2025年の大阪・関西万博ではドローンタクシーが計画されるなど、ドローンの可能性が注目されている。そんななか、3年前に宮崎県都城市にUターンし、ドローンサービス会社を立ち上げた大工龍也さん。見据えているのは、故郷や未来に貢献できる仕事のあり方だ。
掲載:2022年4月号
農業用ドローン事業がUターンのきっかけに
サラリーマンとして40歳を過ぎると、おおよその先行きは見えてくるものだ。それに対して、「仕事は順調だが、それで満足なのか?」と自問自答するようになった大工龍也(だいくたつや)さん(46歳)。大阪の大企業で働いていたが、「自分の力を試したい。やらずに後悔するのは嫌だ」と、2018年に脱サラ起業を選択した。
大工さんは、ドローン事業を立ち上げる企業から誘われ、家族を伴って東京で新たな生活をスタートした。しかしその事業は半年でとん挫してしまう。ドローンに将来性を感じていた大工さんは、自身でドローンサービス会社を立ち上げることを決断したのだ。すぐに収益を上げるために選んだのは、すでに実装している農業用ドローン。そこで再移住先に選んだのが、大工さん夫妻の故郷でもある宮崎県都城市だった。
スカイウォーカーと名づけた会社の事務所は、農村地帯にある築100年の古民家で家賃月額1万円。UIターン起業対象の100万円の支援金もありがたかった。
知り合いも農業の経験もないなかでの営業。新型コロナ感染拡大と重なり、訪問営業が敬遠され、苦しい立ち上がりだった。それでも市職員や市議会議員らの紹介を得て受注できるようになり、今では農薬散布だけで150軒の顧客を持つ。夏は農薬散布、秋から冬は植林資材運搬が主な仕事だ。契約社員なども含めスタッフは12人になった。
Uターンは、家族にとってどうだったのか。妻の蘭子(らんこ)さんも起業家で、社会で活躍できるミセスを創出する「ミセスジャパン」で世界大会に進出した経歴の持ち主。その経験を生かして都城市の女性の活躍を支援している。「口には出さないが、妻にとっても意味あるUターンだったのでは」と龍也さんは語る。
住みやすく、子育てしやすいのもこの地の魅力だ。「吊るし柿をつくったから食べんね」「弁当をつくってこようか?」などと声をかけてくれるおばあちゃんや、知らない人にも元気に挨拶する小学生たちがいる都城市なら、子どもたちが素直に育ってくれると思えた。
仕事を進めるうちに、日本では伐採した山の6割は植林されず、放置されている現実を知った。現在も植林をサポートしているが、急峻な山での植林は困難。しかし、そんな山ほど土砂崩れの危険性をはらみ、植林が急務だ。
宮崎はスギ素材の生産量日本一の県でもあり、社会貢献の道を探って編み出したのが、「樹の種プロジェクト」だ。特殊コーティングした種をドローンで蒔いて発芽させ、山を自然に還そうというもの。高千穂町(たかちほちょう)、日之影町(ひのかげちょう)、五ヶ瀬町(ごかせちょう)と、その山を管理する西臼杵(にしうすき)森林組合からも賛同が得られ、近く共同で実証実験やクラウドファンディングを展開予定だ。
「これでムーブメントが起き、5年後に樹の種を蒔くことが当たり前になったら、私が宮崎に帰ってきた価値があるのではないか?」――、そんな志を胸にプロジェクトは2月17日、キックオフした。
都城市移住支援情報
おいしい畜産品に農産物、焼酎ふるさと納税受入額が日本一!
農業産出額(令和元年)やふるさと納税受入額(令和2年度)で日本一を誇る都城市。一方で、中心市街地の「Mallmall(まるまる)」などの施設を核とした街のにぎわいは2021年のアジア都市景観賞を受賞。移住・定住サポートセンターでは、移住や雇用の相談、お試し滞在制度など、手厚いサポートを行っている。
都城市移住・定住サポートセンター ☎︎0986-23-2542 https://www.city.miyakonojo.miyazaki.jp/site/iju/
文/マエダ マリ 写真/岩松敏弘 イラスト/時川真一
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