掲載:2022年4月号
田舎暮らしでぜひ始めたい家庭菜園。ほんの小さな庭先の菜園でも種を蒔き、苗を植えれば、やがてうれしい収穫を迎え、自家製の野菜の味が楽しめる。田舎で自前の菜園を持つメリットは、毎年続けて栽培できること。野菜の育ちを観察して適材適所を見極め、年々よくなる菜園を育てよう。
手入れしやすい小さい菜園から始めよう
菜園付きの住まいは、田舎ならどこででも探せる。菜園の広さは、庭の一角に畝をつくるミニサイズから、出荷用の栽培ができるほどの面積までさまざま。とはいえ畑仕事に慣れるまでは、小さく始めたほうがよい。
菜園付きといっても直前まで耕作されていた畑は少なく、たいていは、しばらく放置され草が茂った状態になっている。菜園にするには、いったん草を除き耕して畝を立てる必要がある。例えば10㎡ほどの菜園(下図参照)なら鎌で除草し、スコップで耕したとしても、少し頑張れば畝を立てられるだろう。年数を重ねて少しずつ面積を広げていけば無理がない。
張り切って耕うん機などを使い、最初から面積を広げた結果、除草や野菜の世話が間に合わず、かえって収量を落とすのは、移住初期に陥りやすい失敗。小さい菜園でも手入れがよいと地元の人からの信用も得られる。
野菜の育ちを観察して、畑の性質をつかむ
初めての家庭菜園で人気の野菜は、春ならトマトやナス、キュウリなどの夏の果菜類や、レタスやキャベツなどの葉菜類。図のように10㎡あれば、これら多種類の野菜を育てられる。
ホームセンターの店頭に野菜の苗がずらりと並ぶ春。あらかじめ畝の準備をしておき、夏の果菜類なら遅霜の季節が過ぎてから苗を求めて植え付ける。それぞれの野菜の育て方の基本は事前に書籍やインターネットで調べておきたい。
同じように育てても、野菜の出来は畑によって左右される。実際には、どんな野菜も1年目からよくできる恵まれた畑は少ない。とはいえ、毎年続けて使えるのが田舎の菜園のよさ。栽培を続けながら、数年後には望みどおりの収穫ができる畑に変えていこう。
1年目は特に、日々の畑の状態と野菜の育ちをよく観察しながら、畑の性質をつかむようにする。注目したいのは、①日当たり、②水はけ、③肥沃度。野菜を育てるには半日以上、日が当たる必要がある。また、雨が降って水がたまる畑では、野菜が浸からないよう高畝にするなどの対策をとる。庭や荒れ地などを畑にする場合は、肥沃度の低い、いわゆるやせた土のケースも多い。堆肥を施すなど栽培に先立つ準備が重要になる。
畑全体の性質だけでなく、1枚の畑の中にも状態に差がある。野菜の好む環境(表1参照)に応じて適材適所の配置を考えるのは収量アップへのコツだ。
菜園を手入れしていると、近所の人から声をかけられる。慣れないので教えてくださいと話せば、地域での蒔きどきなど、いろいろな情報が得られる。余った苗を分けてもらえたりもする。野菜とともに、地域でのコミュニケーションも育つ田舎の菜園。ぜひ楽しんでほしい。
Column 草を味方につける「草マルチ」
種蒔きや植え付け後に放置したまま、気がつくと野菜が草に埋もれて育たない“草負け”に陥るのは、初めての菜園でありがちな失敗。特に野菜の外周15cmまでは根が生長して伸びるエリアなので、草の根にじゃまされると育ちが悪くなる。草は生やさないよう地際から刈ろう。そのほかのエリアの草も、野菜より高くなり過ぎないように刈る。今月号からの連載で紹介する「自然菜園のスゴ技」では、刈った草を畝の敷き草(草マルチ)として活用。草を味方につけることで、益虫や土中の微生物が増え、野菜を育てると同時に菜園の土と環境がよくなる。田舎では草刈りを怠るとご近所の信用を落とす。菜園内だけでなく、畦や家周りもこまめに草を刈りたい。
家庭菜園おすすめプラン
地域の気候と野菜の栽培適期を知る
野菜ごとの適期に栽培するのも大切。種の袋の裏側には暖地、温暖地、寒冷地の区分(表2参照)で適期が示されている。気温が上がっていく春から夏の場合、果菜類は栽培開始が遅れても挽回して収穫できる。チンゲンサイやレタスなどの葉菜類は暑さに弱いため、暖地や温暖地では特に、蒔き遅れると充分に育たずに終わるので注意する。
気温が下がり日も短くなっていく夏から秋の種蒔きの適期は短い。早いと虫害が多くなり、遅れると充分に生育しない。確実に収穫するには3〜7日おきに数回蒔くとよい。
Column 鳥獣害対策は1年目から万全に
田舎の菜園ではイノシシやシカ、サル、ハクビシン、カラスなどの鳥獣害が増えている。一度狙われた菜園は餌場として覚えられ、繰り返し被害を受けるうえ、繁殖を助けて個体数を増やす原因にもなる。被害地域では必ず対策を施してから栽培を始めよう。鳥害はネットや防鳥糸などで防ぐ。豆類などは鳥に見つからないよう薄暗くなってから種蒔きする。獣害避けの電柵は獣の種類ごとに対応しているものを求め、伸びた草が触れて放電しないよう草を刈り、こまめに見回る必要がある。
注目県の担当者に聞く!
山口県で菜園生活!エリアによる適作の違いは?
柑橘類、在来種、露地野菜、高原野菜も
三方が海に面している山口県。瀬戸内海や日本海の沿岸から中国山地まで、地域ごとに個性豊かな風土が育まれています。
温暖で比較的雨の少ない瀬戸内海側では、平坦な干拓地でのタマネギやキャベツなどの露地栽培が盛ん。霜の降りない地域もあり、春みかんとして親しまれる「せとみ」をはじめ、柑橘類の産地です。
冬には降雪もあり、年間を通じて比較的湿潤な日本海側では、長門市(ながとし)の「田屋(たや)なす」、萩市の「萩ごぼう」などの在来野菜も伝わります。
各自治体の空き家バンクでは、菜園を楽める物件が多数見つかります。下の写真の空き家のある山口市阿東(あとう)地域は、スキーもできる高原。日本最南端のリンゴの産地で、酒米の「山田錦」、「山口あぶトマト」の産地としても知られています。昼夜の寒暖差が大きいため、おいしい野菜が穫れます。
菜園生活はもちろん、歴史文化を感じる街、新幹線や空路にアクセスしやすい地方都市など、ニーズに合わせた選択ができるのも山口県の特長です。県では、地域に滞在しながらテレワークのできるワーケーション施設(※)を各地に多数用意しています。気になるエリアの施設に滞在して、地域の魅力を味わってみてください。移住前のお試しとしてもご活用いただけます。
※山口県テレワーク・ワーケーション総合案内サイト https://yamaguchi-workation.com/
問い合わせ先:「住んでみぃね!ぶちええ山口」県民会議 (山口県総合企画部中山間地域づくり推進課内)
☎083-933-2546
文/新田穂高 イラスト/関上絵美・晴香
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