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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

山小屋経営に失敗して家族で渡英。老親介護で帰国し、今、高原で時を刻む【長野県軽井沢町】

ボランティアより親の世話。帰国後は秩父を経て軽井沢へ

 イギリスに根を下ろしたかに思えた2人の生活が大きく動いたのは2001年のことだ。64歳になった好子さんは「そろそろ仕事は辞めて、ボランティアをしようかしら」と久男さんに相談した。久男さんの答えは「ボランティアより親の世話をしなくちゃ。日本に帰ろうね」だった。そのころ好子さんのお母さんは入院中で、兄夫婦が面倒を見ていたのだ。

 骨を埋めてもよいと思っていたイギリスを後に、日本に帰ってきた2人。選んだ住まいは、埼玉県の飯能(はんのう)と秩父の間にある正丸峠(しょうまるとうげ) の別荘地だった。人里離れた場所ながら、お母さんが入院している病院には行きやすかった。この地を選んだ理由はもう1つある。人が少ないところで日本の生活に慣れようとしたのだそうだ。ほとんど他人に会わない生活が4年ほど続いた。

 そのあと軽井沢に引っ越してきたのは、「親友のお姉さんが住んでいてね。『軽井沢においでよ』と誘われたからなの」と好子さんの口調は軽やかだ。

「軽井沢の家なんて、とても高いと思っていたら、そうでもないところもあったのよ」

 最初はマンションに住み、住み心地のよい土地だと感じたそうだ。そこで10年に間取りや設備にこだわって、現在の家を建てた。この家には10畳ほどの好子さん用の部屋があり、好子さんは、ここでアレクサンダー・テクニークやベイツ・メソッドの教室を開いている。

山歩きは2人の共通の趣味。飯盛山(めしもりやま)の山頂で同行の友人が撮影した1枚。

広々とした好子さんの部屋。テーブルのように見えるのはアレクサンダー・テクニークで使うベッドだ。

日本人がベイツ・メソッドを練習しやすいように、好子さんは「いろはシート」を考案。これを使って目の使い方を教えている。好子さんは2冊の本を刊行した。ベイツ・メソッドをわかりやすく解説する『いろはシートを見るだけで眼がよくなる! ベイツ式 奇跡の視力回復メソッド』(宝島社)とベイツ博士の著書を翻訳した『ベイツ・メソッド』(Amazon Kindle版)である。

長男はイギリス、長女はアメリカと家族は世界に散らばっている。サンフランシスコの長女宅を訪問した際に、長女、孫娘と。

アメリカに住む孫たちから届いたクリスマスプレゼントのお礼状。アルバムに貼って大切にしている。

子どもや孫たちはよく軽井沢に来る。長女の3人の子どもにイギリスから来た孫息子も加わってにぎやかだ。近くにある泉洞寺(せんとうじ)にて。

 

人生の坂を2人で一緒に歩きたい

 軽井沢で暮らすようになって間もない06年、もともと弱かった好子さんの視力が悪化し、白内障の手術を受けた。「そうしたら、モノがはっきり見えるようになって。なんとかこれを保ちたいと思ったの」。好子さんは視力をよくする方法をネットで調べ始めた。そして、目を緊張させずに正しく使えば視力はよくなるというベイツ・メソッドに出合ったのである。好子さんは熱心にベイツ・メソッドを研究し、練習もした。その結果、なんと正常な視力に回復したそうだ。好子さんは今でも老眼鏡なしで、編み物や読書ができるし遠くも見える。

 好子さんは英会話サロンを開いたり、子ども食堂の活動に参加したりして、地元ともつながっている。

 久男さんは、体力の低下を防ぐために散歩を欠かさない。コースはいくつもあるが、「僕はね、景色より坂があって運動になるところを選んでいます」。さすが山岳部である。

 別荘地では買い物や通院が不便そうだが、「買い物は生協の宅配やコンビニで大丈夫。タクシーで大きなスーパーにも行くし。病院もタクシーで行けるわよ」と好子さんは苦にしていない。

「年齢を重ねて、人生も少し下り坂かな」と笑う2人だが、夢は「このままずっと一緒にいること」と口を揃えた。

いつまでも、こうして一緒に歩いていきたいという2人。散歩しながらも会話と笑いが絶えない。

 

文/岡田泰子 写真/菅原孝司(東京グラフィックデザイナーズ)

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