管楽器の音色の要となる部品「リード」は、素材の暖竹(だんちく)をヨーロッパで栽培することが多い。だが、その栽培に憧れた廣瀬修平さんは、気候のよく似た島で夢を現実に変えた。それは離島の助け合い精神のおかげでもあるそうだ。
掲載:2023年2月号
150万円で購入した自宅の庭に研究所を移設
古くは城下町として栄え、讃岐富士(飯野山)の麓に広がる田園風景が美しい丸亀市。市街地から船で20分ほど行くと、28の島々からなる塩飽(しわく)諸島の1つ、広島へと到着する。人口200人ほどのこの島で暮らす廣瀬修平さんは、2017年に妻の千裕さん(36歳)とともに神奈川県横浜市から移り住んだ。
島で廣瀬さんが栽培しているのは、暖竹。サックスやオーボエなど管楽器の吹き口に使われる「リード」の素材となる。日本でも自生しているが、高温多湿の環境下では安定したパーツとしては使えず、主に乾燥した気候のヨーロッパ産のものが使われている。
「しかし、雨の少ない岡山県や香川県でなら、リード用の暖竹の栽培が可能なんです」
と、目を輝かせる修平さん。故郷の北海道では、学生時代にオーボエ奏者を目指す。14歳からリードを製作し、管楽器の研究開発者である長松正明さんの調整器具を購入した際に、その性能のよさに感動。以降、長松さんに師事し、横浜で「廣瀬管楽器研究所」を開業。管楽器のリード製作や販売を行っていた。
繊維の密度ひとつで音色の変わるリードの奥深さにのめり込み「原料から栽培したい」と望むように。しかし、夢がかなったのは偶然の産物だそうだ。
「昔から自然と一体になる暮らしがしたくて、いつかは私か妻の故郷に戻りたいと考えていました。結婚の挨拶で妻の祖父の生家があった広島を訪れた際、長松さんから『そこは暖竹の栽培に適している』と教えられ、ご縁を感じたのです」
とはいえ、家がすぐ見つかるとは考えていなかった。しかし偶然知り合った自治会長が紹介してくれた庭付きの一戸建てを気に入り、約150万円で購入。約70万円かけて敷地内に研究所も移設した。千裕さんの親戚からは、暖竹を栽培する畑も借りられ、準備が整った。
やはり親戚のいる土地は有利なのか。「そうとも言えますが、夫が積極的に島の人とコミュニケーションをとったことも大きな理由です」と語る千裕さん。修平さんは照れ笑いをしながらも、「この島には、日用品を扱う店や交番がありません。船が1日7便出ているので、あまり不便には感じませんが、それでも島民同士が助け合うという文化が、私たちの挑戦を支えてくれたと感じています」と語る。
平日の午前中、市街地の銀行でパートタイマーをしている千裕さんは、街でスイーツなどを買って帰り、夫と食べるのが楽しみだとほほ笑む。庭で大好きなニワトリを飼い、ゆったり自然を観察するうちに「昔やっていた日本画を再開しました。いつか地域で個展を開きたい」と、絵を見せてくれた。
1つの夢をかなえることで、また次の夢が生まれる。移住への一歩はそのきっかけとなったようだ。
廣瀬さん夫妻に聞く 田舎で夢をかなえるために大切なこと
「変化する自分を楽しむこと!」
その土地で培われた文化や風習には、自分を変えたり成長させてくれる力があります。なので、計画や考えの変化を楽しむ余白を持って行くといいですね。また田舎では、物事を決めたり慣れていくという時間のスパンも長いので、すぐに成果が出なくても落ち込む必要はありません。そういった道のりも含めて、夢をかなえる醍醐味です。
【丸亀市】移住支援情報
東京圏からの移住世帯や島での暮らしにも支援充実
学校や病院、商業施設などが揃い利便性が高い一方で、のどかな田園風景が広がる丸亀市。東京圏から移住し就業等の要件を満たす世帯へは、移住支援金(最大100万円)がある。また個性豊かな塩飽諸島でも、島暮らし体験プランや空き家リフォーム工事への補助金(最大200万円、条件あり)などが充実。移住相談も随時受け付け中。
問い合わせ/市長公室秘書政策課 ☎0877-24-8839
https://www.marugame-happylife.jp
文・写真/吉野かぁこ
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