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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

夫の故郷に開いた小さな古民家宿。地域に見守られて子育てを楽しむ【石川県中能登町】

転勤が多い暮らしのなかで「子どもに地元をつくってあげたい」と考え、夫の故郷へ移住。農家民宿「喜屋」を開業し、並行して弁当屋を始めた辻屋舞子さん。ご近所さんに見守られて、子どもたちはのびのび遊んでいる。

掲載:2022年8月号

宿の玄関先にて、辻屋舞子(つじやまいこ)さん(36歳)、喜矢(ゆきや)くん(9歳・左)、晴喜(はるき)くん(7歳)。舞子さんは埼玉県出身。子どもたちが学校から帰宅すると、親子でおやつの時間を楽しむそう。

石川県中能登町(なかのとまち)
能登半島のほぼ中央に位置し、5世紀ごろにつくられた古墳群や修験道場だった山々に南北を囲まれ、邑知(おうち)地溝帯の穀倉地帯に町が開けている。人口約1万8000人。東京方面からは北陸新幹線と七尾線経由で約3時間30分。能登空港から中能登町へは車で約50分。

 

田舎暮らしを考えている人にアットホームな雰囲気を提供

 金沢と能登の七尾(ななお)を結ぶ内浦(うちうら)街道に、鎌倉時代からあったという宿場町・高畠(たかばたけ)。そこに辻屋舞子さんが農家民宿「喜屋(よろこびや)」を開業したのは2020年のことだ。翌年からは週3回、地場産の食材を使った弁当の販売も開始。いまでは県外からもお客さんが訪れ、舞子さんは忙しい毎日を送っている。

 中能登町へ移住する前は、夫の孝信(たかのぶ)さんが勤務する福島県郡山市の集合住宅に、喜矢くん、晴喜くんとの家族4人で住んでいた。

 「夫の転勤が多いので、常々、子どもには落ち着いて暮らせる『地元』をつくってあげたいと話していました。候補地に挙がったのが、山も海も島もある能登でした。中能登は夫の故郷なんです」

 舞子さんは、町が募集していた地域おこし協力隊に応募し、見事採用。2018年、孝信さんは仕事で福島に残り、舞子さんと息子さんの3人で中能登町へ移り住んだ。

 このとき、地域おこし協力隊が掲げていた目標が「古民家を利用した起業」だった。1年目、舞子さんは地域活性化に尽力する人や起業した移住者を中心に、気になる人物のもとへ通い、自分に何ができるかを模索した。そのなかで、1日1組限定の農家民宿と出合う。

 「お客さんとの距離が近く、まるで親戚の家に帰ってきたようなくつろぎの時間を提供できることに驚きました。子どもと一緒にできそうなところにもひかれましたね」

築60年の古民家に、納屋、蔵、畑もある1日1グループ限定の農家民宿。週3回の弁当販売のほかに、月に1回、移住者仲間の大判焼き屋と弁当のコラボ営業も行っており、その日は地元客で大にぎわいになるそう。また、1日1組予約制で、小鉢や汁物を加えたランチも楽しめる。

弁当屋開店時、カフェとして利用されている開放感抜群の居間。宿泊時は襖で仕切り、客室になる。1階が飲食・宿泊スペース、2階が居住スペースになっている。

改修時、親子で漆喰を塗ったワークショップスペースの壁。窓からの光で塗り跡の凹凸が浮かび上がり、手づくりの温かみが感じられる空間に。

 

 舞子さんはその農家民宿を手伝い、宿経営のノウハウを学びながら、協力隊の活動としてゲストハウス開業を計画する。

  「当時の区長さんに宿を始めたいと話すと『にぎやかになる』と喜んでくださいました。子どもたちもご近所さんに見守られながらのびのびと遊ぶことができて、うれしいです」

 喜屋のモットーは田舎暮らしを考えている人にアットホームな雰囲気を提供し、高畠の暮らしを体感してもらうこと。そのために舞子さんが力を入れているのが地元の旬の食材を取り入れた料理だ。

 「いまは庭の畑で自然農法で栽培した野菜も、宿の食事や弁当に取り入れています」

 開業から2年。積極的な集客活動はしていないにもかかわらず、口コミで顧客が増えている。今後は、子育て中の家族が安心して食事できるキッズカフェの拡張を目指すという。

自然農法で栽培したイチゴを頬張る。食の安全には福島にいたころから関心があったが、食べ物に旬があることは露地栽培が多い中能登に来てから知ったという。

裏庭には、納屋と蔵が1棟ずつあり、改修を進めている。将来はギャラリーやワークショップスペースとして活用する予定だ。

弁当は「身土不二」と名づけ、「身と土、二つにあらず」の意味から「土地の恵みで健全なからだをつくる」という思いが込められている。献立は日替わりで、取材日は15種を超える食材が使われていた。700円。

左からラッキョウ、イチゴシロップ、しょう油麹、塩麹。発酵食品や漬物も極力自分でつくったものを使っている。

舞子さんは今年から町の無形文化財に指定されている「天平太鼓」に参加。1つの太鼓を数人で叩き、雨乞いをする勇壮なもので、週1回の練習に熱が入る。

 

【オーナー辻屋舞子さんから田舎宿開業へのアドバイス】

付き合いが苦手でもゲームと思ってやってみて!
あらゆることが人脈で決まる田舎では、店を開くにも人とのつながりが欠かせません。困ったことを相談すれば詳しい人を紹介してくれますし、さらに人脈が広がっていくから不思議です。お互いに良好な信頼関係を築くには、草刈りなどの地域行事や寄り合いに積極的に参加することがよい機会になります。

喜屋 よろこびや

住所/石川県鹿島郡中能登町高畠ム部49
☎︎0767-77-1155
料金/1泊素泊まり大人5000円(夕食と朝食セットは+2500円)
https://yorokobiya.net/

 

中能登町移住支援情報
起業や住宅購入、新婚世帯の新生活に手厚い支援制度

 中能登町では、起業・創業する人に最大200万円の補助金、転入し住宅を取得した人に最大100万円の奨励金を支給。また、町内で新生活を始める新婚世帯には、住居費・家財道具分など合わせて最大100万円を助成する制度も。子育て支援も充実しており、出産祝金の交付や18歳までの子どもの医療費助成、チャイルドシート購入費の一部助成などを用意している。

問い合わせ/中能登町企画課 ☎︎0767-74-2806
https://www.town.nakanoto.ishikawa.jp/soshiki/kikaku/1/sumai/sumai/ijyu/664.html

白山を開山した泰澄大師が開いたとされる不動滝。7月5日の滝開き行事では、天平太鼓が奉納される。

2014年に内閣総理大臣から「どぶろく特区」に認定され、製造された商品。

「中能登町でのんびり田舎暮らしをしませんか?」
中能登町イメージキャラクター「おりひめ」

 

文・写真/吉田智彦 写真提供/石川県中能登町

 

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