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田舎暮らしの本 1月号

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12月3日(火)
890円(税込)

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柳葉敏郎さんインタビュー「当たり役と言われる役を得たこと、半分は大感謝で半分は大迷惑(笑)」|映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』

あの「踊るプロジェクト」の最新作が、2部作の映画として公開される。主軸を担うのは、お堅い警察組織の中でひたすら不器用に理想を追う、室井慎次という男。果たして12年ぶりとなるシリーズ最新作『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』はどんな映画なのだろう? また“当たり役”を得た俳優としての苦悩について、室井と同じ故郷・秋田への思いとは? 柳葉敏郎さんに聞いた。

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掲載:2024年12月号

田舎暮らしの本のインタビューを受ける柳葉敏郎さん
やなぎば・としろう●1961年生まれ、秋田県出身。1984年、路上パフォーマンス集団「劇男一世風靡」から派生した「一世風靡セピア」のメンバーとして話題を呼ぶ。近年の主な出演作にNHK連続テレビ小説『ブギウギ』などのTVドラマ、『泣く子はいねぇが』『光を追いかけて』『いのちの停車場』『天間荘の三姉妹』『仕掛人・藤枝梅安』『シャイロックの子供たち』などの映画がある。

 

「踊る」に携わった皆さんに恩返しを

「この十数年、室井慎次から逃げてきました。一俳優としてそこに収まりたくないという気持ちが強く、背中を向けた部分があった。この話を頂いたときも最初は、〝無理です、考えさせてください〞と言ったんです」

 そう明かすのは俳優の柳葉敏郎さん。まさに〝一世を風靡〞した『踊る大捜査線』、1997年に始まったTVシリーズから室井慎次を演じ続けた。12年ぶりとなるシリーズ最新作、映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』への出演を振り返って口火を切る。

 「当たり役と言われる役を得たこと、半分は大感謝で半分は大迷惑(笑)。どうしても室井をイメージした役柄のオファーを頂くし、自分では対照的な役柄で暴れたい!とも思う。そのイメージから抜けられないのは自分の力不足かもしれませんが、打ち破りたい気持ちがあるのも確かで。その葛藤はキツイものでもあります。室井が悪いわけじゃないですけど」

 まるで友人のように、室井をかばう柳葉さん。そんな彼の葛藤をぶち破ったのは、シリーズ開始から共に闘う脚本家の君塚良一さんが、プロデューサーの亀山千広さんに送った一通のメールだった。その内容を当然知りたくなるが、食い気味に「言えません!」と即答する。

 「ただ……普段そんなことはしないのですが、どうしても納得してこの作品に入りたくて。僕を説得してくれと言ったんです。自分の中の何かが吹っ切れて覚悟ができるように」

 その説得も一度は物別れに終わるが、2度目のやりとりで柳葉さんの覚悟が定まる。

 「たぶんそれは奥の手で、本人にメールの内容を見せていいものか、亀山さんもず〜っと悩んだと思います。改めて、2人の室井に対する思い入れには強烈なものがあるなと。このシリーズに携わった皆さんへの恩返しをしなきゃいけない。これは、自分に与えられた使命だと。なんか格好いい? でしょ。つくり話みたいだよね」

 すべては現場で闘う捜査員のため。正義を信じて理想を追い、警察の組織改革に挑んだ室井慎次。彼が大切にする信念というもの、そこにブレはないはず――。そう信じ、柳葉さんは撮影に挑む。警察を辞した室井は故郷に戻り、畑を耕しながら里親として、行き場のない子どもの面倒を見ていた。そこには事件の被害者家族、加害者家族を支援したいという思いがあった……。制作サイドとの意見もマッチし、舞台は柳葉さんの故郷でもある秋田に。

 久しぶりに室井を演じるにあたり、柳葉さんは過去の作品を見直さなかった。感覚を頼りに演じよう、そうして最初に撮影したのは、映画に室井が初めて登場するシーンだった。

 「室井の歩き方はこんなものだろうと演じ、モニターで確認すると、ううむ!? 全然違うな、これはいかん!と。歩き方をすっかり忘れていたんです。それで、背筋に力を入れようと思って。テーブルに着いて食事をするときも気を使っていました。背中がつりそうになるんですけど」 

 畑に立つ柳葉さんは例のオールバックでもスーツ姿でもない。でも、室井慎次にしか見えないから不思議だ。

 「監督を含めてスタッフの、〝踊る〞シリーズへの気持ちの入り方は大変なもので。柳葉が室井として登場するだけで感動するんですよ! もちろんうれしくないことはないですけど、それに甘えちゃいけないなあって。俳優のエゴかもしれませんが、まだまだだぜ?って、そう思いながらのクランクインでした」 

 そんな室井の前に、日向杏という名の少女が現れる。『踊る大捜査線 THE MOVIE 3ヤツらを解放せよ!』で小泉今日子の演じた猟奇殺人犯、日向真奈美の娘だった――。

 柳葉さんは、「踊る」シリーズにリアルタイムで触れていない子どもたちと共演した。

 「里親と里子の関係で、役柄としてはあまり仲よくなってはいけないし、室井はいろいろと悩んでもいて。でも、控室で僕のタブレットに入っているアプリで遊んだり、撮影の合間に一緒にご飯を食べに行ったり……。かなり仲よくなりましたね(笑)。子どもが大好きなので〝お父ちゃん〞として、ちょっとした厳しさや優しさを感じてもらえたら。そんな時間を過ごしました」 

 撮影を終え、本広監督から「あとは任せてください」と言葉をかけられたそう。作品は2部作として公開されることになる。

 「試写を観終わって、訳のわからない涙が出て止まりませんでした。なんだろうこれ!?という涙がぼろぼろと。理由はわかりません。わからないけど、でも……一瞬、室井の悔しさがよぎったんですよね。よく言う〝ビビッとくる〞ってこれか!と。それで、彼が抱いたはずの悔しさがどーんと胸を突き、また涙が出ました」 

 それは長年、室井を演じ続けたからこそ感じた心の痛みに違いない。すると、「まあ親友だからね!」と柳葉さん。

 「自分にとっては、2部作の映画ではありません。でも、観てくださる方は、続きがものすごく気になるでしょうね。どうなるかについては何も言えませんが、もし2本すべてを観ていただいたあとなら、さっき言った君塚さんからのメールの内容についてお話しできると思います」 

 柳葉さんの心を動かした何か、それが映画の核を成すのは確かなよう。それにしても俳優は、演じた役柄とそんなつながりが生まれることもあるのだろう。

 「柳葉には柳葉の人生があり、自分の中には室井が、親友としてずっと存在している。こいつに教えられたことはいっぱいあります。彼が柳葉敏郎の人間形成をしてくれました。これまで演じてきた役柄もそうでしょうが、室井はやっぱり、長い付き合いですから。特別な存在なのは確かですね」

田舎暮らしの本のインタビューを受ける柳葉敏郎さん

 

 「父親としての背中を見せるため」、故郷へ 

 柳葉さんの地元愛、室井と同じ秋田への思いはよく知られている。今のように二拠点居住という言葉が耳なじみになり、地方移住がポピュラーになるずっと前から、秋田に居を構える。

 「上京するときから、家族ができたら秋田で暮らそうと思っていました。だから自分にとっては特別なことではなくて。まあ、そのために、家族の承諾を得るのは大変でしたけど」 

 娘が小学校へ入学する前に、それが具体的なタイミング。

 「東京で父親はやれないだろうという思いがありました。東京では相手の素性がわからないことって多いですよね。町内会の付き合いがある地域もあるでしょうが、地方から来て、文化も習慣も異なるところで生活している人がほとんどで。そういうところで人としての純粋な気持ち、素直な感情を持つことを教えるのは難しい。でも、親になったら、勇気を持って人の中に入り込んでいかないといけない場面もあるはず。自分にそれは難しそうだなと。でも、田舎ってわかりやすいんですよ、いいやつ悪いやつ、気の合う人合わない人が。それで自分が生まれ育った、知り合いのたくさんいるところなら父親としての背中を見せてやれるだろうと。親のエゴかもしれませんが」

 長女は24歳に。秋田生まれの長男は高校1年生になった。

 「2人とも素直な感情を持ち、仲間に恵まれています。それで下の子は今、青春真っただ中。うらやましいよね〜! 野球をやっていて、たまに練習試合に出させてもらうくらいだけど、2時間かけて応援にも行くし、保護者会にも行く。息子はバントがうまいんですよ。足は……これから速くなるんじゃないかと(笑)。自分も野球をやるけど、もう高校生になると全然歯が立たない。一緒にキャッチボールするにも〝絶対に全力で投げるなよ。お願い、七分(ななぶ)の力で投げて〞と頼むくらい(笑)」

 取材前、そんな柳葉さんが、地元のお祭りに参加する様子を動画で観ることができた。地区ごとに分かれ、大勢で巨大な綱を引く。つまりは綱引き! 雪の降る中、掛け値なしの必死さで勝負にこだわる柳葉さんの姿はあまりに地域になじんでいる。そこに、芸能人的気取りはゼロ。

 「あそこで芸能人らしく振る舞っても、何気取ってんだ?って誰も相手にしてくれないもん。全然フツーですよ。スーパーにもショッピングセンターにもホームセンターにも行くし。それで年に一度、小さな町がお祭りで1つになり、ワクワクした時間を過ごすって、田舎ならではの醍醐味。自分も幼いころ、あの綱につかまって引っ張っていたお祭りでもあって、子どもたちが故郷の温かみのようなものを抱いてくれたらいい」

 例えば、室井は畑に出て野菜づくりに精を出すが、柳葉さんはそこに興味はない様子。

 「だって、いろいろな人が持ってきてくれるんだもん。一昨日も、町内の後輩からミニトマトをもらったし。秋になるとおいしいキノコを持ってきてくれる仲間もいて、自分でやる必要はないんですよ」

 柳葉さんにとって秋田で暮らすことは、自然に囲まれた暮らしに憧れる都会人とは少し違う。幼少期から親しみ、当たり前にそこにあるもの。

 「田舎に夢を持ってないですからね。自分が生まれ育ったところで、仲間がいて。田舎っていいよ〜!と思いながら暮らしているだけ。でも、都会からせっかく来てもらっても、田舎のよさがわからずに帰ってしまうパターンもあるでしょう。すると田舎で暮らす人間としては、どうしたらいいんだ!?と考え込んでしまう。だからこれから田舎への移住を考える人には、覚悟を持ってくださいねと」

 子どもが幼いころから、雪が降れば「(雪を)寄せねぇと、家に入れねぇぞ」と一緒に汗を流した。自然とともに生きるには、厳しさがあるのも当然のこと。

 「都会では四季の喜びやつらさを感じられません。たった5cmの雪でインフラが止まってしまうのも怖いけど、それはまた別の話で。秋田では確かに冬場の雪は大変ですが、だからこそ、冬が過ぎ去ったときには春の喜びがある。そうしてその地域の楽しさもつらさも感じながら日々を送ってほしいなぁって」

 そうして地に足の着いた暮らしをしながら、俳優としての道を進む柳葉さん。俳優としての今後をどう見据えるのだろう。

 「若いころから変わらないのは、よかれ悪かれ、お客さんを裏切りたいということ。何これ、柳葉!?と思わせたい」

 よくよく考えたら、室井慎次という役も最初はそうだった。一世風靡セピアとしてのクールな姿は知っていたが、くしゃっと破顔した人懐こい表情が印象的なお兄ちゃん。柳葉さんには、そんな印象もあったから。

 「最初のTVシリーズの、2話か3話目で〝殉職させてくれ〞と言ったんです。あまりにも寡黙過ぎて演じられないって。ただねぇ、当時、自分は結婚したばかりで。かみさんが室井を観て、〝格好いい!〞って言うんです。それで、続けよう!と思って。かみさんがそう思うならやるしかない。これってちょっと、いい話だよね(笑)」

 

『室井慎次 敗れざる者』
『室井慎次 生き続ける者』

(配給:東宝)

『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』/©2024 フジテレビジョン ビーエスフジ 東宝
●監督:本広克行 ●出演:柳葉敏郎、福本莉子、齋藤潤、前山くうが・前山こうが、松下洸平、矢本悠馬、生駒里奈、丹生明里(日向坂46)、松本 岳、佐々木希、筧 利夫、甲本雅裕、遠山俊也、西村直人、赤ペン瀧川、升毅、真矢ミキ、飯島直子、小沢仁志、木場勝己、稲森いずみ、いしだあゆみ ほか ●『室井慎次 敗れざる者』全国公開中、『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)より全国公開
©2024 フジテレビジョン ビーエスフジ 東宝 https://odoru.com/

「現場の刑事が信念を曲げずに捜査できるようにする、そう“彼”と約束した」と語る室井慎次(柳葉敏郎)。彼は警察を辞め、故郷である秋田の山里に暮らしていた。家族はつくらず、里親として少年たちの面倒を見ながら畑を耕す日々。そこに謎の少女、日向杏(福本莉子)が現れる。しかも室井の自宅近くで、他殺と思われる死体が発見される。

 

 

文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 
ヘアメイク/関谷まゆみ スタイリスト/佐藤ミサキ

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