掲載:2021年8月号
千葉県の施設で無農薬のホーリーバジルを栽培していた男性が定年後、不思議な縁で福井県へ夫婦で移住。ハーブティーを中心に製造販売しながら、5年で6倍を超える収穫量を実現した。そして、さらに大きな夢へと向かう2人の経緯とこれからとは――。
初めて現地を訪ねた当日に無償で使える畑が決まる
無農薬、無消毒、無肥料で栽培したホーリーバジルをお茶やアロマオイルなどにして販売している杉茂樹(すぎしげき)さん・早苗(さなえ)さん夫妻が初めて池田町を訪れたのは、2015年だった。雪深い2月、鎌倉時代から伝わる田楽能舞(でんがくのうまい)を見学した。そして、「今思い起こしても不思議」と2人が振り返る体験をする。その日のうちに3反(約2970㎡)の畑や農機を無料で使わせてくれる人が現れ、翌日には借家が見つかったのだ。春には、池田町へ移住した。
2人が池田町を知ったきっかけは、ほかでもないホーリーバジルだった。
ホーリーバジルは、免疫促進や抗ストレス作用があるといわれるポリフェノールをはじめ、心とからだのバランスを整える成分を多く含み、古くからインドで珍重されてきたハーブだ。
移住前、茂樹さんは、千葉にある障害者福祉施設で利用者たちと自然農でホーリーバジルを栽培していた。ハーブティーにして販売すると好評で、友人の紹介で知り合いになったなかに、そのハーブティーを愛飲している池田町出身の人がいたという。
「その方から池田でも栽培できないかと相談を受けて、池田町の四季を紹介するパンフレットを見せてもらううちに豊かな自然にひかれ、住みたくなってしまったんです」(茂樹さん)
ホーリーバジルに理解を持つキーパーソンを得て、住む場所も畑もトントン拍子に決まった。しかし、ハーブティーで収入を得るには、栽培から始めなければならない。茂樹さんは、生活費を稼ぐために、草刈りや田植え、プールの監視員、送迎バスの運転手、雪下ろしなど、頼まれた仕事はなんでもした。
2年目に公庫から資金を借り、栽培が本格化。だが、品質にこだわる杉さん夫妻は、収穫・洗浄・自然乾燥・ほぐしを経て選別する段階で、約半分を処分してしまう。手間がかかって収益が上がらないなか、町長に相談してみると、町内事業者対象の補助制度について教えられ、昨年、合同会社「結舎(むすびや)」を設立。町や商工会の補助で、アロマオイルやハーブウオーターなどを商品化し、東京にある県のアンテナショップでも販売できるようになった。
3反の畑で始めた6年前の収穫量は約3000本だった。それが、現在では2町(約1万9800㎡)の畑で2万本が花を咲かせるようになった。昨年製造した商品はすでに完売。そして、今年から低温乾燥機を導入し、半分処分していた収穫物も100%製品化できる予定だ。
「まだ、ホーリーバジルだけで生活するには厳しいですが、将来は、6万本のホーリーバジルが穫れる観光農園を開きたい」
と語り合う2人の笑顔には、妥協なくいいものをつくり、消費者に喜んでもらっている手応えと自信がうかがえる。
杉さん夫妻からのアドバイス
「やりたいことをやる前に、まずはコミュニケーション!」
移住前に心に決めていたことは、集まりには必ず参加することでした。まずは地域の輪に溶け込むこと。ウチの場合は、アルバイトがとてもよい人脈づくりになりました。また、そうしていると、地域で自分にできることが発見できますし、自分がやりたいことや考えを相手に伝えたとき、自然と後押ししてくれるようになります。地元の人とのコミュニケーションを上手に取ることが大切です。
池田町移住支援情報
“食”を通じた人びとの交流拠点が充実!
池田町食品加工研究支援施設「食LABO」は、まちに受け継がれてきた食文化と、育んできた農産物を生かした町民による商品開発・製造を支援する施設。ここで製造したお菓子やお総菜、瓶詰め食品などはまちの駅「こってコテいけだ」や「いけだマルシェ」で販売可能だ。空地や空き家、仕事、移住前後の生活全般の情報は「いけだ暮LASSEL (くらっせる)」に問い合わせを!
移住・定住相談窓口「いけだ暮LASSEL」☎0778-44-6888
「いけだガイド」 https://www.e-ikeda.jp/iju/
文・写真/吉田智彦 写真提供/池田町
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