田舎で広い庭と畑のある家に暮らしていれば、夏は草刈りが日課のようになる。そこでなくてはならないのが刈払い機(草刈り機)。効率的かつ安全な草の刈り方と、刈った草を資源や資材として活用するアイデアを紹介します。
掲載:2023年7月号
手軽さなら充電式、ハードに使うならエンジン式
12年前に田舎暮らしを始めて、どんな道具よりも最初に入手したのが25㏄のエンジン式刈払い機だ。空き家になっていた古民家が立つ300坪の庭は、腰の高さまで草が伸びて荒れ放題。それを何とかしないと暮らしが始まらなかったのである。以来、その刈払い機はこれまで一度の故障もなく、今では4反を超えるほどに手を広げてしまった田畑の草刈りにフル稼働している。
刈払い機は大別するとプロ用と一般用がある。通常、プロ用は25㏄以上のエンジン式で、強度、耐久性に優れ、パワーがある。広い敷地や山林の草刈り、かたい草を刈るなどハードな使用に向く。一方、家庭用は軽量で取り回しに優れ、価格も抑えられている。電源コード式やバッテリー式もあり、スイッチを押すだけで始動できる手軽さが魅力。静音性が高く、振動も少ないので住宅地でも使いやすい。近年のバッテリーの進化で庭やちょっとした畑のやわらかい草を刈るには充分なパワーを備えている。
刈払い機は、私にとってなくてはならない田舎暮らしの三種の神器ともいえる道具だが(あとの2つは軽トラとチェンソー)、便利な半面、危険な道具であることも知っておくべきだ。服装や刈刃に気をつけるのはもちろん、作業中は小石などが飛散するので、半径15m以内に人を立ち入らせないようにする。エンジンの音と振動は疲労にもつながる。体力や判断力が落ちる前に適度に休憩をとり、夏の暑い時期は熱中症にも気をつけよう。
刈払い機による作業の実践
作業フォーム
最もメジャーな肩掛け式・両手ハンドルタイプの場合、刈払い機を肩掛けバンドに装着し、ハンドルを持ったときに刈刃が地面からわずかに上がった状態で、刈刃と地面が平行になるようにバンドの長さを調整する。作業時の中心軸は右の腰の位置になり、常に右足が前、左足が後ろの状態でからだは左斜めに開く。前進するときはまず右足を小さく踏み出し、左足がそれについていく形になる。横移動で刈る場合は、右足のあとを追うように左足を小刻みに踏み出して、右に進んでいく。
切断位置と刈払い方向
刈刃は地面に対して前側をやや下げるようにして持ち、刈り幅は作業者を中心に1.5mを目安にする。草を刈るときは刈刃の前方左側3分の1を使い、ヒザより低い位置で刈払い機を右から左に振る。刈刃を往復させて左から右に刈ると刈刃の右側を使うことになり、キックバックの危険性が高まるため、往復刈りはしてはいけない。
【草刈り時の注意①】キックバック
回転する刈刃が障害物などに接触し、回転と反対方向に抵抗がかかると反発力が働いて跳ね上げられる現象。刈刃の右側前方が危険ゾーン。
作業は一定の方向性をもって行う。最初に作業地の進行方向左側の草を1.5m程度の幅で刈る。刈った草は必然的に左に寄せられる。刈り終えたらスタート地点に戻って右側の列に移動して最初と同じ方向に前進する。この作業を繰り返す。
道路際の刈り方
道路を右側にして刈り進めることで、刈った草が道路に飛び散りにくい。車や歩行者を確認しながら作業を進め、人などの通行があるときはスロットルを戻して刈刃の回転を止める。小石の飛散にも注意しながら作業する。
傾斜地の刈り方
刈刃が斜面と平行になるようにハンドルの持ち位置を調整してまっすぐに立つ。作業は斜面の下方から等高線に沿って横に刈り進め、終点まで行ったら刈り始めの位置に戻って一段上を同じように斜面の右から左へ刈り進める。
【草刈り時の注意②】転倒時のからだの守り方
山林や斜面など足場の悪い場所でバランスを崩して転倒したときは、機械をからだにしっかり引き寄せて保持することで、刈刃が思わぬ方向を向かないようにする。最近の機種はグリップのセーフティレバーを離すと、動力が遮断され刃の回転が停止するが、古い機種はそれが付いておらずレバーから手を離してもスロットルが戻らずに刃が回転し続けるという非常に危険な状態になる。肩掛けバンドをしていないと転倒した際に刈刃がからだに触れやすく、事故のリスクが高まるため、必ず適正な長さに調整して装着すること。作業中にエンジンが炎上するなどの緊急時には刈刃を停止させて速やかに刈払い機をからだから離す。
【草刈り時の注意③】熱中症に気をつける
毎年、草刈り中の熱中症による事故が報告されている。少しでも体調がおかしいと思ったら、すぐに作業をやめて、涼しいところで休み、水分を補給すること。気温の高い夏は朝夕の涼しい時間に作業し、1日の作業時間は2時間以内にして30分に1回は休憩をとる。熱中症対策にはファンが付いた空調服も効果的。
刈払い機おすすめモデル
場所や状況に合わせて選ぼう!
刈払い機には、動力によってエンジン式とバッテリー式があるほか、形状も肩掛け式と背負い式があり、グリップもUハンドル型、ループハンドル型、ツーグリップ型(一本棹型)と、多岐にわたる。斜面での作業や長時間の作業が多いなら背負い式を選べば、からだへの負担が少なくてすむ。力が弱い人は軽量モデルを選ぶと扱いやすい。音や排気ガスが気になる住宅地なら電動タイプがおすすめ。どんなタイプを購入したらよいかわからないときは販売店で相談してみよう。
軽量でコンパクトだから、初心者でも扱いやすい 肩掛け式刈払い機【エンジン式】
エンジン式を中心に販売してきたゼノアの技術が詰まったモデルで、軽量でコンパクト。独自のEZスタート搭載で、軽い引きで簡単に始動できる。初心者や女性、年配の方でも使いやすく、おすすめ。写真のUハンドルのほか、ループハンドル、ツーグリップハンドルもある。
「BC2020」標準価格(税込)6万500円。
エンジンを背負うタイプはパワフルで長時間の作業も楽 背負い式刈払い機【エンジン式】
背中にエンジンを背負うタイプなら、重さが負担にならず、長時間の作業に向いている。また作業効率もよく、あぜ道や斜面などでも安定して作業できる。軽い引き力で始動するe -START 搭載。高い品質とパワーがありながらお手ごろ価格なのもうれしい。
「TK220」標準価格(税込)6万500円。
スタートはスイッチ1つで、音も静か。排気ガスもゼロ【バッテリー式】
バッテリー式は、エンジン式に比べて圧倒的に静かで、排気ガスの心配もないため、周囲が気になる住宅地でも使いやすい。始動もスイッチを押すだけ、燃料補充の手間もない。バッテリーを購入する必要はあるが、その後は燃料費がかからずランニングコストが安い。
「BTR250PL」標準価格(税込)5万5000円(バッテリー・充電器は別売)。
石飛びやキックバックが少ない刈刃「バリカル」
上下の刃が往復運動するバリカン式で、石の飛散や水飛びが少なく、キックバックの危険も少ない。地面に置いて滑らせるようにして草が刈れるため作業も楽に。ゼノア26㏄以下の刈払い機のほか、各メーカーにも取り付け可能。
●問い合わせ先:ハスクバーナ・ゼノア㈱ ☎0570-550-933
https://www.zenoah.com/jp
刈った草の利用方法
刈った草はそのままにしておけば、夏はすぐに枯れて分解されるが、畑の資材や動物のエサとしても利用できる。わが家ではヤギとニワトリを飼っているので、刈った草はすべてエサになるほか、小屋の敷きわらにも重宝している。畑ではマルチングに活用。作物の株元に厚く敷くことで、新たに生える雑草が抑えられ、土壌の乾燥も防げる。最終的には分解されて土に還るのでポリマルチのようにゴミにならないのもいい。また畑の隅に刈った草を積み重ねておけば、半年ほどで完全に分解され、極上の草堆肥ができあがる。
ニワトリ小屋に刈った草を敷いておけば、フンと混じって発酵し極上の堆肥に。産卵箱にも敷いておく。
ヤギは庭に杭を打ってリードをつけておけば除草にも大活躍。子ヤギは生後1カ月くらいから草を食べ始める。
作物の株元を刈った草でマルチング。分解されて堆肥化したら畑に施し、土壌改良に役立てる。育苗用の土としても極上。
文/和田義弥 写真/阪口 克
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