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田舎暮らしの本 1月号

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12月3日(火)
890円(税込)

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異常気象―そしてパリ五輪/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(56)【千葉県八街市】

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 8月13日。「機械というものを使うと、機心が出る」。

 今朝は久しぶりにランニングでなく、自転車にまたがった。我が家から、自転車ならば10分程度。東京などでハイクラスな生活をしてきた人、そういう人が自然豊かな環境の中で第二の人生を過ごす場所・・・入居金3千万から4千万、食事込みの月額家賃が25万円、医療施設もある・・・。汗と泥にまみれ、エアコンなしで熱帯夜をやり過ごすこの百姓とは異次元の世界である。

 今日もすげえ暑さだなあ・・・畑に行くためにいつもこのカボチャの下をくぐる。僕はついつい、黙って通り過ぎるのは悪い気がして、チョッピリ言葉を口にするのである。もとは通路に勝手に芽を出したカボチャだ。踏まれても踏まれても立ち上がろうとするその心意気に僕は打たれ、育ててやることにした。そしたらなんと、とんでもないパワー。写真の左にソーラーパネルが4枚あるのだが、その表面を覆い尽くし、ツルは反対方向にも伸び続け、太陽光発電のケーブルに巻き付いた。こんな場面ではいつも子供になる。ふふっ、なんだか面白そうだなあ。ケーブルだけではカボチャの重さを支えきれないので支柱を立ててやった。本当は支柱がもう1本あればいいが、そうすると通りにくくなる。カボチャの実は全部で7つある。最後はどうなるだろうか・・・楽しみにしているのである。

 昨日までとは別の、秋ジャガを植える場所を新たに開拓する。1か月前までエダマメがあったのだが、ああ夏草の勢いとはすごい・・・ごらんのとおりである。気温は今日も36度。丈の高い草をまず引っ張る。あっさり抜ける場合。途中で切れて、根っこが残る場合。残った根っこはスコップを使う。雨なしのカラカラ天気は今日で何日目になるか。水分のない土を相手にしたスコップ仕事はふだんの倍のエネルギーを要する。

 孔子の弟子、子貢(しこう)が楚の国を旅していたときのことだ。年老いた農夫が一人で瓶(かめ)に水をくみ、畑にまいている。ひどく労力ばかりが多く、仕事の能率が悪いのを見て、子貢は声をかけた。「水をくむならいい機械がありますよ」。農夫は答えた。「私も知っている。だが、機械というものを使うと、機心が出る」。何かと機械に頼り、効率ばかりを追いかけるようになるのが「機心」である。そんなカラクリの心は不純だと農夫は言った。『荘子』が伝える有名な故事だ。

 スコップ仕事をしながら思い出されたのが天声人語だ。筆者が書きたかったのは「ウィンドウズ」が入ったパソコンなどが世界各地で異常停止した問題。影響は850万台に及び、5000以上の航空便が欠航した。その本論に入る前の冒頭が上に引いた文章なのだ。天声人語の筆者は後に続けてこう書いていた。

 筆者のパソコンも突然、画面が真っ青になり、止まった。原因は聞いたこともない米企業のソフトの不具合と知り、さらに驚く。多くの人が意識せぬところで世界は無数のネット上のつながりに支えられ、動いている。それは便利で、もはや無くてはならないものだけれど、ある日、一瞬にしてすべてが崩れる危うさも秘める。そんな不安な現実に思う。私たちはいま、「機心」に引っ張られすぎてはいないか。荘子の話には続きがある。農夫の言葉を聞き、孔子は言った。「彼は一を知りて二を知らず」。機械に頼り過ぎず、かといって拒否もせず、よく自然と生きるべし。古(いにしえ)の賢人はそう教えてくれている。

 僕も機械のお世話になっている。スマホはないが、パソコンでもって、仕事上の連絡、あるいは友人・知人・兄弟とメールを交わす。この原稿もパソコンなしではやれない。そのパソコンが先週3日に渡って使えなくなり不便な思いをした。事情はなんともお笑いだった。電気の鍋で魚のアラを煮た。鍋の大きさに対して魚が多すぎるなあと思ったが、まあいいさ・・・案の定、仕事から戻って見るとかなり吹きこぼれていた。魚の白身が電気のコードにこびりついていた。そして熱帯夜。少しでも風を通そうと、ふだんは動物侵入を阻止するために閉めるガラス戸をその夜は開けて寝た。魚の匂いを嗅ぎつけたのだろう。何かの動物が白身の付着したコードを齧った。まことに不運なことに、その電気コードとNTTのルーターに繋がる光ケーブルが隣接していた。ヤツはそれもついでに齧ったのだ。パソコンのない暮らし。ポッカリ心に小さな穴が開いた感じだった。ふだん、ふるさと納税の荷物はクロネコに集荷依頼をするのだが、電話もメールもダメとなれば、連日軽トラを走らせて自分で行くより仕方がなかった。

 かように、我が暮らしも機械のお世話になっている。しかし、不思議と言えば不思議だが、農作業に関しては機械に頼ろうという気持ちは生じない。今年のような猛暑の中では草刈りひとつ、人力ではハードなのである。それでも機械が欲しいと思ったことはない。手作業でやってやれないことはないと思いつつ10年、20年とやるうちに、このやり方がすっかり板についてきたらしい。人力でやると対象との距離が縮まる。いやでも草の根や土と向かい合う。これが案外といい。荘子には瓶(かめ)に水を汲み、畑にまいてやる農民の話があるが、僕も30メートルの水道ホースがどうしても届かない場所にあるナス、キュウリ、ゴーヤなどには両手に下げたバケツで水やりする。喉の渇きでグッタリしている野菜たちが、僕が運んだバケツの水でホッとした表情を見せる・・・。「機心」が過ぎると、このほっこりとした小さな喜びには出会えないのかもしれない。

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