてスタートしたので、やめようと思ったことはないですけど」
家を建てるなら高知がいい
和田さんは高知県土佐町出身で、熱い高知愛の持ち主。
「でも高校までの18年間いただけで、東京暮らしのほうが長いんです。それに、高知にいたときはそのよさをわかってませんでした。よさこい祭りも8月でしょ? 夏はいつも陸上の合宿で見たことがなくて。もちろんお酒も飲んでませんでしたから、カツオのたたきのうまさなんてわからないし。お酒が飲めるようになって年に1度くらい帰り、地元の友達に教えてもらって、高知ってこんなにうまいものが!?と。よさこいを初めて見たときも、めっちゃ面白いやん!って。今は高知が大好きで誇らしいです」
海も山も、そして四万十川も仁淀川(によどがわ)もある。海の幸のイメージが強いが、鳥、牛、ジビエもおいしい。「自然そのものがアミューズメント施設のようで!」と熱弁が止まらない。
「東京に家を建てたいという願望はまったくなく、建てるなら高知がいい。ライフスタイルのなかで、仕事の形もある程度整って子育ても……下の子が20歳になるのが63歳か。そしたら65歳以降かな。わりと広めの庭がある家を建てたいですね。それで東京と行ったり来たりしながら過ごすのが晩年の夢かも」
現在、自宅にあるベランダで野菜づくりにも挑戦中だ。
「とりあえずやってみて、なるほどこうすると枯れちゃうのか……とかね。来シーズンは種類を減らし、一つひとつ勉強しながらできたら。植物って、3日放置しただけで、すご!ってくらいに大きくなる。生命力を感じます。日の当たり方を考えたら背の高いやつはこっち側に植えようとか、そんなことを考えるのも面白くて。ウチの兄貴もニワトリを飼ったり畑をやったり、そんなことにハマってます。釣りも趣味で、大会で優勝したりして。田舎にいるとそういうことができるのか!と」
和田さんってなんだか楽しそうだ。パパとしての素顔はもちろん、ゴルフやマラソンにも本気で取り組んで、生きることを全力で楽しんでいるよう。
「もちろん仕事はできるだけやりたい。でも遊ぶのも大好きで。心が健康的? 確かにストレスはため込まないかも。いい役者ってため込んで、それを役にぶつけるのかもしれないけど、僕はそういうことが全然できなくて。全部発散しちゃう。ちゃんと遊んでないと、心が死んでいくような気がするんですよね」
『海岸通りのネコミミ探偵』(配給:ビデオプランニング)
●監督:進藤丈広 ●脚本:金杉弘子 ●出演:牧島輝、和田正人、菊池爽、尾関伸次、徳井優、星野真里ほか ●シネマート新宿、ムービル、シネマート心斎橋ほか全国順次公開中
湘南の海岸でペット猫のミミちゃんを探していた猫塚照(牧島輝)は、ペット探偵の猿渡浩介(和田正人)と出会う。報酬が払えない猫塚は猿渡の仕事を手伝うことに。ある日、小学生の三浦裕太(菊池爽)がお金を握り締めて猫探しの依頼に。裕太の両親は離婚調停中だった……。
ⓒ2022「海岸通りのネコミミ探偵」製作委員会 https://nekomimi-tantei.com/
文/浅見祥子 写真/菅原孝司(東京グラフィックデザイナーズ)
ヘアメイク/五十嵐千聖 スタイリスト/奥村 渉
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