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杜氏を始めてたった2年で世界最大級の日本酒品評会「SAKE COMPETITION2023」でW受賞!純米酒部門とダイナースクラブ若手奨励賞に輝いた宮城県・大和蔵酒造のヤング杜氏の成功の秘訣とは?
執筆者:田舎暮らしの本編集部
世界最大級の日本酒の品評会「SAKE COMPETITION 2023」が4年ぶりに開催されました。SAKE COMPETITIONは、「ブランドによらず消費者が本当に美味しい日本酒にもっと巡り会えるよう、新しい基準を示したい」という理念のもとに、2012年から始まった品評会で、市販されている日本酒のみを完全に銘柄を隠した状態で審査員が試飲し、日本酒の酒質のみで競うことに徹底している格式高いコンペティション。今回は、多くのブランドの杜氏たちの中から選出された、栄えあるダイナースクラブ若手奨励賞受賞者をクローズアップしました。
「日本酒は、それぞれの地域と食習慣とともに長い年月をかけて磨かれ発展してきた文化であり伝統」
そう語るのはベテラン杜氏の後を引き継いだ大和蔵(たいわぐら)酒造の杜氏・関谷海志さん(31)。40歳以下の次世代の造り手を応援する特別賞を獲得した関谷さんに、地元・宮城で造る日本酒にかける思いについて、さまざまなお話を伺いました。
もっと美味しいものを造りたくなる、“終わりがない”ところが魅力
物心ついたときから、祖父と父親の酒造りが身近にある環境で育った大和蔵酒造の杜氏・関谷海志さん。宮城県白石市にある蔵王酒造に親子3代で勤めていたそうです。
冬になれば関谷さんの父親は、明け方から働きに出かけるため、ほとんど会うこともなく、「あるときから食卓には父親の納豆も並ばなくなり、心なしか空気もピンと張り詰めていました。幼心にも酒造りの厳しさを感じていました」と関谷さんは語ります。
職人さんと触れ合うなかで、“厳しさの中にある温かさ”に憧れて、本格的に酒造りについて学ぶために、関谷さんは父親の母校でもある東京農業大学に進学したそうです。
地元・宮城で造る日本酒について、
「日本酒の原料は水と米。水がなければ米は育たない。生まれたときから飲みなれた奥羽山脈からの伏流水はスッと身体に馴染みます。その水と米で醸したお酒は自分にとって、なくてはならないものです」と心に秘めた芯の部分を力強く伝えてくれました。
また日本酒の魅力について聞くと、
「いまの日本酒は『日本酒史上最高』の品質です。大昔から先人たちが積み上げてきた経験と勘による技術が科学的に解明され始めています。とはいえ、まだまだわからないことのほうが多く、毎日試行錯誤の繰り返し。満足できた味わいのお酒はまだ一本もありません。それでも飲んで美味しいと言ってもらえると嬉しいですし、もっと美味しいものを造りたくなる。終わりがないところが魅力です」と飽くなき挑戦に対するポジティブさが伺えます。
そんな関谷さんだが、今まで最も大変だったことを聞くと、
「清酒業界は、どうしても製造と販売の繁忙期が被ります。冬になると仕込み終わったら出荷の梱包作業に回るのですが、夜中の12時まで残業して午前2時まで杜氏さんの晩酌に付き合いながら麹番をしたのが忘れられません。本当につらかった。今はそんな無茶なことはしませんが(笑)」と笑みをこぼしました。
そんな苦労をしながら、手間暇かけて造った日本酒をどんな人に飲んでもらいたいか尋ねると、
「やはり一番は地元の人。地元の水と米で仕込んだお酒は身体に馴染むでしょ?と聞いてみたい。観光にきた方々にも、地元の食べ物と一緒に日本酒を味わう、最高のひとときを楽しんでいただきたいと思っています」と教えてくれました。
市販酒世界一を決める日本酒の品評会「SAKE COMPETITION 2023」の純米酒部門とダイナースクラブ若手奨励賞をWで受賞!
【SAKE COMPETITION】
「ブランドによらず消費者が本当に美味しい日本酒にもっと巡り会えるよう、新しい基準を示したい」という理念のもと、2012年から始まった日本酒の品評会。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により2020年以降中止を余儀なくされていましたが、2023年度は出品数を1,000点に絞り、4年ぶりの開催となりました。市販酒のみが対象となっており、審査方法は完全に銘柄を隠し、酒の品質のみで競うことを徹底。どんなブランドでも1位を狙えるチャンスがある品評会となっています。今年度の審査部門は、「純米酒部門」「純米吟醸部門」「純米大吟醸部門」「SUPER PREMIUM部門」の全4部門。技術指導者をはじめ、推薦で選出された日本酒の蔵元や有識者で構成された“日本酒業界の精鋭”審査員全20名によって、「清酒としての品格」と「飲用酒としての適性」の二つの基準にもとづいて審査しています。
関谷さんが勤める大和蔵酒造は、「SAKE COMPETITION=市販酒のコンテスト」ということで、自分たちの今現在の立ち位置を知れればと、腕試しのつもりで応募したそう。
「結果は見事、【純米酒部門】で「雪の松島 海-KAI- ひとめぼれ 純米原酒」が金賞に輝きました」と、関谷さんは嬉しそうに話します。
“搾ったそのままをお届けしたい”という想いを込めて、新しい製法で造った渾身のお酒が「雪の松島 海-KAI- ひとめぼれ 純米原酒」。実は、関谷さんの名前(関谷海志)から一文字をとって「海」と名付けられた新商品だったのです。自分の名前が冠された商品が金賞として認められたのは、ひとしおだったでしょう。
「まさか、純米酒部門で金賞を獲得できるとは思っていませんでしたが、『海』にとって最高のお披露目の舞台となり、誇らしい気持ちになりました」と受賞に対する気持ちを語ってくれました。
SAKE COMPETITION 2023【純米酒部門】で金賞を受賞した「雪の松島 海-KAI- ひとめぼれ 純米原酒」
【ダイナースクラブ若手奨励賞】次世代を担う日本酒の造り手に贈られる特別賞
「ダイナースクラブカード」を発行している三井住友トラストクラブから、「SAKE COMPETITION」に出品する酒蔵の中で、製造責任者が40歳以下の最上位受賞蔵に授与されます。
ダイナースクラブ若手奨励賞を受賞したことについて、
「2018年の蔵王酒造の大滝さん、2019年の萩野酒造の善之さんに続き、宮城県勢で3連覇となり、宮城県産酒の品質の高さと若手の実力を証明できとても嬉しく思います。我々が今造っている日本酒は、先人の技術を脈々と受け継いできた結晶であります」と、宮城県の日本酒のレベルの高さをアピールした関谷さん。
(左)三井住友トラストクラブ 代表取締役社長 五十嵐幸司氏、 (右)大和蔵酒造 醸造責任者 関谷海志氏
6月14日のSAKE COMPETITION表彰式では、
「この伝統を守り、育み、そして継承していけるよう、今後も邁進してまいります。杜氏を始めて2年なので、まだまだ飲んでないお酒やいろいろな酒蔵が全国にあるので、ぜひ見学に行かせていただきたいです」とこれからの意気込みを伝えてくれました。
妥協せずに、品質にこだわる。自分の色をどうやって出していくか、ワクワク
「『酒造り』というものは単なる製造業ではない」
関谷さんは酒造りに対して、「それぞれの地域と食習慣とともに長い年月をかけて磨かれ発展してきた文化であり伝統だ」と話します。
「この『酒造り』を我々の世代で少しでも発展させて、次の世代に残せるようにしたい。だからこそ妥協せずに品質にこだわっていきたい。前任の杜氏や父がそうしてくれたように次に繋げたいです」と日本酒の未来について、次世代に繋いでいくことを決意。
前任のベテラン杜氏の後を引き継ぐプレッシャーはあったか聞くと、
「前任の佐々木政利杜氏(現在は笹の川酒造)は叩き上げの南部杜氏で、様々な蔵を転々として腕を磨いてきた杜氏です。後を引き継ぐというよりは、いままで佐々木杜氏が築いてくれた土台に乗せてもらったような感覚。プレッシャーというよりは、どうやって自分の色を出していこうかとワクワクしました」とやはり前向きな答え。
「まだまだ飲んだことのないお酒、知らない製法が世の中にはたくさんあります。今後、国内のみならず、海外への展開もSAKE COMPETITIONという栄えある賞をきっかけに広められたらいいですね」と話す関谷さんのビジョンは、きっと明るく見えているのでしょう。
「固定概念にとらわれずに柔軟に新しいことを吸収しながら、いっぱいチャレンジしていきたい。そのなかでいつか自分の満足できるお酒ができればいいなと思います」と前例に固執せず常に変革を志す関谷さんの未来に、期待しか湧いてきませんでした。
(左)大和蔵酒造 杜氏 関谷海志氏、(右)創業から蔵を支えてきた前杜氏 佐々木政利氏
▼ 大和蔵酒造・雪の松島に関する情報はこちらから
https://taiwagura.co.jp/
▼ SAKE COMPETITION 2023 入賞酒の情報はこちらから
https://sakecompetition.com/result/topsake_2023.html
取材・文/田舎暮らしの本 Web編集部
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