掲載:2017年4月号
前回から始まった壁の施工。筋交い、間柱に続いて大仕事に突入だ。というのも今回は、全部で4つの差し鴨居を入れるという「差し鴨居祭り」なのであった。そして「人力社」の知られざる真実が明らかに!
人力社のヒエラルキーは⁉
本文に入る前に。前回の「和田の下請けライター疑惑」の続きである。
阪口「引っ張るねー(笑)」
水野「よっぽど根に持ってたのね」
中山「この際、ハッキリ言わせてもらいますけどね。人力社のヒエラルキーはこうなのですよ!」
代表・中山 > 副代表・阪口 > 平社員・和田
和田「なんで私が平なわけよ?」(←ぶぜん)
中山「それは人力旅をしていないからだ」(←えっへん!)
実は「人力社」の由来は、「人力旅行」をしたことによるのだ。
中山……ロバを連れて南米5800㎞を徒歩旅行
阪口……オーストラリアを自転車で1万2000㎞走破
和田……オートバイで16万km世界1周
水野「なんか、和田さんが一番すごそうなんだけど」
中山「ちっちっち。わかってないねえ。一般に徒歩旅行は、自転車の2倍、オートバイの10倍、難易度が高いのだよ」(←根拠ナシ)
そこで3人の踏破距離を、徒歩旅行を基準に割ってみた。
中山……5800㎞
阪口……6000㎞
和田……1万6000㎞
一同「お前が一番簡単じゃん!」
中山「♪~~」(←口笛を吹きながら去って行く)
一同「どこ行くんだよ!」
差し鴨居も思いつきでなんとなく
オチがついたところで作業に入ろう。今回のお題は「差し鴨居(さしがもい)」を入れることである。
差し鴨居とは構造材の一部となる鴨居のこと。2間以上飛ばすことも多いので、「せい」が7寸(21㎝)以上の重厚な材を使用する。このため見栄えも素晴らしい。まさに「和」の雰囲気を演出する逸品なのだ。
和田「やっぱり『和』だよね! 東京五輪も近いし!」
阪口「関係ないだろ」
作業に入る前に、家に置いてあった邪魔なカヤックやらカボチャやらのウゾームゾーを運び出すことに。その途中で出てきたのが古畳である。これもまた和田が、どっかからもらってきたものらしいが。
阪口「キノコでも栽培するの?」
水野「まさか『畳として』再利用するなんて考えてないよね?」
中山「いや、きっとそうだ。そうに違いない」(←ダニアレルギー)
和田「ふっふっふ。この畳はいわゆる『スタイロ畳』なのよ。つまりこの中にはスタイロフォーム®が挟まってるわけ!」
一同「それが目当てか!」
和田「もちろん! だって買うと高いじゃんスタイロフォーム®!」
最近の畳は「化学床(建材床)」といって、畳床に断熱材を使用するのが主流なのだ。軽いしダニも発生しにくい。
阪口「『ケミカル建材は使わない主義』だったんじゃないの?」
和田「使わないんじゃなくて、な・る・べ・く使わないの」
水野「とりあえず『タダなら、なんでももらう主義』ってことは、よーくわかりました。ゴミ屋敷ってこうしてできるのね」
片付けのついでに、不必要になった足場も解体する。作業環境の改善は効率化の第一歩である……。なんて言ってたら、足場代わりの材木が不安定に置かれているためシーソーに! この廃材には、後々まで悩まされ続けるのだが、それはまた後の話……。
作業環境が整ったところで差し鴨居である。
差し鴨居には、襖や障子を直接 はめ込むことがあるが、その場合、差し鴨居本体にミゾを掘る必要がある。一般的な鴨居のミゾのピッチは「七五三」で覚えておくといい(下図参照)。
次に差し鴨居をはめ込む「切り欠き」を入れる。普通なら棟上げの前に柱に細工しておくんだが、そこは無計画な和田のこと。
和田「本当は入れるつもりなかったんだけど、なんとなく仕切りが欲しくなってさ!」
工期中ならある程度、変更が可能なのは、自由度の高いセルフビルドならではだ。
柱に欠き込みを入れるには、丸ノコで水平に何本も切り欠きを入れ、木っ端を手鑿(てのみ)で削り落とすのが定石である。しかしそこをチェーンソーでやっちまうのが和田流。
「プラマイ5㎜くらいの誤差ならOK!」なのである。
魔法のシリコンスプレーでも入らない
切り欠きを入れたら、重量65㎏の差し鴨居を3人で担ぎ上げ、はめてみる……。が、案の定、一発で入るわけがない。
理由は木口のデコボコにあった。これを和田御用達のディスクグラインダーでキレイにし、再チャレンジ。しかし、やはり入らない。
和田「ちょっと待って! いいの があるから!」
和田が取り出したのはたびたびお世話になっている「シリコンスプレー」だ。これを木口に「プシュー」とやれば、すんなりと入ってくれる……、はずだったんだが、やはり入らない。
理由は簡単である。物理的に差し鴨居のほうが、柱と柱の間隔よりも長いのだ。
ここで木口あるいは柱の切り欠きを修正するのは、常識ある一般ピープルである。和田が取り出したのは、カケヤであった。
和田「ちょっと、どいて!」
にわかにカケヤを振りかぶると、せっかく棟上げした家屋が倒壊するかというイキオイでぶっ叩き始めたのだ。
ドカン! ドカン! ドカン!
ドカン! ドカン! ドカン!
ドカン! ドカン! ドカン!
和田「……ホラ……入った!」(ぜえぜえ)
肩で息をしながら、和田が大きくうなずいた。一同の間を、しばし沈黙が流れる。
阪口「入ったっていうかさ……、入らなかったんだよね。本来」
水野「入らないけど、入れちゃったんだよ」
和田「入ったんだから、入ったんだよ。入らないなら最初から入らないよね?」
中山「これは『ニワトリが先か卵が先か』と同じだな。つまり哲学的命題というやつで……」
水野「はいはい。禅問答は誌面の外でやりましょうねー」
ニセ鴨居という衝撃的事実が判明
こうして「和田邸」の顔とも言うべき南側の3本の差し鴨居が、有無を言わさない感じで納まったんだが、一歩引いて眺めてみると。
中山「1つだけ傾いてるよ」
和田「どれ!?」
目立つ部位だけに、和田がすっ飛んできた。真ん中の差し鴨居だけ、左側がそれとわかる程度に落ちている。柱を切り欠く場合は、下端が重要だ。上端はどうでもいいが、下端を間違うと鴨居の高さが違ってくるからだ(最悪、サッシ枠が入らないことに!)。測ってみると、この鴨居だけ5㎜もの誤差が。
阪口「あり得ない誤差だな」
和田「丸太柱だから正確に測れなかったの!」(←言い訳)
さてどうやってリカバリーするのか。結果は想像どおり。
和田「木っ端を噛ませたらピッタリになったから! でも、どうせ単なるサッシ枠だし! 多少ゆがんでても戸車で調整が利くから」
中山「え? これって差し鴨居じゃないの?」
和田「違うね! うちのは単にはめてるだけだから、構造にはかかわってないし! 見た目は一応差し鴨居なんだけどさ!」
一同「てことは、……ニセ鴨居?」
文/中山茂大 写真/阪口 克 イラスト/和田義弥
過去記事はこちら!
第1回 基礎工事
第2回 墨付け、刻み
第3回 柱、梁、桁の刻み
第4回 棟上げ目前
第5回 棟上げ
第6回 棟上げ
第7回 棟上げ
第8回 足場組み、家起こし
第9回 屋根
第10回 屋根材張り&プロによる中間チェック
第11回 壁の施工、窓の取り付け
人力社
ライター中山とカメラマン阪口、 ライター和田の旅とDIYを得意とする3人組トリオ。「人力山荘」シリーズでは中山の母屋リフォーム、中山のアネックス新築DIY、和田の自宅新築DIYを連載。阪口も自宅をDIYで新築している。
人力社HP➡www.jinriki.net
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