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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月1日(金)
890円(税込)

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絶対訪れたい世界自然遺産/「東洋のガラパゴス」西表島の自然を守るために知っておきたいこと3選【沖縄県竹富町】

動植物の多様性が認められ、2021年7月26日に「世界自然遺産」に登録された西表島(いりおもてじま)。コロナ禍が終息したら一度は訪れてほしい自然の楽園だ。しかし、観光スポットとして人気を博すこの島には、観光客の増加にともない、ある課題も生まれてきたという。今回は、ガイドブックに載っていない西表島の一面を紹介していこう。

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 西表島がある沖縄県竹富町(たけとみちょう)は、琉球列島(りゅうきゅうれっとう)の最南端にある八重山諸島(やえやましょとう)に属する9つの有人島と7つの無人島からなる島嶼(とうしょ)のまち。

 竹富町は四方が海洋であるため、年間を通して気温の日較差は小さく、湿度は75%と高いことから、亜熱帯海洋性気候と呼ばれている。その特殊な地理と気候が影響し、イリオモテヤマネコに代表される希少な動植物も生息し、その豊かな自然環境と歴史ある伝統文化などを目的に毎年多くの観光客が訪れている。

 「西表島は、2021年7月に世界自然遺産に登録されました。世界自然遺産登録の目的は『顕著で普遍的な価値を有する遺跡や自然地域などを、人類のための世界の遺産として保護、保存し、国際的な協力及び援助の体制を確立すること』とされています。簡単にいうと、残されている貴重な自然を世界の宝として、地域住民だけでなく、みんなで守っていきましょうということです」と話すのは、沖縄県竹富町役場 自然観光課 観光振興係の上地朝奈(うえち あさな)さん。

 しかし、一方で「観光利用による、自然環境や町民生活への影響が生じている現状もあり、持続可能な観光を実現するために、観光事業者だけでなく竹富町の観光にかかわるすべての人が責任と思いやりをもった行動をすることが大切になってきています」と付け加えた。

 そこで今回は、美しい自然を有する竹富町が抱える問題と、その自然を守っていく取り組みについて紹介していこう。

踏圧による樹木や景観の変化

 西表島の大自然を満喫する大人気のアクティビティがトレッキングツアー。なかでも一部のエリア、特にヒナイ川周辺では観光客の増加が加速傾向にあり、8年間で1.5倍に増えている状況だ。

 「平成30年度には、1日に平均80人近い人数がヒナイ川周辺を訪れており、年間で27,000人あまり。この年の西表島の来訪者数は約29万人でしたので、西表島に来訪している約10人に1人がヒナイ川周辺を訪れていることになり、自然環境や景観にも変化が出てきています」と上地さん。


踏圧により負荷がかかり、変形している木の根っこ。


歩きやすいように岩が人の手によって削られた部分(写真上部)と踏圧によって形が変わってしまった岩(写真下部)。

 人が集中することにより、トレッキングコース上にある木の根や岩が、人の踏圧によって劣化してしまっているのが現実だ。ヒナイ川にはひと昔前まで遊覧船が乗り入れており、トレッキングしやすいようにと、岩を削って歩道の整備を進めてしまった過去がある。現在はそういったことはないのだが、そのダメージが年々広がり、本来の姿から大きく変わってしまっているのだ。


巨大な板根(ばんこん)が特徴のサキシマスオウノキ。


人が通りやすいようにと、板根の上部が削られてしまっている。

 かつては少なくなかったサキシマスオウノキも、人の手によって伐採され、今では希少な存在となってしまった。保全に努めているが、トレッキングコースにあるものは元の形から変わってしまったという。

 写真は、昭和57年に発見された樹齢400年と推定されるサキシマスオウノキの巨木。この巨木は、人の手が入っておらず、「森の巨人たち百選」にも選ばれている。その大きさは樹高が18m、板根は最高で3.1mと極めて大きく、見る人を圧倒する。


同じ時間帯に多くの人が集まってしまい混雑している港(写真左)と、人気エリア・ヒナイ川周辺の滝下で順番待ちをしている様子(写真右)。

 また、人気エリアのヒナイ川周辺ではピーク時に1日200人以上が訪れることもあり、環境への負荷のほか、混雑による満足度の低下の懸念が生じており、近年ではオーバーツーリズムによる影響が出てきている。

 それらの課題を解消するため、2024年より本格実施予定の西表島エコツーリズム推進全体構想に基づき、ヒナイ川や古見岳などの人気エリア及び、貴重な動植物が生息している自然環境保全上、特に重要なエリアでは、年間を通じて、「1日に何人まで訪れることができる」というような人数制限が課されることとなった。「特定自然観光資源」といわれるこのエリアは島内5か所が指定されている。

 これによって、ヒナイ川にあるピナイサーラの滝は2024年以降、1日あたりの立ち入り上限が200人となり、違反者には罰則が設けられていることから、特定自然観光資源の適正利用に向けた実効性が期待される。

 また、「西表島は、山に分け入るトレッキングやマングローブの発達した川をカヌーやSUPで巡る自然体験ツアーが人気を集めており、その人気に伴って、西表島の陸域ガイドの事業者数も急激に増加しています。
 ガイド事業者の増加自体が問題というよりは、ガイド事業者の中には自然環境や住民生活への配慮、安全管理が充分ではない事業者も存在しており、今後もそのような事業者の参入が問題視されているところです。特に西表島の場合は、訪れた観光客の約8割がガイドツアーに参加する形で自然体験型の観光を行っておりますので、ガイド事業の在り方が西表島の観光全体に大きな影響を与えるといえます。

 そこで、竹富町ではこのような課題に対応していくため、国内初となる自然ガイドの免許制度である『竹富町観光案内人条例』を2020年度よりスタートさせました」(上地さん)


観光案内人条例は、西表島の属島や河川域を含む西表島の陸域を対象に自然体験型のガイド事業に町長が交付する免許を取得しなければならない。

 現段階で、免許取得の条件自体は、救命救急講習の受講や水難救助員の資格の取得など、全国のほかの制度に比べて特別高い基準というわけではない。これは、高い技術や知識、経験を持つ質の高いガイド個人を認定する認定制度ではなく、最低限の基準を満たさない事業者をなくすこと、ガイド事業の適正化を目的とした免許制度としているからなのだ。

 本来あるべき島の自然の姿を後世までつなげていくために、アクティビティでもマナーを考えていかなければならないのだ。

 

イリオモテヤマネコの交通事故死が急増

イリオモテヤマネコ
国の特別天然記念物のイリオモテヤマネコ(はく製)。

 イリオモテヤマネコは、西表島だけに生息する国の特別天然記念物で、個体数は推定でおよそ100頭ともいわれ、日本国内で最も絶滅のおそれの高い動物のひとつ。小さな島にイリオモテヤマネコのような肉食獣が生息しているのは世界的にも稀なケースで、1965年に発見が報じられた。その後、1967年に新種として認められ、20世紀の生物学的大発見として話題となった。


西表野生生物保護センターの内野祐弥さん(写真左)と田中詩織さん(写真右)。

 「観光客の増加に伴い、島内でのレンタカーの利用も増え、交通量が多くなってきています。イリオモテヤマネコの交通事故はここ数年、過去最悪のペースで発生しているんです。2018年には9頭が車にはねられて死亡してしまいました」と語ってくれたのが、イリオモテヤマネコの生態について研究している西表野生生物保護センターの内野さんと田中さん。

 「イリオモテヤマネコは肉食で何でも食べる習性があり、カエルなどの小動物が道路で事故にあい、そのひかれた死体を食べに道路にやってくることがあります。センター近くでは、生まれたばかりの仔猫がすくすくと成長し、元気に動き回っているようです。嬉しい半面、道路付近での目撃が多いため、事故の危険と隣り合わせで、とても心配です」と話してくれた。

 イリオモテヤマネコは主に夜行性で、特に日暮れ時や明け方に活発に動く。好奇心旺盛な仔猫が車のヘッドライトに反応して飛び出してしまうケースも多いのだとか。 また、ときには昼間にも動くこともあり、車のスピードが出やすい道路では注意が必要だ。

 西表島には、島の周囲3/4の海岸線に大きな道路が走っており、年間で300~500件のイリオモテヤマネコの目撃情報がセンターに寄せられている。その情報をもとに、動物のロードキル防止を促す看板を設置したり、道路下に動物が横断できるアンダーパスを設置するなど、様々な対策を施している。

 また、一部のレンタカーには、制限速度の時速40㎞を超えると「このあたりでイリオモテヤマネコの交通事故が発生しています」などと、警告メッセージが流れるナビを搭載した車種まであり、島全体で保全に取り組んでいるのだ。

 約100頭しかいないイリオモテヤマネコにとって、年間数件の交通事故を起こすだけでも、種の絶滅の加速につながってしまう。そのことを頭に入れて、西表島での安全運転を心がけたい。

 

ビーチクリーン活動や日本初の星空保護区として街灯を改修

 竹富町内のほぼ全域が、日本初の星空保護区として、2018年3月国際ダークスカイ協会(IDAA)に認定されている。

 星空保護区の主な目的は、「光害(ひかりがい)の影響のない、暗く美しい夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称え、夜空保護の重要性、光害問題の現状と対策について、広く啓蒙すること」。光害とは、照明の設置方法や配光が不適切で、景観や周辺環境への配慮が不十分なために起こるさまざまな影響を指している。

 「竹富町では全天88ある星座のうち84の星座を見ることができ、21個の1等星もすべて見ることができるといわれています。本州では上空に流れるジェット気流(大気の揺らぎ)の影響を受けて、星がチカチカと瞬いていますが、西表島の上空はこのジェット気流の影響が少なく、星が瞬かずにクリアなため、観察しやすい環境にあります。たとえば3月、4月頃には、我々のまわりを数千匹のヤエヤマヒメボタルが飛び交うなかで星空を見ることができます。5月、6月でしたら南十字星が見えますし、梅雨が明ける6月から11月にかけては天の川銀河がきれいに見えます」と話すのは、島内で星空ナイトツアーを運営している望月達平さん。

 「卵から孵化したウミガメの赤ちゃんが、ちゃんと海に帰れるのは、満月に照らされた海がそこにあるから。もし、街灯や自動販売機のほうが明るければ、そちらに行ってしまいますよね。野生動物には光に引き寄せられたり、逆に光を嫌がって逃げてしまったりと、様々な影響があります。また、街路樹や農作物にも光の影響を受けるものがあって、出穂の遅れや開花の促進、落葉の遅れなど、植物の成長にも影響を与えるんです」と続けた。

 広い海に囲まれ、近くに都市の明かりのない西表島。日本の最南端という位置にあるため、都会と比べ、もともと光害の影響は少ない地域ではあるが、星空環境保護のための街灯の改修をスタートさせた。

 星空を守るために、むやみに街の光を消すというわけではない。必要な照明を消すことなく、景観や周辺環境に配慮したうえで、光を上方向に向けない工夫をするなど、星空環境に影響を与えないように街灯を改修しているのだ。それにより、星空を見えにくくする原因を減らしながら、快適で安全な暮らしを確保し、適切な光環境を作り上げている。

 世界トップクラスの夜空を眺められる西表島はこういった努力のもとに形成されているのだ。

 また、エメラルドグリーンの海で人気のビーチも、地元の人々の努力によって環境保全されている。


ビーチにうちあげられた漂流物(撮影時は雨天)。


浜辺で拾ったペットボトル。

 浜辺で目につく大小のゴミ。よく見てみると、実は海外からの漂着物が多いことがわかる。西表島がある竹富町は、東京から約2,000㎞、沖縄本島からは約450㎞。同じ県内の那覇市より、台湾の方が近い場所にあるのだ。近隣の東アジアや東南アジア諸国を中心に世界中からゴミが流れ着いていることがわかる。

 西表島には漂着ゴミを処理できる施設がなく、そのため、回収した漂着ゴミはすべて隣の石垣島に運び、産業廃棄物の最終処分場で処理される。流れ着いたゴミを処分するだけなのに運搬と処理には多額の費用がかかり、国の予算だけでは充分とはいえない現状だ。

 「西表エコツーリズム協会では、1バッグビーチクリーンという運動を行っており、ゴミ袋を500円で買い取ってもらい、処理費用に充てながら海岸清掃を行っています。本活動ではゴミをたくさん拾うクリーンアップ自体が目的ではありません。漂着ゴミを1袋分拾う間にゴミ問題について触れ、感じ、考え、ご自身の身の回りにも意識を向けるきっかになればいいなという起点作りを目指しています。ゴミは拾うことと合わせて減らしていく意識が重要です。残念ながら、現段階ではゴミ袋代だけではとても処理費用に追いついていません。西表のビーチをきれいにするためにも、小さな1袋から風をおこしていきましょう」と沖縄県カヤック・カヌー協会の理事・近澤佐恵子さんは語ってくれた。

 普段の生活はもちろんのこと、旅先での過ごし方に優しい気配りが求められる時代。なるべくマイボトルやエコバッグを持参する、できる限り外からのゴミは持ち込まないなど、旅先でもゴミを少なくする工夫をしながら旅を楽しんでもらいたい。

またねっ! と、言いたいから。

竹富町が制作した最新のコピー・ビジュアル。

竹富町は、昨年、コピービジュアルを作成し、全国に向けて環境保全へのきっかけづくりを進めている。

 「このコピーの意図として、“またね”というのは、次があるということ。今後も、これからも、といった未来を見据えた言葉です。また、どちらか一方が言っている言葉ではなく、町民も来訪者も双方が言い合っている言葉として想定しており、何度も行きたくなる、何度も訪れてもらえる、持続可能な、といった意味合いが込められています。
 “またね”と言いたいから、のあとに想起させる言葉としては、来訪者側であれば、“またね”と言いたいから『マナーを守るね』であったり、『きれいでいてね』『竹富町のことをもっと知っておくね』であったり、町民側であれば、“またね”と言いたいから『そのままの竹富町でいるね』であったり『一緒に自然を守ろうね』など様々な思いが想起させられるかと思います」と、島と人をつなぐ思いを竹富町役場の上地さんが最後に語ってくれた。

 

 またねっ!

 心地いい言葉だ。

 竹富町の“今”を知らなかった人も多いだろう。

 素晴らしい日本の風景を後世まで引き継ぐために、我々も自然環境について考え、美しい世界自然遺産を一緒に守っていきませんか!

田舎暮らしの本編集部

写真/大村聡志

この記事の画像一覧

  • 国の特別天然記念物のイリオモテヤマネコ(はく製)
  • 西表野生生物保護センターの内野祐弥さん(写真左)と田中詩織さん(写真右)
  • イリオモテヤマネコが出没したポイントをまとめている
  • 国の特別天然記念物のイリオモテヤマネコ(はく製)
  • 踏圧により負荷がかかり、変形している木の根っこ
  • 歩きやすいように岩が人の手によって削られた部分(写真上部)と踏圧によって形が変わってしまった岩(写真下部)
  • 巨大な板根(ばんこん)が特徴のサキシマスオウノキ
  • 人が通りやすいようにと、板根の上部が削られてしまっている
  • 昭和57年に発見された樹齢400年と推定されるサキシマスオウノキの巨木
  • 西表島から見える星空
  • 西表島のビーチにうちあげられた漂流物
  • 西表島の浜辺で拾ったペットボトル
  • 観光案内人条例は、西表島の属島や河川域を含む西表島の陸域を対象に自然体験型のガイド事業に町長が交付する免許を取得しなければならない
  • 1バッグビーチクリーン運動

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