自然に囲まれて農業がしたい――。そんな思いから島根県安来市(やすぎし)の比田(ひだ)地区へ。地域の課題解決に取り組む「えーひだカンパニー㈱」で働きながら農業で生計を立て、地域の人たちとのつながりを大事に暮らす女性を紹介する。
掲載:2021年11月号
地域づくりが仕事に。レンコン栽培にも挑戦
島根県の東部、鳥取県との県境に位置し、どじょうすくいで有名な安来市。市の中心地から35㎞ほど離れた標高約300mの盆地にある比田地区は、住民一人ひとりの意見を取り入れ、10年後も住みよい地域であるために「いきいき比田の里活性化プロジェクト」が進められている。プロジェクトが始動した2015年、京都府向日市(むこうし)から移住し、現在もプロジェクトを推進する中心的なメンバーとして活躍しているのが野尻(のじり)ちさとさん(34歳)だ。
以前から田舎暮らしや農業に興味を持ち、大阪で行われた島根県の相談会に参加。それがきっかけで安来市の地域おこし協力隊に応募してプロジェクトのメンバーに加わった。
「比田地区のいいところは人。地域の人たちが元気で、いろいろな課題に対して前向きなんです」
島根県は県土の約90%が中山間地域で、人口減少や高齢化が進み、日常生活に必要な機能の維持が困難となる集落が増えている。そこで、2つ以上の公民館のエリアごとに日常生活を支える仕組みをつくる「小さな拠点づくり」を支援している。比田地区はこのモデル地区の1つで、住み慣れた地域で安心して暮らし続けるためのさまざまな課題解決に取り組んでいる。
「状況を把握することから始めました。アンケートや世代ごとのワークショップを重ね、1469ものアイデアから88項目の地域ビジョンをつくりました」
ビジョンを実現するために野尻さんらが中心になって設立した組織が「えーひだカンパニー」で、世代が変わっても継続できるように17年に株式会社として法人化した。農作業の受託事業など、地域農家の支援、農業の活性化に取り組む「比田米プロジェクト部」や、高齢者支援や子育て支援、地域内交通などのサポートを行う「生活環境部」といった各部に、約80人のメンバーがかかわっている。
協力隊の任期終了後もこの会社で働く野尻さんは、情報発信や定住促進、販売管理などを担当。「次々とやりたいことや新しい課題が出てくるので、それをこなしつつ、ネット販売の中身も充実させたい」と目標達成に向けて日々奮闘している。
副業で農業にも挑戦中だ。9アールの畑を借り、地域で唯一、レンコンを栽培している。
「自分でつくったものを食べてもらうのが憧れでした。えーひだカンパニーで活動することが、自分の農業にもプラスになっています」
19年には地区の男性と結婚。地域の人たちに支えられ、比田地区には欠かせない存在となっている。
安来市移住支援情報
定住をバックアップする相談員が常駐
自然環境が豊かでありながら、交通環境にも恵まれている安来市。出雲縁結び空港、米子鬼太郎空港のいずれにも近く、首都圏へのアクセスが良好だ。市役所には定住を支援する相談員が常駐し、暮らしにかかわることに細かく対応。2年を基本とした農業研修制度があり、新規就農者を募集している。医療費無料や保育料の軽減など、子育て支援にも力を入れている。
安来市やすぎ暮らし推進課
☎0854-23-3059
文/田中泰子 写真/萱野雄一
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