愛媛県松山市沖に浮かぶ忽那諸島(くつなしょとう)は、瀬戸内の穏やかな海と島々が織りなす美しい風景のなかで、島民が昔ながらの生活を営む、自然豊かで心安らぐ場所。昨今の深刻な過疎化を受けて、松山市は島しょ部専門の空き家バンク『離島の空き家』を開設しています。そのサイト内(物件詳細)に一風変わった動画が貼られた記事が、ちらほら……。この動画、ほかの空き家バンクとノリが違う……!?
取材・文/田舎暮らしの本 Web編集部
協力/NPO法人 農音
忽那諸島の空き家を、忖度なしで紹介するYouTubeチャンネル『離島の空き家』。
その動画の正体は、空き家情報をよりリアルにお届けするため、地元のNPO法人が(勝手に)YouTubeチャンネルの運営を開始した『離島の空き家』。
これが、とにかく面白い! 思わず吹いてしまうほど、笑ってしまう! バカバカしいんだけど、しっかり忽那諸島の魅力が伝わり、なぜか癒やされる!
今回は、忽那諸島の環境と、YouTubeチャンネル『離島の空き家』の魅力について、動画を配信しているNPO法人 農音に取材しました。
忽那諸島ってどんなところ?
【忽那諸島】
愛媛県松山市は2005年に旧中島町と旧北条市と合併し、四国で初の50万都市となっています。その際、松山市に属する9つの有人島(中島、怒和島、津和地島、二神島、睦月島、野忽那島、興居島、釣島、安居島)を含む20余島が忽那諸島と呼ばれるようになりました。
※かつては興居島、釣島、安居島は含まれず、現在の山口県柱島を含めて忽那七島と呼ばれていた
一大みかん産地を急速に過疎化が襲う
集落を囲んでみかん畑が点在する中島大浦地区。左手に睦月島、中央に興居島、右手に釣島を望む。
忽那諸島の基幹産業は柑橘栽培。諸島の中心にある「中島」の柑橘の生産量は全国の離島のなかで第1位。島の急斜面で日光と潮風を浴びて育つみかんには濃厚な味わいがあり、その味はみかん大国愛媛県のなかでも随一といわれています。
「冬の始めには山一面がオレンジ色に染まるほど、柑橘栽培で栄えていた忽那諸島ですが、現在は少子高齢化が進み、人口は激減。最盛期の人口は25000人を超えていましたが、現在は4000人を下回るところまで衰退しています」(NPO法人 農音:リウ調査員 以下、リウ調査員)
空き家バンク『離島の空き家』開設
「人口減少とともに問題になってくるのが増え続ける空き家。どの島でも集落内を歩けば空き家だらけ……。一口に空き家といっても空き家になってからの期間は様々で、倒壊寸前のいわゆる危険家屋も多い一方、なかにはまだ住めそうな掘り出し物の古民家も多数あるんです。人口減少に伴って不動産価値が下がっているため、商業的には民間の不動産業者が仲介に入る余地がほとんどなく、長らく空き家情報が整理されないままとなっていました」と、リウ調査員は話してくれました。
家は人が住まなくなると、どんどん荒廃していきます。屋根が傷んでしまうと、家屋内はあっという間に朽ちてしまいます。
そんな空き家問題を解決すべく、松山市は2015年に空き家バンクサイト『離島の空き家』の運営を開始。行政事業ではあるものの、実際の業務のほとんどは、現地で移住促進活動をしている民間のNPO法人 農音に委託しています。
「直接的に市が動かないことで、かえって細やかな立ち回りができ、住民目線でワンストップの移住サポートまで可能になるという仕組みです。空き家バンクに関して受託している我々(NPO法人 農音)は、空き家バンクのスタート以前から移住促進活動の一環として、中島の空き家をYouTubeで紹介していました。その活動が松山市の目に留まったというわけです」(リウ調査員)
「農音は、移住者が立ち上げたNPO法人で、“よそ者”ならではの発想と工夫で忽那諸島の活性化に努めています。現在はメンバーに島民も加わり、よそ者目線+地元ネットワークで空き家の利活用を加速させています」(リウ調査員)
愛媛県松山市が運営するサイト「離島の空き家」
「離島の空き家」の物件紹介のなかに、NPO法人 農音のYouTube動画が貼られています。※写真はスクリーンショット
物件をチェックする農音の空き家調査員(右:U調査員、左:リウ調査員)。
「松山市に空き家バンクの登録申し込みがあると、まずは我々の空き家調査員が該当物件を下調べします。家主が島外在住でも現地の調査員がフットワーク軽く対応するため、展開が早いのが特徴です」(リウ調査員)
YouTubeチャンネル『離島の空き家』
こうして開設された空き家バンクですが、より多くの人に忽那諸島に興味を持ってもらうため、委託された業務の枠を超えて、農音は空き家バンクに連動するYouTubeチャンネルを本格的に勝手に立ち上げてしまいました。
※もちろん、動画の撮影に関しては事前に家主様の承諾を得ています
『離島の空き家』チャンネルについて酒を飲みながらわかりやすく解説している回。少々ふざけてはいますが、忽那諸島への愛情を感じ取れます。よかったらクリックしてみてください。
「 『多くの人に見てもらうためには、面白くなきゃダメ!』というコンセプトのもと、リアルな空き家の現状、島での暮らしなどを独自の視点で、ゆるく楽しく発信しています。公費を入れず自主的に運営しているため、堅苦しいことは抜きにして、思う存分に自由な発信ができているのもポイントです」(リウ調査員)
まるでバラエティ番組!? 思わず笑ってしまう面白さ
YouTubeチャンネル『離島の空き家』のメインコンテンツである空き家ルームツアー「空き家探訪」では、空き家の状態や周辺環境もしっかりと伝えつつ、新鮮な驚きや、
容赦ないツッコミや、
部屋に残された小物を物色してみたり、
立派な古民家の屋根裏に上がって興奮してみたり、
解説すべきことを視聴者に丸投げすることも!
「一般的な空き家バンクでは観ることのないバラエティに富んだ構成で、物件情報はもちろん、残置物の紹介や謎めいた民具から昔の生活に思いを馳せることもあります。時には『脱線し過ぎていて不快』と視聴者様からのお叱りも受ける一方で、家主様から『思い入れのある家が、動画で楽しく紹介されていい記念になりました』と感謝の声が届くこともあります。
入居・購入者募集の動画のほか、島の日常生活を紹介する『島暮らしチョイ見せ』や、購入後のリフォーム事例を紹介する『あの空き家がこうなった』、島を散策しながら紹介していく『忽那さんぽ』など、様々な企画で忽那諸島の暮らしをPRしています」(リウ調査員)
2月10日に弊サイトで紹介した『32万円の「古民家」は鉄筋の「離れ」付き!釣りで大人気の松山沖で温暖な『離島暮らし』が楽しめる!【愛媛県松山市】』の物件もYouTubeで紹介されています。
※この物件は、売約済みとなりました
動画はご覧になりましたでしょうか? 空き家バンクの物件紹介も動画で紹介することで、よりわかりやすくなりますね。
一度見たら、ほかの回も見たくなる『離島の空き家』。物件をお探しでない人も充分に楽しめるチャンネルです。チャンネル登録してみるのもアリだと思います。
農音の空き家調査員(右:U調査員、左:リウ調査員)
おちゃらけたノリの裏側に隠された『離島の空き家』スタッフの想い
「今日まで誰かの人生を支えきた『家』。住んでいた人はいなくなっても、大切に使われてきた『家』が風化し朽ちていく様を見るのは、やはり寂しい気持ちになります。主がいなくなった『家』が再び誰か心の拠り所となるよう、少しでもたくさんの人に見てもらって、空き家とそれを求めている人を繋げていけるよう頑張っていきます」(U調査員)
※このチャンネル運営に松山市は関与しておりません
取材・文/田舎暮らしの本 Web編集部
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田舎暮らしの本編集部
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