ふるさと納税の寄付金を子育て支援に充て、人口増加を実現した町として知られる上士幌町(かみしほろちょう)。移住者は若者からシニアまで幅広い世代にわたる。町の魅力は十勝の自然と、ここに集って暮らす人同士のつながりにあった。
掲載:2022年9月号
【移住者リポート①】子育ても仕事も地域が応援してくれる
瀬野航さんと祥子さんは、服飾専門学校の同級生だった。
「北海道の平屋の家が好きなんだ。いつか住めたらいいな」
航さんが言ったのは、2人で北海道を旅行したときのこと。長男の朝日くんが生まれると、
「虫を捕まえられる子になってほしいな」
「家族揃って毎日ご飯が食べられたらいいね」
と、理想の暮らしを夫婦で話して移住を決意。その思いを勤務先の社長に相談し、1年後に仕事を辞めることになった。
「といっても、職も家も、どこに移住するかさえ決まっていませんでした。最初は1日1つの町と決めて、インターネットで候補地を調べたんです」
上士幌町との出合いは都内で開かれた移住フェア。子どもを抱いて会場を回る2人は、町のスタッフに声をかけられた。
「町が子育てに力を入れ、『こども園』も建設中でした」
上士幌町ではふるさと納税の寄付金を子育て支援に充て、こども園は利用料・給食費無料、医療費は高校まで無料になる。
「『憧れ』の北海道暮らしから、『現実』をイメージしたのはこのときです。Googleのストリートビューを見ると町には新しい家が多く、広々として明るい印象だったのもよかったです」
その後、航さんが町を訪れて、最初の住まいとなった町営住宅をはじめ各施設を案内してもらい、上士幌町への移住を決定。
「実際に住んでみると、ここでは子育てを周りの皆さんが応援してくれます。お隣のおばあちゃんが仲よくしてくださったり、子どもたちの面倒を見てくださったり。上士幌町でわが家の子どもは3人に増えました。周りの家も3人、4人と子どもが多いんですよ」
瀬野さん家族を訪ねた火曜日の夕方。朝日くんは水泳教室で小学校の屋内プールに出かけた。
「町では子ども向けのいろいろな企画に無料で参加できます」
移住当初、航さんは林業の仕事に従事。朝日くんが3歳、日南子ちゃんが1歳になると、祥子さんは9時から15時まで町内のコンビニでパートを始めた。
「新しくできた上士幌町の認定こども園には短時間保育もあります。毎日給食付きです」
起業したのは移住から2年後。きっかけは航さんの林業の先輩がはいていた作業パンツだった。同じ生地でサコッシュをつくりたいと、車で1時間ほどの製造元を訪ねた。興味を持ってもらい、さらにキャンプ用のチノパンツなども企画。立ち上げたデザイン会社「ワンズプロダクツ」は、週2日の営業からスタートして徐々に仕事を広げていき、今では2人ともほかの仕事を辞めて専業となっている。
「布ものから始まって、タオルやTシャツのデザイン、マップやチラシなどの紙媒体と、いろいろなお仕事をいただくようになりました。製品を見て『うちのもできないか』と声をかけてくださる方が多いです。おかげさまで私たちにできることが増えました。地域の人とのつながりに、育てていただいています」
上士幌町移住支援情報
家具付き賃貸住宅で生活体験できる。子育て世帯の移住者に住宅支援も
移住、二地域居住を検討する人に、家具・家電付き賃貸住宅を1週間~1カ月の短期体験用4棟(7万5000~12万円/月)、1カ月から1年の長期体験用6棟(3万8400円~/月)を用意。移住後は、子育て世帯を対象にした「子育て世帯支援住宅」という町営住宅もある。また、中古物件購入では中学生以下1人当たり50万円、新築は中学生以下1人当たり100万円の助成が受けられる。
お問い合わせ:NPO法人「上士幌コンシェルジュ」 ☎︎01564-2-3993 www.ijyuu.com
次のページでは、移住者リポート②と上士幌町の移住者や住民が集まったミニ交流会「上士幌町のここが好き!」をお届けします。
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