兵庫県三木市の田園風景が広がる農村に移住し、農業を始めた藤井さん夫妻は、水耕栽培の施設で葉物野菜やハーブを育てている。隣にカフェも開き、地元食材を取り入れた野菜たっぷりのメニューを提供するほか、穫れたて野菜の販売も大人気となっている。
掲載:2021年12月号
ハウスの隣にカフェをオープン
20世帯ほどの集落が点在する兵庫県南部の三木市の農村地帯に、2019年1月、ビニールハウスに隣接したカフェ「biricaCOFFEE & FRESH VEGS」がオープンした。営むのは、大阪市から移住した藤井大輔(ふじいだいすけ)さん(43歳)・恭子(きょうこ)さん(41歳)夫妻だ。大輔さんは神戸市兵庫区出身。35歳で会社を辞め、14年に家族3人で三木市へ移住。夫婦で2年間の農業研修を受けた。
「若いころから自分たちで何か事業をしたいという思いがありました。田舎暮らしがしたいというより、田舎でしかできないことをしたら面白いと考えていて、知人が三木市で農業をしていたこともあり移住しました」
水と液体肥料で植物を栽培する水耕栽培は、研修先のブドウ農家で学んだ。朝穫れ野菜をたっぷり使うカフェの開業を計画していたこともあり、天候に左右されず、通年、葉物野菜が収穫できる水耕栽培で農家になる道を選んだ。しかし、なかなか思うようには進まなかった。
「農業で独立する際に支援を受けられる認定新規就農者になりましたが、収入が低くアルバイトをして生活していた時期もありました」
通常、農地では飲食店を開くことが認められていない。そこで藤井さんは、農業者自らが生産する農産物を主な材料として調理して提供する場合、農用地区域内に農家レストランを設置することができるという、国家戦略特区限定の規制緩和を受けることで、カフェをオープンすることができた。兵庫県ではまだこの制度を利用した事例がなかったために、時間がかかった。
カフェ開業にあたって心配事の1つは地域の人の反応だったが、休みの日には地域行事にも参加し、地域との付き合いは良好だ。今では目の前の公民館にコーヒーを出前したり、毎週通ってくれる人もいる。
子どもを育てながら、農業とカフェを兼業している恭子さんだが、のびのび子育てができているという。小学2年生の長男・灯弥(とうや)くんの学校には、同級生が5人いて、3年生との複式学級だ。
「子どもが少ない分、学校でもケアが手厚いです。地域でも、みんなで子育てをしている感じがして移住してよかったと思います」と恭子さんはほほ笑む。
移住する前は、ないものがない環境で暮らしていた大輔さんも、やっと今の暮らしに慣れてきたという。
「虫は苦手だし、ジュースを買いに行くにも車に乗らないといけないけれど、三木市は神戸や大阪へのアクセスがよく、遠すぎないのがいい。街には街の、田舎には田舎の、それぞれにいい面があって、どっちも楽しい。ようやく移住前に思い描いていたかたちに近づけたので、仕事をしっかり続けて、地域の人たちに僕らがいてよかったと感じてもらえたらうれしいです」
オーナー藤井さん夫妻から田舎カフェ開業へのアドバイス!
「わざわざ訪れてくださる意味を考えて!」
立地が田舎ということは、お客さまはわざわざそのカフェを目指して来てくださっているので、その意味を自分たちも考えておくことが重要だと思います。僕たちの場合は、鮮度にこだわった野菜の販売と、ほかでは食べられないほど大量のサラダを提供することで、お客さまに満足してもらえたらと考えています。
birica COFFEE & FRESH VEGS(ビリカコーヒーアンドフレッシュベジス)
☎0794-60-7769
住所/兵庫県三木市細川町瑞穂3643
営業時間/10:00〜17:00(LO)
定休日/月・木曜
https://biricaweb.tumblr.com
Instagram/@birica_web
三木市移住支援情報
中学生までの医療費無料。若年層向けの移住支援も
三木市は、都会も田舎も味わえる「トカイナカ」。神戸や大阪市内まで車で1時間程度で、商業施設や医療機関も揃っている。中学生までの医療費無償化、0~2歳児の保育料半額など、子育て施策も充実。移住支援では、39歳以下を対象にした移住者向け住宅購入補助(最大25万円)や新婚世帯への新生活補助(最大30万円)がある。
縁結び課 ☎︎0794-82-3030
https://www.miki-akiyabank.com
文/田中泰子 写真/木下清隆
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