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田舎暮らしの本 1月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 1月号

12月3日(火)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

深夜帰宅のデザイナーから、生きることに直結した農家に転身【熊本県南阿蘇村】

「自然災害に見舞われても強く生きていける仕事がしたい」と、脱東京と農業への挑戦を決意。選んだ田舎は、帰省のたびに車で通っていた南阿蘇村だった。「3年で専業農家」の目標を達成し、二人三脚で農園を営む村田さん夫妻を訪ねた。

掲載:2023年3月号

南阿蘇村の風景
熊本県南阿蘇村(みなみあそむら)
阿蘇五岳と南外輪山に挟まれた村で、南阿蘇湧水群がもたらすきれいな水や寒暖差によって、おいしい農作物が豊富。登山、サイクリング、バイクツーリング、満天の星など、自然を満喫できるアクティビティを目当てに、県内外から観光客が訪れる。阿蘇くまもと空港から車で約30分、熊本市街地から車で約1時間15分。

 

東日本大震災で考えた、これからの生き方

南阿蘇村へ移住し、農業を営む村田さん家族
2022年12月に生まれた勘太(かんた)くん、長女の寿実(すみ)ちゃん(4歳)も一緒に。子育てと農業の両立に苦戦しながらも、ステップアップに向けて着々と準備を進めている。

 

 東京でグラフィックデザイナーとして約10年のキャリアを重ねていた村田寿政(むらたとしまさ)さん(41歳)は福島県出身。「始発で出勤して深夜に帰宅する毎日でした」と当時を振り返る。

 脱東京を考えたきっかけは、東日本大震災。ライフラインが寸断されてパソコンが使えず仕事もストップ。その経験から「生きることに直結した仕事=農業がしたい」と思いはじめた。宮崎県出身の妻・紘子(ひろこ)さん(40歳)も、「東京の暮らしも楽しかったですが、一生暮らす場所ではないだろうと思っていました」と移住に前向きだった。

 仕事のことや自然災害の不安など、漠然としたモヤモヤを抱えていたものの、移住の決断には時間をかけた。情報収集をしていたときに見つけたのが、働きながら農業を学べる「アグリイノベーション大学校」。夫妻で通うこと1年。農業のおもしろさを知り、移住を実現したいという思いはさらに募った。

 どこで、どんな農業をやりたいかと考えてたどり着いたのが、紘子さんの実家に帰省する際の通り道で、「いいところだな」と感じていた南阿蘇村で有機農業をすること。移住を考えはじめてから約4年間、学び、考え、南阿蘇村へ何度も足を運ぶという準備を重ねたため、「農業も暮らしも、失敗するイメージが全くなかったんです」(寿政さん)。

 特に移住前から意識したのが、「地域とのつながりづくり」だ。農家として独立するために、研修先として訪ねたのが、有機栽培農家で同じ移住者でもある椛嶌剛士(かばしまたかお)さん。「“南阿蘇村・有機農業”で検索したら椛嶌さんの記事が目に入りました。同じ移住者だし、販売手法も私がやりたいことと同じだったんです」と、研修を受け入れてもらった。椛嶌さんのおかげで移住前から地域とのつながりもできたという。

一年間、農業を学んだ椛嶌さん(右)と
1年間師事した椛嶌剛士さん(右)と。研修を終えた今もアドバイスをもらったり、機械を借りたりとつながりが深い。

地域のネットワークで見つけた住まい
椛嶌さんをはじめ、地域のネットワークで見つかった住まい。移住当時は空き家バンクがなかった。

 2015年に移住し、1年間の研修を経て17年に「ことぶき農園」を開園。「農業だけで生活するには3年はかかると見越していました」と、移住当初、紘子さんは看護師の仕事をしながら生活を支えた。長女の妊娠をきっかけに退職し、育児と両立しながら現在は専業農家としてがんばっている。

 野菜と米を合わせた作付面積は1町7反で、栽培スタイルは「少量多品目」。年間約50品目、200種もの野菜を育て、旬の野菜セットとして8〜10種類をパッケージして販売している。

「どんな人が買ってくれているのかを知ったうえで販売したい」と、あえてネット販売をせず、最初は友人や親族など知り合いだけに販売し、クチコミで徐々に集客。地元のマルシェでの対面販売も大切にし、そこで購入してくれた地元の料理人などからの依頼も増えてきた。

「皆さんにとって身近な農園でありたい」と紘子さんは、農家だからこそのレシピ提案やイベント出店を増やすことも視野に入れている。「食で人を幸せにしたい」という2人がつくる野菜が、今日もきっと誰かの食卓を彩っていることだろう。

のびのび遊ぶ
自然いっぱいの環境でのびのびと育っている寿実ちゃん。家の周辺も、畑も楽しい遊び場だ。

ことぶき農園の野菜セット
きれいな水、寒暖差など、恵まれた環境で育った旬野菜を詰め込んだ野菜セット。スーパーではお目にかかれない珍しい野菜も。「ことぶき農園」https://www.facebook.com/cotobuki.jp/

地元の人から受け継いだ田んぼ
地元の人から受け継ぎ、少量ながら米づくりも行っている。野菜と米のセット販売も好評。除草作業も昔ながらの道具を使い、ていねいに育てている。

 

村田さん夫妻にお聞きしました!

Q脱東京してよかったこと

家族揃って食卓を囲めるようになりました。当たり前のことができる幸せを実感しています。(寿政さん)

自然いっぱいの暮らしのなかで、東京とは違う豊かな体験を子どもにさせてあげられます。私自身も田舎暮らしを満喫中です。(紘子さん)

Q東京時代と比べて大きく変わったこと

ストレスの要因が仕事から天候に変わりました。雨が降ったり、風が強かったりすると、作物が心配でちょっとイライラすることも(笑)。(寿政さん)

人とのつながりづくりに積極的になりました。移住者は、地域のコミュニティに自分から入り込む気持ちが大切ですね。(紘子さん)

 

南阿蘇村移住支援情報
空き家を村がリフォームして移住者に貸し出し

 村の気候や地域環境が体験できる「お試し移住住宅」を設置。空き家・空き地バンクで家の紹介を行うほか、村がリフォームした空き家を移住者に貸し出している。成約物件の改修(上限100万円)や家財道具等処分(上限10万円)の助成も。また、新規就農や移住・定住促進プロジェクトなどで定期的に地域おこし協力隊を募集している。
問い合わせ:南阿蘇村定住促進課 ☎0967-67-2705 南阿蘇村移住サイト (minamiasoijyuu.jp)

南阿蘇村の白川水源環境省の名水百選に選ばれた「白川水源」。ほかにも多くの湧水池があり、「水の生まれる郷」として有名。

300年以上もの歴史を持つ「長野岩戸神楽」
300年以上もの歴史を持つ、国指定の無形民俗文化財「長野岩戸神楽」。

 

南阿蘇村の移住担当者
「南阿蘇村は風光明媚で、ゆったりとした時間が楽しめます」
(南阿蘇村定住促進課・課長の山室和夫さん〈右〉、谷口愛美さん)

 

文/黒木ゆか 写真/衛藤フミオ 写真提供/村田寿政さん

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