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田舎暮らしの本 10月号

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田舎暮らしの本 10月号

9月3日(火)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

異常気象―そしてパリ五輪/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(56)【千葉県八街市】

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 8月6日。「島が沈む、氷河が消える・・・うちではカメムシの大発生である」。

 メダルを逃したら日本に帰れるかな・・・フェンシングのフルーレ団体で金メダルを獲得したチームの一人が、仲間に漏らしたこれは言葉だという。良いことか悪いことかは別として、たしかにオリンピックという舞台に立つ選手の背中には「国家」というボードが縛り付けられている。それがもたらす重圧は一般人の我々には計り知れない重さなのであろう。それゆえにこそ、獲得したメダルの重さと味わいはさらに増す。

 さて、日本各地では暑さとは対照的に強烈なゲリラ豪雨に見舞われているところがいくつもある。警報級の大雨は困るが、ほどほど野菜たちが喜ぶくらいの雨がこっちにも降ってほしいけれど、残念ながら我が地にはその気配が全くない。畑で最も疲弊しているのはサトイモである。10か所以上に分散してあって、陽が切れる場所、草が多い場所のサトイモはなんとか耐えている。しかし、朝から夕刻まで光を浴びる所のサトイモは葉が茶色く変色し始めた。ホースが届く所だけでもやっておこう。午前中はその水やりに奮闘した。

 そのサトイモと並んで、今年の猛暑に見られる弊害はカメムシの大発生である。例年カメムシはいる。しかし今年はけた違い。この上の写真はピーマンだが、枝がしなるほどの数だ。茎や葉から養液を吸うらしい。カメムシに取りつかれた茎葉は枯れてしまう。対処法として僕は茎を大きく揺する。地面に落ちて慌てふためくカメムシを踏み殺す。だがそんなもので間に合う数ではない。

 しかし、世界に目を向けるとカメムシごときでとやかく言うのは申し訳ないという気もする。ヒマラヤの氷河がどんどん縮小しているという。15年前の調査に比べ半減していることがわかったらしい。そして、いずれは氷河消失という事態はさけられないだろうと、調査に当たった名古屋大学・藤田教授は言う。南極や北極の氷が解ける・・・ドキュメンタリー番組なんかで行き場を失った白熊の戸惑いを見ると僕の胸はいつも痛むのだが、長く凍っていたものが溶ける、それによってもたらされる海面上昇、それはやがて人間の命を奪うところまで来ている。南太平洋の島国キリバスは標高が3メートルしかない。海面上昇によって住んでいた家がのみ込まれる。この新聞報道を読んで、僕はふるさと祝島のことを思い出した。祝島には海岸線に沿って道路が走っている。70年くらい前、パンツ一丁で家を出て、海で泳ごうとする僕は、その道路から、助走をつけ、砂浜を蹴って走ったものだ。しかし今は砂浜がない。子供時代、その砂浜には何艘もの漁船が並べられていたものだが、その風景はもはや見られない。キリバスに話を戻す。問題は海面上昇だけではないということに僕は驚く。干ばつが頻繁に起こり、雨が降らず水の確保が難しい。トイレを持てない家庭が多く、3割の人が野外で排便する。満潮になると、ゴミとともに人間や家畜、野犬などの排泄物が押し寄せる海水にさらわれ、井戸水が汚染される。キリバスの子供は下痢で死ぬ率が高いのだという。ここでも僕はふるさと祝島のことを思い出す。台所から出る生ごみは海に捨てていた。キリバスと違ってトイレはあったが汲み取り式で、汲み取った屎尿は、人家のない遠い場所ではあるが、やはり海に流していた。こんなことを書くと顔をしかめる人もいるだろうが、ちゃんとした火葬場もなかった時代なのだ。42歳で死んだ僕の母は海のそばの岩場に薪を積み上げた炎の中で骨になった。それから幾十年を経た。ふるさとの名誉のために言う。今ではゴミ焼却の施設も火葬場も立派に整っている。だから余計キリバスの悲惨さが僕には理解される。

 さて、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーを植えるための場所の整地はさらに続く。この上の写真はこの猛暑の中でどうなるか、テストケースとしてポットから畑に移植したキャベツだ。強烈な光を遮らねばならない。そこらにある何でもかんでもを上から掛けてやった。15本の苗でダメになったのは1本だけ。悪くない結果だ。

 強烈な光が背中や後頭部に降り注ぐ。ガールフレンド「フネ」が最近、僕の呼び名を変更した。かつての「原始人」から「小さな巨人」に僕はなったのだ。もちろん口の悪いフネのこと。カラダは小さい、でもやることはデッカイ。これは最大限の皮肉と蔑称なのである。こんなバカ暑い中で働く、しかも裸で・・・。でも、案外冷静に自分を、あるいは人間の体を観察しながら僕は動いているのだ。この暑さの中での労働にどこまで立ち向かえるか。限界はどこらへんにあるか・・・。3日前の朝日新聞に「久しぶりの通勤 熱中症に注意」という記事があった。コロナ禍で増えたリモートワークから今は出社頻度が増えた。そこにこの猛暑。いかにして熱中症を防ぐか、それが記事の論点だった。

 出社頻度が増えたことで屋内外を出入りして寒暖差の影響を受ける。それへの対策として国立環境研究所の専門家は「暑熱順化」を指摘する。具体的には適度に汗をかくこと、屋内での筋トレやストレッチが効果的だという。加えて、通勤時の注意点は「風通しのいい服を着ること、ネクタイを締めていると外に放熱しづらいので首元はゆったりさせること」、そう記事にはあった。そこを読んで僕はすぐ思ったのだ。フネは笑うが、ほらな、裸は合理的なんだよ。首元どころか、上半身すべてに風が通る。午前と午後で8時間のスコップ仕事。流れる汗は5リットル・・・我が暑熱順化は完璧じゃあないか。

 草を取り、鍬を入れた場所を、最後はスコップで深く掘る。2メートルにも及ぶヤブカラシの根っこを途中で切らさず引きずり出せたときはすこぶる快感だ。直射日光が当たる地上温は50度。そこでの鍬やスコップ仕事。もしこんな種目がオリンピックにあったなら、メダルは無理かもしれないが、6位入賞くらいは果たせるかも・・・いささかの自信を抱く僕ではあるが、しかし・・・これはもはや人間業ではない、かなわない、そう思う種目がある。何という種目だったっけ。床に頭を着けて、手足を自在に動かしながらのダンスで体を回転させる。あれはとんでもない筋力だ。あるいはスケートボードで、ボードを回転させて細いレールの上にピタリ乗せる。また自転車競技で、自分の体も自転車も宙で回転させるあの技にも僕は驚嘆する。人間の身体能力とはなんと果てしないものか。僕には飛んだり回転したりの能力はない。だが、猛暑の中での労働にひるまない、とことんやるぜという精神力はある。そして耐暑力、心肺能力、これらにはほどほどの自信がある。午後6時20分。蒸し暑さは昼間と変わりないが、光が消えたぶん、野菜たちはホッと一息つく。カナカナの合唱が響き渡っている。ツクツクボウシも泣き始めた。今日新たに耕した場所にブロッコリー苗30本を植えた。タップリ水やりして作業を終えた。がんばれよ、暑さに負けず大きく育てよ・・・そう言葉を掛けて本日アガリとした。

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