掲載:2021年7月号
陶芸と温泉を楽しみに、長野県に通った竹部宏さん。定年後は東信エリアの小さな村に居心地のよい住まいを見つけ、庭いじりや畑、そして自然のなかでの仕事に精を出しながら、理想の生活をゆっくりと現実のものへと変えている。
長野県青木村(あおきむら)
長野県東部、上田市の西側に広がる人口約4300人の村。面積の約8割が山林、約1割が農用地で、米や菌茸類、果樹、花卉栽培が盛ん。飛鳥時代に開湯された田沢温泉や秘湯・沓掛温泉(くつかけおんせん)なども有名。東京から関越自動車道、上信越自動車道経由で約3時間30分。
空き家バンクで出合った自然の恵みに囲まれた家
夫神岳(おかみだけ)、子檀嶺岳(こまゆみだけ)、そして十観山(じゅっかんざん)の「青木三山」に見守られ、やがて千曲川(ちくまがわ)へと注ぐ浦野川(うらのがわ)沿いに家や畑が点在する青木村。面積の約8割を山林が占め、マツタケや山菜など山里の恵み豊かな土地である。
村の中心を走る国道から少し入った山間の集落に、ていねいに整えられた庭のある家が立っている。辺りには山の水がつくる沢があり、ハタケワサビの瑞々しい緑が太陽に輝いていた。
「ここらへんではハタケワサビが自生しているんです。たくさん採らずに、ちょっと間引くように頂いて。これをしょう油漬けにするとおいしいんですよ」
そう話すのは、この家に住む竹部宏(たけべひろし)さん(68歳)。移住して3年になる。
竹部さんは群馬県前橋市出身。陶芸が趣味で、郵便配達の仕事をしながら長和町(ながわまち)にある陶芸教室に通い、帰りに青木村の温泉に寄るという月1回の楽しみを、5年間続けてきたという。
「ずっと実家暮らしで庭いじりも好きだったんだけど、実家を売却してからは前橋の集合住宅暮らしで、庭がなくて寂しいなと思ってたんです。だから、定年になったらこっちに住みたいなと思うようになって、家を探していました。そんなとき、この家が村の空き家バンクに掲載されたんです」
建物は1LDKとコンパクトだが日当たりのよい庭があり、草木を育てることが好きな竹部さんにぴったりだった。物件の価格は215万円で、補修や駐車スペースの舗装に別途100万円ほどかかった。
「私の父が木工家具をつくる仕事をしていたので、棚や道具入れは自分でつくりました。スチール棚などの家具も物件に付いてきたのですが、私は木のほうが好きなので、少しずつ自分でつくって入れ替えています」
移住前はバラの会に所属していたほどバラが好きな竹部さん。DIYで整備した庭に、マダムヴィオレなど5種類のバラの苗を植えた。そのほか、ナナカマドやナツハゼなどの庭木、ローズマリーやタイムなどのハーブ、アイリスなどの多年草もバラエティ豊かに植え込み、岩と土が混在する斜面は、素朴な山野草で彩った。また近くの遊休農地を借りて、家庭菜園も始めた。
「昔から庭で草花を育てるのが好きだったんだけど、ここは夢の庭になりました(笑)。いつかウッドデッキをつくれれば最高ですね」
定年後に移住した竹部さんだが、昨年から、信州上小(じょうしょう)森林組合が運営する、釣り堀やアスレチックなどを備えたアウトドア施設「リフレッシュパークあおき」で働きはじめた。釣った魚をさばいて焼いたり、遊歩道の整備をするのが主な業務だ。
「この仕事は、同じ地区の人に紹介してもらったんです。家庭菜園でも、近所の人がトラクターで土を起こしてくれたり。青木村の人はみんな優しくて面倒見がいい人たちばかりです」
少しずつ、コツコツと、自分の思い描く生活を実現させている竹部さん。
「次は、仕事が休みになる冬の間、また陶芸ができたらいいなと思っています」
青木村移住支援情報
子育て支援に力を入れるほか住宅支援も充実!
青木村で特に力を入れているのが子育て支援。出産祝い金制度や、第2子以降の保育料の軽減・免除、チャイルドシート購入補助などがある。住宅関連では、51歳未満の定住希望者が住宅や土地を購入または新築・改築するときに利用できる定住促進応援補助金や、村の住民で一定の条件を満たす人が申請できる住宅リフォーム工事補助など。若者定住促進住宅や村営住宅もある。
問い合わせ:商工観光移住課 ☎︎0268-49-0111
http://www.vill.aoki.nagano.jp/ijyu.html
文/はっさく堂 写真/尾崎たまき
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