掲載:2021年7月号
野菜や果物はもちろん、畜産物からワインまでさまざまな食の宝庫として名高い広島県世羅町。駅伝のまちとしても有名だ。観光にも力を入れており、花や果樹の観光農園も多い。このまちをセカンドライフの舞台として選び、農家民宿を営む松河さん夫妻を訪ねた。
500坪の敷地を生かし、野菜と花々の楽園に
広島県を代表する農作物供給基地である世羅町へ2014年、兵庫県から移住したのが、松河敬吾(まつかわけいご)さん(67歳)・君子(きみこ)さん(64歳)夫妻。大手外食企業の定年退職を機に行動を起こした、と敬吾さんは振り返る。
「退職後は自然豊かな場所で暮らし、農業がしたいと考えていました。花屋で勤めていた妻も、庭に花をいっぱい植えたいという夢があったんです」
候補地として敬吾さんの実家がある広島県三次市(みよしし)の周辺で探し、世羅町の空き家バンクで理想的な物件を見つけた。敷地約500坪と広く、価格は300万円。700万円ほどをかけて快適な仕様へ改修し、ウッドデッキと椅子やテーブルはDIY好きの敬吾さんが自作した。
荒れていた庭は小型のパワーショベルを借りて雑草を一掃し、半分ほどを活用して花畑へ。同時に菜園を少しずつ整え、野菜や果樹を植えた。現在は近隣2カ所の休耕地も借り、夫婦で多品種の栽培に励む。
「今年はジャガイモだけでも種類。野菜の一部は市場で販売もしますが、売り上げは種苗代を補う程度で、経費を考えると大赤字(笑)。防獣ネットがイノシシに破られ、収穫期を迎えたジャガイモやカボチャが食べられるなど苦労は絶えませんが、気にせず楽しんでいます」
3年前には「まちに少しでも貢献できれば」と、農家民宿「華樹庵(かじゅあん)」を開業。無理のない範囲で客を受け入れている。
日々の活動を通じた人との交流の喜びに加えて、松河さん夫妻の至福のひとときが夏の夕暮れ。畑仕事を終えてウッドデッキで一杯やりながら花と緑が彩る庭を眺めていると、「この瞬間のために移住したんだなあ」としみじみ実感するという。
【技あり!松河さんの菜園の工夫】
自家製液肥で野菜の甘味が向上
松河さんが使用している「えひめAI(あい)-2」は、愛媛県工業技術センターで開発された発酵肥料の一種。納豆、ヨーグルト、ドライイースト、砂糖、水を混ぜ合わせてつくるもので、畑に散布すると野菜の生育促進や土壌改良の効果が期待できる。
「野菜が柔らかく仕上がり、甘味が増すんです」と松河さん。
【松河さんの移住データ】
●改修にかかった費用(概算)
約700万円
上水道引き込み、トイレ水洗化、 ガス工事、浴室改装、太陽熱温水器設置ほか。
●地域でかかる費用
自治会費…年1000円ほど
神社費…年5000円など
●参加している行事
とんど・新年会、花見、田植え後の泥落とし、地蔵盆祭り、芋煮会、 忘年会、年2~3回の草刈りなど。
【世羅町“農”トピックス】
プロの指導付き!「ひまわり村農業体験農園」がオープン
住民組織の中央自治会では道の駅世羅と連携し、農村交流の場にもなる体験農園「ひまわり村農業体験農園」を今年4月に開設。利用者は約30品種から希望の野菜を選び、環境に優しい農業に取り組む。「植える、食べる、お裾分けするという楽しみを味わって」と農園主の橋川正治さん。1区画年3万3000円。
お問い合わせ:中央自治会事務局(世羅町中央自治センター内) ☎︎0847-22-1368
文/笹木博幸 写真/福角智江
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