「さとやママ」とは「里山に暮らすママ」から生まれたグループ名。メンバーの多くは藤枝市の中山間地域にIターン、Uターンした母親で自治体と連携し、中山間地域への移住希望者の相談や地域案内なども行う。母親目線で語る彼女たちの生きた情報は、移住希望者の一助になっている。
掲載:2023年4月号
継続的な移住支援のためママたちが無理せず活動
都市化が進む藤枝駅前と、田園風景が広がる中山間地域。2つの要素を併せ持つ藤枝市は、いわゆる〝トカイナカ〞。都心にもアクセスしやすいことから、子育て世代に人気の移住地であるが、市には1つ懸念事項があった。移住支援を行うのがおもに市役所職員であることから、相談中に異動してしまうなど、継続的な支援がしづらい状況だったのだ。
そんななか、子育てママたちが市の委託を受け、移住支援活動をすることになった。「里山のママ」たちで結成したから団体名は「さとやママ」。発足して4年目を迎えた現在のメンバー数は12人。活動は移住相談や地域の案内などが中心だ。今年度は移住体験ツアーも実施し、参加者から好評を博した。モットーは、「自分のできる範囲で活動すること」。年に1回のミーティングと、不定期に開催するイベントでは、全員が集まるようにしているが、そのほかの活動への参加は自由。それぞれ仕事や子育て、介護などで忙しいからこそ、自分たちの暮らしは大切に。無理をせず、自分の得意分野を活かして活動しているという。
増加する就農希望者に「おむすび農園」が対応
そんな活動に賛同し、2022年度から新たにメンバーに加わったのが宮崎美穂さん(41歳)。農薬や化学肥料を使わない有機栽培にこだわっている「おむすび農園」を営んでいることから、農業に携わりたい移住希望者の相談に対応している。メンバーになる以前から、市が開催する移住体験ツアーなどに協力していたが、就農希望者の相談が増えていることから、本格的に活動に参加することになった。
「私でよかったら……と参加し、移住希望者とお話ししたり、イベントに出店をしたり、自分の得意分野で活動しています。誰も知り合いがいない状態で藤枝に移住したため、最初は本当に大変だったのですが、活動を通して地域とつながることができて、ありがたいと思っています」
最近はレンコンの栽培に力を入れており、ゆくゆくはレンコン掘り体験を開催し、活動にも役立てていく考えだ。
「さとやママ」はメンバー全員が県外出身というわけではない。新村杏奈さん(31歳)は藤枝市生まれ。夫と結婚してしばらくは、藤枝駅に近い地域でアパート暮らしをしていた。長男が生まれたタイミングで「田舎の一軒家に暮らしたい」と、中山間地域で空き家を見つけ、引っ越し。現在は杏奈さんの実家に近い場所に家を新築し、希望を実現させている。次男がまだ8カ月のため、活動にはできる範囲で参加しているが、空き家の片付けなどに協力している。
移住者、ママだけでなく地域と連携した活動を
小林麻佐子さん(51歳)も生まれ育った藤枝市で暮らす。かつては藤枝市役所職員で、夫と3人の子どもを育てながら、仕事をこなしてきた。そのうち9年間は中山間地域の移住支援を担当。多くの移住者に出会った。
「移住希望者が大きな決断をする瞬間に立ち合ううち、いつの間にか移住支援が私のライフワークになっていました」
部署を異動になった後、そのことに改めて気づかされ、小林さんは2年前に早期退職を決断。子育てが一段落したタイミングだったことも後押しし、「さとやママ」の活動に参加することになった。
「私には移住の経験はありませんが、これまでの経験や人とのつながりを生かし、人×人、人×地域、人×行政などをつなげるマッチングコーディネーター的な役割を担えたらと思っています」
その言葉通り、小林さんは移住希望者と地域住民との橋渡しに一役買っている。
自然豊かな藤枝市は、作家の移住希望者も多い。そんな人たちの相談には、木工作家の加藤育子さん(51歳)が対応している。加藤さんは「さとやママ」発足以前から移住希望者を自宅に宿泊させ、自身の移住経験やまち案内を担う「民泊」活動などに協力してきた。実際、加藤さんの人柄にほれ込み、藤枝市に移住してきた人も多い。ただ、最近は四国の実家から藤枝市に両親を呼び寄せ、近距離介護をすることになったため、できる範囲で活動しているという。
来期から「さとやママ」の会長を務めることになったのは、谷口ジョイさん(47歳)。夫の転職を機に、東京から藤枝市にIターンしてきたのは2008年。当初は市内に知り合いなどはおらず、藤枝駅近くで暮らしていた。5年ほど経過して生活に慣れてきたころ、自然豊かな中山間地域に暮らしたいと、藤枝市役所に移住相談に出かけた。そこで出会ったのが、当時職員だった小林麻佐子さんだ。移住相談や空き家案内などを経て、念願の中山間地域への移住を果たしたのは2014年。小林さんは、リフォームをした空き家のオープンハウスを提案。ジョイさん一家の写真をパネルにして飾り、家と家族をお披露目した。
「地元の方が100人ほど来てごあいさつができたおかげで、土地になじむことができました。麻佐子さんや地元の方は、私の知らないところでもサポートしてくださっているという思いがあり、今度は自分が恩返しする番だと、活動に参加しています」
外国人の移住希望者や、子育て世代の相談などに対応しているジョイさんは、今後の展望をこう語ってくれた。
「近年、移住希望者のニーズは多様化しています。それに対応していくためにはママだけでなく、地元の方たちの力も必要だと感じています。来年度はそこに注力していく考えです。また、さとやママは移住支援だけでなく、移住後のフォローもさらに大切に活動していきたいですね」
【藤枝市】移住支援情報
新婚世帯、子育て世帯の住宅補助が多彩
中山間地域の空き家・空き地バンク制度をはじめ、空き家活用・流通促進事業では、取得にかかる補助金額は上限30万円だが、市外の一般世帯は50万円、市外の子育てファミリーは70万円を上限とするなど、子育て世帯に優しい助成制度を用意。新築住宅、新築マンションの取得費や引っ越し料を助成する新婚生活サポート補助金(最大80万円)といった住宅支援もある。
問い合わせ/藤枝市広域連携課 ☎054-643-3229
藤枝市の子育て支援
□子育てファミリー移住定住促進事業( 新築住宅取得事業・移転事業)
□れんげじスマイルホール“キッズパーク”
□藤枝おやこ館
文/横澤寛子 写真/鈴木千佳 写真提供/藤枝市、さとやママ
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする