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田舎暮らしの本 1月号

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田舎暮らしの本 1月号

12月3日(火)
890円(税込)

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異常気象―そしてパリ五輪/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(56)【千葉県八街市】

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 8月12日。「オリンピックが嫌いだ」。

 昨日よりもさらに1度気温は高くて37度。燃える、焼ける、溶ける・・・野菜たちのうめき声が聞こえる。ホースが届く範囲で、生姜、サトイモ、ゴーヤに水やりする。それからピーナツをチェックする。おそらくハクビシン、その被害が始まったのは半月余り前。ブルーネットで覆い、ネットの裾をピンで留めた。しかし、ピン同士の距離が少しある部分を巧みにくぐり抜け、マメを掘り出して食う。予備のピン100本ほどを手に、今朝はさらなる防備に汗をかいたのである。

 ランチで部屋に戻る。部屋の柱に固定した扇風機がある。だがそれだけでは効果なし。寝室で使っている扇風機を持ってきて足元に風を送り込む。無いよりはマシだが、裸の肌に当たる風はほとんど温風だ・・・説明がいるか。午前の作業を終えた僕は、いつも、昨日の風呂の残り湯で全身を洗う。何かをくぐり抜けたり這いまわったりで、かいた大量の汗に泥が付着しているのだ。そして、一糸まとわぬ姿でいつもランチする。いま零時半。室温は35.4度。ランチしながら見たNHKのテレビが岩手県に上陸した台風5号の影響を伝えている。増水した川のすぐそばに農家があって、おそらく農機具などを収めておく小屋であろうか、それが傾き、今にも水の中に転落しそうだ。そして僕はハッとした。小屋の天井に8枚のソーラーパネルが取り付けられている。家主の無念さが伝わって来る。

 パリ五輪が閉幕し、トム・クルーズの登場で最後の盛り上がりを見せている。熱狂渦巻いた17日間であったが、正直、やれやれ、これで静かな日常に戻れるという心情でもある。チャンネルを問わず、時間を問わず、テレビはどこもオリンピックでにぎわい、普通のニュースやドキュメンタリー番組も見たいなあというのが素直な感情でもあった。その素直な感情をユーモア込めて書いたのが翻訳家・岸本佐知子さん。天声人語がそれを紹介していた。

「オリンピックが嫌いだ」。翻訳家の岸本佐知子さんが、たっぷりのユーモアを込め、随筆集『ねにもつタイプ』に書き綴っている。いわく、「朝から晩までオリンピックオリンピックとそのことばかりになるから嫌いだ」と。筆致柔らかく、「メダルの数に固執するから嫌いだ」とも書く。金銀銅のメダルはやめて、どんぐり、煮干し、セミの抜け殻にしたらと提案している。「メダルを取らなかった選手と種目は最初から存在しなかったことになるのが嫌いだ。国別なのも嫌いだ」。岸本さんの気持ちは半分ぐらい、わかる気がする・・・。

 少し笑った。僕には、半分ぐらいではなく、ほとんど岸本さんの気持ちが分かる。笑ったのは、金銀銅のメダルじゃなくて、どんぐり、煮干し、セミの抜け殻にしたらという部分だ。表彰台でメダリストの多くはメダルを齧って見せる。煮干しは齧れるだろう。しかしドングリとセミの抜け殻はどうか。まあ、4年に一度の世界的祭典。朝から晩まで興奮の連続というのも悪くはない。ただ、全身どっぷりそれに漬かってしまうと、まさしく宴の後に生じる無力感、脱力感に襲われてしまうのではないか、僕はいらぬ心配をする。時あたかもお盆休みのシーズン。その休みが終わり、オリンピックも終わり、元の生活、元の仕事に戻っていくにはかなりのエネルギーを要するのではあるまいか。

 午後4時15分。仕上がった荷物を積んでクロネコ営業所に向かう。この時刻になると太陽はだいぶ西に移動している。しかし、真上からの光に劣らず、西日というのもかなりの熱さをもたらす。我が軽トラにはエアコンがないせいでもあるとは思うが。軽トラを走らせながら、電力需給はどうなっているのだろうと、ふと考えた。この暑さである。どこの家庭もエアコンがフル稼働しているはずだ。そこからもう少し、僕の連想が広がった。生成AIとはどのようなものか、その知識がないくせにこんなこと言うのはおこがましいが、生成AI使用の高まりによって電力需要は急激に高まるとの記事を、朝日、読売で相次いで読んだからだ。AIは、答えを得るために必要な計算量が通常のコンピュータープログラムよりも大きいらしい。将来、グーグル検索が全てAIの応答に置き換わると、なんと100万キロワットの原発1基分以上の電力が必要になるというのだ。大丈夫か・・・従来からの火力発電に頼らない、例えば、CO2を発生させない、水素を使った発電というのも開発されているのだとは聞く。しかし、グーグル検索だけで原発1基分の電気となれば、科学的知識のないままに僕は言うのだが・・・新たな大気汚染、そして温暖化という結果をもたらさないだろうか。何事でも、便利さには代償が求められる。スマホひとつあれば何でもできちゃう時代。しかし、その便利さはタダでは手に入らない。

 仕事を終えた午後7時。部屋の水槽で、うんざりしたような顔して水面近くを泳ぐウナギたちにいっときのくつろぎを与えてやる。水を入れたペットボトルが常に何本も冷凍庫にある。それを昼と夜、1本ずつ水槽に入れてやるのだ。その冷凍庫、もし大地震が来てコンビニやスーパーがアウトになっても、1か月くらいは平気というくらい肉、魚、パン、チーズなどが詰め込んである。幸い快晴続きなので太陽光発電は十分な電気を作ってくれている。ただし、外気温が高いせいだろう、冷凍庫の側面がかなりの熱を帯びている。頑張ってくれている・・・大丈夫かい、苦労をかけてすまんな。何かを取り出しに行って、僕はそっと壁面を撫でながら囁くのである。

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