田舎は、すべてが人工的に管理された都会とは、何かと勝手が違います。そこで、さまざまな場面での「困った」の対処方法をベテラン田舎暮らしライターが教えます。田舎暮らしへの準備がスムーズになるように、またせっかく始めた田舎暮らしがより快適になるように、お役立てください。
年をとってから不便な生活はしたくないので、定年になったら地方都市の農村部に住みたいと考えていました。温泉旅行の帰りによく県庁所在地の直売所に立ち寄るのですが、店員さんにこのあたりの物件を扱う不動産屋さんを紹介してと頼んだら、「この辺に空き家はないし、市街化調整区域で家も建てられない。街のアパートでも借りたらいかがですか」と言われて驚きました。
東京都在住 阿部さん●58歳
古い伝統が残る一方で都市部に近い市街化調整区域
県庁所在地のような大きな地方都市でも、中心部から車で20〜30分も走ると、農村風景が広がるところがある。農地や里山が、都市の近くで自然に残っていることも少ない。開発が規制されているからこそ、そういう地域が存在するのだ。これを「市街化調整区域」という。阿部さんが巡り合った地域もそれだ。
ほかの地域と比べれば、市街化調整区域は不思議な空間だろう。家がまばらで、周りに畑や田んぼがいっぱいで、まさに田舎と呼ぶにふさわしい。それなのに、新幹線の駅や大学病院などの都市施設が近くにある。自然と利便性の両方を求める人には、じつに魅力的な環境だ。また、古い伝統が残っており、お祭りの盛んな地域も多い。農村文化にふれるには、有利な条件を備えている。
一部の例外を除き家は建てられない!
しかし、市街化調整区域に移り住むのは容易でない。というのも、厳しい建築の規制があるからだ。大きな地方都市では、「市街化区域」と「市街化調整区域」の線引きが行われている。市街化区域とは、既存市街地とおおむね10年以内に市街化を促進しようとする区域。つまり、建築規制を緩くして都市化を進めようとするゾーンだ。
一方、市街化調整区域は市街化を抑制する区域で、原則として家の建築が認められない(おおむね50以上の建物が連なる地域で、知事の許可を得た土地は除く)。売家は低価格で販売されることがあるが、再建築できないものもある。購入するなら、それをふまえておこう。大きな地方都市の郊外で田畑が広がっていたら、最初から市街化調整区域の可能性を疑うべきだ。不動産業者の広告にも「市街化調整区域」と明示する決まりがある。
文・写真/山本一典 イラスト/関上絵美
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