「世の中の仕組み」を変えていきたい
―― 米井ファームが位置する津山には、どんな特徴があるんですか?
「気候的にいえば、津山は盆地なんで、寒暖差が結構あるんです。県南の方は平地で作業もしやすいんだけど、寒暖差があまりないからお米に味が乗ってこない。南は夜も気温がずっと高いんですよね。そうすると、稲が寝られなくて体力消耗しちゃう。本来は、昼間生成した糖分を夜に溜め込むんですけど、気温が高いと、夜も呼吸で糖分をたくさん使っちゃうんですよ」
―― なるほど。だから甘みが減っちゃうんですね。
「そうなんです。だから県南よりは県北の方が味が乗りやすい。それはもう、何の作物にしてもそうです。あとは、ホントか嘘かわからないんですけど、米井ファームのある高倉という地域は、昔、海の底だったらしいんですよ。だから、海由来のミネラルをたっぷり含んだ土質が、植物にはいいように作用するらしい、というのもあります」
―― 米井ファームは今年で4年目だそうですが、実際に農業をやってみていかがですか?
「やっぱり大変は大変ですね。大変っていうのは、もちろん体力的に大変っていうのもあるんですけど、世の中の仕組みが出来上がっちゃってることが大変というか。僕はそこを変えようと思ってるんですよね。『農業は儲からん』っていわれていて、だからやる人が少なくなってるんですけど、それはもう仕組みが出来上がっちゃってるからなんですよ。
農家が生産して、それを農協(農業協同組合)に出荷して、その後全農(全国農業協同組合連合会)にいって、米屋さんにいって、小売業にいって……という流通のルートも大きく決まってたり、価格の決定についても、お米でいうと、もうお米ってほぼ金融商品なわけですよ。先物取引もなされちゃうような。だから、たとえば米どころである秋田県のお米の価格がこれだよってなったら、うちの米(の品質)とか関係なしに値段が決まっちゃうという相場感があるんですね」
―― 品質で絶対評価みたいなものがあるわけではないんですか?
「もちろん、ある程度はあります。1等米、2等米、3等米と、品質によって価格差をつけて流通させるというのはあるけど、岡山県の1等米と秋田県の1等米が大きくは変わったりしないんですよ。で、多少なりとも儲けるために、やれ差別化だ、ブランド化だみたいな話があるんだけど、僕は『それって意味あるんかな?』みたいに思っていて。
本当に大事なのは、年によって、10俵獲れる年もあれば7俵しか穫れない年もあるじゃないですか。当然、同じだけのコストをかけてるんだけど収穫量に差が出てしまう。それって結局天候が理由なんですよね。そういう、農家の努力ではどうにもならないような要因で収穫量が変わってしまうことがあるから、そこは生産者と消費者がうまく折り合いをつけて、収穫量が少ないときはちょっと高くても買ってもらうとか、そういうことをやっていかないと続かないんですよ」
―― 同じコストがかかってるのに、収穫量が少ないときも同じ価格じゃ困りますよね。
「だけど、今までの商業的な慣習からいくと、生産者、卸業者、小売業者と業態がそれぞれ分かれていて、その企業間の取引に尽きるわけですよ。もちろん、最初に“お米60キロで1万5000円ね”って価格を決めることはできるんですけど、それはあくまでビジネス的な感じじゃないですか。心の通い合う取り組みではなくて、取引に過ぎないというか。けど、それじゃあ良くなっていかないよね、って僕は思っていて。
サプライチェーン全体では、生産がミスしたり、加工がミスしたり、人間だから失敗することって誰しもあるじゃないですか。そういうのはみんなでフォローしあって、カバーし合ってやっていく。で、うまくいったときは、みんなでその喜びを享受し合う……みたいな仕組みにならないと。誰かが失敗したときに『おまえが失敗したんだから、自分でケツふけよ』みたいなことじゃ、良くなっていかないよねって思っていて。だから、僕はこれから仕組みをいろいろ変えていきたいと思ってるんですよね」
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