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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

瀬戸内の島で暖竹を栽培して、管楽器のリードを製作【香川県丸亀市】

管楽器の音色の要となる部品「リード」は、素材の暖竹(だんちく)をヨーロッパで栽培することが多い。だが、その栽培に憧れた廣瀬修平さんは、気候のよく似た島で夢を現実に変えた。それは離島の助け合い精神のおかげでもあるそうだ。

掲載:2023年2月号

香川県丸亀市 まるがめし
香川県の海岸線側ほぼ中央部に位置する人口約11万人のまち。温暖少雨で年間降水量約1000mm。市内には塩飽諸島の5つの有人島があり、広島は上質な石材「青木石」の産地でもある。羽田空港から高松空港まで飛行機で約1時間20分。空港からリムジンバスでJR丸亀駅まで約1時間。

 

150万円で購入した自宅の庭に研究所を移設

廣瀬修平さん●39歳
故郷の北海道では大学でオーボエ奏者を目指す。14歳からリード製作を始め、神奈川県横浜市で「廣瀬管楽器研究所」を開業。2017年に当時恋人だった千裕さんの祖父の故郷、丸亀市の広島に移住し結婚。研究所も島内に移設し、リードの製作や販売を行う。写真の暖竹は、10月~12月が収穫の目安。株の植え付けから素材として使えるまでに約4年。理想のリードの形状に合わせ、間引きや水やりなどで節や太さ、繊維の密度を調節する職人技だ。
「廣瀬管楽器研究所」https://hirose-wind-instrument-laboratory.jp/

 古くは城下町として栄え、讃岐富士(飯野山)の麓に広がる田園風景が美しい丸亀市。市街地から船で20分ほど行くと、28の島々からなる塩飽(しわく)諸島の1つ、広島へと到着する。人口200人ほどのこの島で暮らす廣瀬修平さんは、2017年に妻の千裕さん(36歳)とともに神奈川県横浜市から移り住んだ。

 島で廣瀬さんが栽培しているのは、暖竹。サックスやオーボエなど管楽器の吹き口に使われる「リード」の素材となる。日本でも自生しているが、高温多湿の環境下では安定したパーツとしては使えず、主に乾燥した気候のヨーロッパ産のものが使われている。

 「しかし、雨の少ない岡山県や香川県でなら、リード用の暖竹の栽培が可能なんです」

 と、目を輝かせる修平さん。故郷の北海道では、学生時代にオーボエ奏者を目指す。14歳からリードを製作し、管楽器の研究開発者である長松正明さんの調整器具を購入した際に、その性能のよさに感動。以降、長松さんに師事し、横浜で「廣瀬管楽器研究所」を開業。管楽器のリード製作や販売を行っていた。

 繊維の密度ひとつで音色の変わるリードの奥深さにのめり込み「原料から栽培したい」と望むように。しかし、夢がかなったのは偶然の産物だそうだ。

 「昔から自然と一体になる暮らしがしたくて、いつかは私か妻の故郷に戻りたいと考えていました。結婚の挨拶で妻の祖父の生家があった広島を訪れた際、長松さんから『そこは暖竹の栽培に適している』と教えられ、ご縁を感じたのです」

 とはいえ、家がすぐ見つかるとは考えていなかった。しかし偶然知り合った自治会長が紹介してくれた庭付きの一戸建てを気に入り、約150万円で購入。約70万円かけて敷地内に研究所も移設した。千裕さんの親戚からは、暖竹を栽培する畑も借りられ、準備が整った。

まるで秘密基地のような廣瀬管楽器研究所の内部。窓の外でそよぐ庭の緑が、時間を忘れさせる。

茎の幅を削って、オーボエ用リードのサイズに合わせる。リードは多いときで1日約20本を製作する。

養蜂で採った蜜蝋を塗って、リードの隙間を埋めることもある。顧客は故郷、北海道にある学校や吹奏楽部の生徒など。完成品は彼らから心待ちにされている。

暖竹は、師である長松さんが入手し育ててきたフランス産の株を分けてもらい、大切に育てている。

 

 やはり親戚のいる土地は有利なのか。「そうとも言えますが、夫が積極的に島の人とコミュニケーションをとったことも大きな理由です」と語る千裕さん。修平さんは照れ笑いをしながらも、「この島には、日用品を扱う店や交番がありません。船が1日7便出ているので、あまり不便には感じませんが、それでも島民同士が助け合うという文化が、私たちの挑戦を支えてくれたと感じています」と語る。

 平日の午前中、市街地の銀行でパートタイマーをしている千裕さんは、街でスイーツなどを買って帰り、夫と食べるのが楽しみだとほほ笑む。庭で大好きなニワトリを飼い、ゆったり自然を観察するうちに「昔やっていた日本画を再開しました。いつか地域で個展を開きたい」と、絵を見せてくれた。

 1つの夢をかなえることで、また次の夢が生まれる。移住への一歩はそのきっかけとなったようだ。

刈り取った暖竹は、島の知り合いに軽トラックを借りて保管場所へ運ぶ。千裕さんの描いた絵がさりげなく飾ってあった。

千裕さんが溺愛するニワトリたちと自宅の庭で。品種はボリスブラウン。生まれた卵は、新鮮なうちに2人の食卓に並ぶ。

広島で産出される花崗岩「青木石」は、澄んだ青色が美しく海に映える。自宅から車で約5分のこの海岸は、2人のお気に入りの場所だ。

 

廣瀬さん夫妻に聞く 田舎で夢をかなえるために大切なこと
「変化する自分を楽しむこと!」

 その土地で培われた文化や風習には、自分を変えたり成長させてくれる力があります。なので、計画や考えの変化を楽しむ余白を持って行くといいですね。また田舎では、物事を決めたり慣れていくという時間のスパンも長いので、すぐに成果が出なくても落ち込む必要はありません。そういった道のりも含めて、夢をかなえる醍醐味です。

 

【丸亀市】移住支援情報
東京圏からの移住世帯や島での暮らしにも支援充実

 学校や病院、商業施設などが揃い利便性が高い一方で、のどかな田園風景が広がる丸亀市。東京圏から移住し就業等の要件を満たす世帯へは、移住支援金(最大100万円)がある。また個性豊かな塩飽諸島でも、島暮らし体験プランや空き家リフォーム工事への補助金(最大200万円、条件あり)などが充実。移住相談も随時受け付け中。

問い合わせ/市長公室秘書政策課 ☎0877-24-8839
https://www.marugame-happylife.jp

市内には人をひきつける場所やお店がいっぱい。丸亀市の公式Instagramアカウント「マルカメラ」では、「#マルカメラ」が付いた投稿の中から、魅力的な写真を選び紹介している。

築城400年以上を誇る丸亀のシンボル「丸亀城」。石垣の名城とも呼ばれ、木造天守は国指定重要文化財となっている。

「お気軽にご相談ください!」
秘書政策課 安藤悠子さん

 

文・写真/吉野かぁこ

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