住民が率先してまちを盛り上げる琴浦町(ことうらちょう)。定住促進にも民間の力が発揮されている。移住者支援団体「琴浦ポレポレ(※)な暮らし」のその取り組みと、そこで交流を持ち、定住・起業した松尾匠真さんの暮らしぶりを紹介する。
※ポレポレとはスワヒリ語で、ゆっくり、のんびりといった意味
掲載:2021年11月号
地元の支援に背中を押され、新拠点「OITOMA(おいとま)」が始動
豊かな食の発信や観光振興、地域づくりなど、琴浦町は20を超える団体が活動する、まちづくりが盛んな熱い地域だ。そんな熱が伝わるのか、町には年間100人以上が移り住んでいる。
2014年には、彼らの移住生活を支える「コトウラ暮らし応援団」が有志により設立された。創設者の馬野慎一郎(うまのしんいちろう)会長は「住居・職探しなどの支援と、定期的な交流事業が主な活動です。暮らしのなかの相談や、友達づくりの場にしていただけたらうれしい」と趣旨を語る。
活動歴7年、途中「移住者に限らず、のんびりと田舎暮らしを楽しむ会にしよう」と、名称を「琴浦ポレポレな暮らし(以下ポレポレ)」と改めた。町内外問わず誰でも参加でき、座談会や自由な会話を楽しむ。梨農園ツアーなどイベントも実施。
この会で「住まいの希望がかなった」と話すのが、松尾匠真(まつおたくま)さん(31歳)。福岡県福岡市の出身で、ヒッチハイク旅行中に滞在した琴浦町が気に入り、18年に琴浦町の地域おこし協力隊に就任した。当初は用意された町営団地に暮らしたが、ポレポレで「一軒家に住みたい!」と話したところ、会の参加者らが手ごろな家賃の戸建て住宅を探してくれた。「ポレポレは移住者が地元の人とかかわりやすい場所だと思う。気楽に話せて愚痴も許される、サードプレイスのような存在ですね」と、松尾さんはほほ笑む。
2021年8月に行われたポレポレの会場は、カフェ「OITOMA」。協力隊任期中から町の事業の動画編集や終活動画(生前の元気な姿をとどめる動画)を手がけてきた松尾さんが、今春、米子市在住のクリエーター2人と制作拠点兼カフェとして開業したスペースだ。
OITOMAは、名所「鳴り石の浜」のほとりに立つ。建物はポレポレ常連の経営者から借り受けた。集会やギャラリーに会場を貸し出すほか、飲食店や小物作家に声をかけて月に1度「鳴り石マルシェ」を開催。焼き菓子を販売したい人にキッチンを貸すなど挑戦を応援する。
「琴浦町の人はチャレンジする人の背中を押してくれる」と話す松尾さんも、そのバトンを受け継いでいるようだ。将来的にはコワーキングスペースとして開放予定だという。
「都市部の職業と思われがちなクリエイティブ分野などの仕事に触れる機会を提供したい。ここを拠点に、町内外の枠を超えてネットワークを広げたい」と意気込む。松尾さん自身も、クラウドソーシングで動画編集を受注している。ふるさと福岡市など都市部との交流も考案中で、短期から長期まで気軽に滞在できるシェアハウスの構想も膨らませている。琴浦人、はたまたボーダーレスな一個人として、新しい風を呼び起こす。
琴浦町移住支援情報
関係機関と連携して移住を支援
山にも海にも恵まれた自然豊かな琴浦町。買い物施設や子育て環境が充実し、田舎暮らし初心者も暮らしやすい。移住定住奨励金(登録された空き家の購入で40万円、賃貸で20万円)のほか、移住体験ツアーやお試し住宅などの支援多数。仕事探しや新規就農については関係機関と連携してサポートしている。
琴浦町企画政策課 ☎0858-52-1708
https://www.town.kotoura.tottori.jp/ijuteiju/
文/飯田若菜 写真/斎藤 愛
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