電気も水道もない山で7カ月のテント生活
2014年、オーストラリアで山暮らしの思いが芽生えてから7年が経っていた。そのときも何となくインターネットで物件を探していた。パソコンの画面には、いつもと同じようにあまり代わり映えしないたくさんの山林物件が並んでいたが、その中に1つだけ目をひく物件があった。場所は岡山県美作市。縁もゆかりもない土地だが、足を運んでみることにした。
「それなりの水量がある沢が流れていたのが一番の決め手です。決して広くはありませんが平らな土地があったのもよかった」
土地は8000坪の山林。価格は220万円だった。
当時は大阪で炭焼きの仕事をしていたが、山暮らしを始めるのを機に辞めた。そして、2年ほど前に出会い、交際していた千里さんと結婚。
「私も、キャンプとかアウトドアは好きだし、自然の中での田舎暮らしは憧れでしたけど、ここまでのサバイバルは想像以上でしたね(笑)。せめて古民家でしょ。でも、自分たちで創意工夫しながら暮らしをゼロからつくっていくって、やってみるとそれなりに楽しいところもあるんですよ」と、妻の千里さんも納得しての山暮らし。そんな2人を見ていて、誰もがこう言う。「奥様がエライ!」。
住まいはテント、調理はロケットストーブ、水は沢水、洗濯も沢、風呂は薪焚きの露天風呂、トイレは森の中。そんな生活が約7カ月続いた。季節は夏から冬になり、山には雪が積もった。かねて建築中だった小屋がとりあえず住める状態になったのは2015年1月。長いテント生活が終わった。
「雨風を気にせずに暖房の利いた部屋で布団を敷いて寝られるっていうのが、もうそれだけで感動でしたね」と、そのときの安心感を思い出して、顔をほころばせる千里さん。それもそのはず、当時妊娠3カ月。雪が積もるテントの中で、その日々を過ごしていたのだから。
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