2015年、富山の北陸新幹線の開業と同時期に、東京から氷見市へ移住してきた笹倉さん夫妻。今年で4年目を迎えた夫妻の宿を目指し、連日全国から多くの人たちがやってくる。宿の名はHOUSEHOLD(家庭)。「勝手口(台所の出入り口)からの旅」がコンセプトだ。
掲載:2022年8月号
片っ端から声をかけてたどり着いた古いビル
富山市出身の笹倉慎也さんは、大学院を卒業後、東京の大手印刷会社に勤務。自分の未来を想像するなかで、もっと経験を積みたいとPR会社に転職した。
「でも、東京でずっと働く姿を想像できなくて、たまたま氷見市役所の職員募集の求人を見つけたんです。チャレンジして合わなかったら戻ろうくらいの軽い気持ちでした」
妻の奈津美さんは、当時、東京のIT会社で事業開発やWEBディレクターの仕事をしていた。
「彼が氷見に行くと言ったとき、私は転職したばかり。でも『いつか2人で海のあるところに引っ越したいね』と言っていたんです。仕事が軌道に乗ったばかりで迷ったのですが、氷見には海があるし、あと彼のことが好きすぎて(笑)。上司に退職を伝えました」
氷見に移住後は偶然見つけた丘の上のマンションに暮らしたが、海の近くに住むことは諦めていなかった。海岸沿いの家に片っ端から声をかけ、そうして見つけたのが富山湾の海辺に立つ4階建ての古いビルだった。
「ワンフロアだけリノベーションして住ませてくださいとお願いしたら、『いらないから全部あげる』って。もちろんタダではないのですが(笑)。ビルを手放したかったオーナーと住みたかった僕たちがうまくマッチした感じですかね」と慎也さん。
長く放置されていたビルを手に入れた笹倉さん夫妻。しかし大規模な修繕には時間もお金も労力もかかるため、慎也さんは市役所の仕事を辞めて住処をつくることに専念した。
「氷見に長くいるには継続して稼げる仕事をつくらないといけないし、自分たちがワクワクしないといけない。その答えを合わせたら、2人とも『宿』という答えに行き着きました」
修繕費用は、これまでの蓄えと融資、そして氷見市の補助金で賄った。資金計画を立てるのは2人の得意分野でもあった。
「氷見はご飯がおいしいし、人もいい。これまで体験できなかったことが、氷見に来て体験できている。そのことをいろんな人に知ってほしい」、そんな思いを持って「HOUSEHOLD」は誕生した。宿の紹介文には「家庭の、まちの中の日々の営みを『料理』を通して知り楽しむ。」とあり、宿泊客はキッチンダイニングで地元の食材を調理できる。
4年目となる今年は、初めて従業員を雇うことにしたという。
「価値観を共有して、同じ感覚で働ける仲間を増やしたい。そしてこのまちにいろんな人が集まる、そんな場所や仕組みをつくっていけたら」と、抱負を聞かせてくれた。
【オーナー笹倉慎也さんから田舎宿開業へのアドバイス】
営業計画はしっかり! 地域の一員としての自覚を持とう
「絶対この宿に行きたい!」と思ってもらえるようなコンセプトや広報の仕組みを考えること。現実味を持って営業計画を立てることは大事です。あと、地元の人たちに認められる場所になること。地元の人たちとの関係をしっかり持ち、街の中でやっていることを忘れずにいてほしいと思います。
HOUSEHOLD ハウスホールド
ビル1棟をリノベーションした1日2組限定の宿兼貸別荘。1階は喫茶営業も行う。
住所/富山県氷見市南大町26-10
営業時間/14:00〜18:00(喫茶)休木・金曜(喫茶)
料金/1泊朝食付き1万450円〜
https://household-bldg.com/
氷見市移住支援情報
住まいや暮らしに関する移住支援制度が充実!
氷見市ではマイホームの取得に最大140万円、取得した空き家のリフォームに最大100万円を補助するなど、住まいや暮らしへの支援が充実。移住世帯には生活応援金として、10万円の地域商品券(または電子地域通貨)を支給する。仕事や空き家、ライフスタイルなど、移住に関する相談は、市と連携する氷見市IJU応援センター「みらいエンジン」がお手伝い!
問い合わせ:氷見市IJU応援センター「みらいエンジン」 ☎0766-54-0445
https://himi-iju.net/
文/居場 梓 写真/利波由紀子 写真提供/笹倉慎也さん、富山県氷見市
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