掲載:2022年10月号
北長門海岸国定公園に含まれる海岸線を有し、阿武火山群の活動で形成されたまち全域が萩ジオパークに指定されている阿武町。コンビニがなくても日本海と里山の恵みがあふれる環境は、早期退職後のスローライフを夢見ていた夫妻にとってまさに理想郷だった。
適度な自給自足を楽しむ、優雅なセカンドライフ
穏やかな漁村の雰囲気が漂う阿武町北東部の宇田郷(うたごう)エリア。空き家バンクで見つけた清流沿いの家で暮らしているのは、2019年に宮城県仙台市(せんだいし)から移住した本間孝男(ほんまたかお)さん(65歳)・久美子(くみこ)さん(53歳)夫妻。
「60歳で早期退職し、夫婦で旅をしながら『雪の心配のない移住先があれば』と探していました。阿武町は海、川、里山があり、自然災害がとても少ないことにひかれたんです」
と、孝男さん。100万円で購入した家は、約50坪の菜園スペース付き。改修にはまちの補助金を活用したが、問題は約10年放置されていた敷地だった。
「妻と少しずつ手入れし、半年ほどでようやく野菜が植えられるようになりました」
とはいえ、1年目は失敗も多かったと孝男さんは話す。
「雨ざらしのトマトは実がほとんど割れてしまい、雨よけのハウスを設置。スイカは付いた実をすべて育てたら、小さくて味気ない仕上がりに。順調に育ったトウモロコシが、支柱を立てていなかったばかりに台風で倒されて全滅したことも」
試行錯誤しながら3年目を迎え、要領がつかめてきた夫妻。この地域は霜が降りず、栽培時期を多少間違っても枯らしてしまうことがなく、年間通じていろんな野菜が育てられるのが魅力だという。マイペースで菜園生活を満喫する傍ら、孝男さんは日本海へ釣りに出かける。
「タイ、キジハタ、ヒラマサ、ブリなど、魚種は豊富です」
その趣味から派生して「まちの特産品をつくろう」と、釣果を地元「阿武の鶴酒造」の酒粕漬けにして近所に配ったところ好評を得て、昨年10月に創業。現在は近海の魚を仕入れて加工し、道の駅などで売っている。
「野菜づくりや釣りをしながら、自分たちでつくったものを売り、地域への貢献と同時に生きがいにもなっています」
と、孝男さん。今後は、地元の人たちが気軽に集える飲食店を開くことも夢見ている。
本間さんの菜園のこだわり
マルチシートともみ殻を活用
除草剤を使わないため、雑草対策にマルチシートを活用。「今年初めて使いましたが、あとの作業がずいぶん楽になりました。併せて土の保水用にもみ殻を入れています」と孝男さん。野菜は無農薬で育て、肥料は牛ふんと初心者でも扱いやすい水平型の化成肥料を使う。また、オクラなどは種を採って翌年利用。
本間さんに伺いました!
どんな野菜が育ちやすくておいしい野菜になる?
この土地はもともと田んぼだったらしく、粘土質で水はけがあまりよくありません。だから水を切らせない野菜の栽培に向いているようで、オクラやキュウリ、ミズナ、ホウレンソウなどが立派に育ち、味もよく仕上がります。
菜園生活 Q&A
Q. 菜園を始めるときにかかった初期費用は?
A. 最も高かったのは8万~9万円のミニ耕運機。そのほか、鎌、鍬、スコップといった道具類、各種支柱やマルチシート、肥料を含めて10万円ほどです。
Q. 野生動物による被害はない?
A. 自然豊かな場所なので近隣にイノシシやサルは出ます。ただ、うちは住宅に囲まれ、里山とは国道や川で隔てられていることが幸いし、被害はありません。
Q. 菜園の初心者向けアドバイスは?
A. 本やネットで書かれているのは、野菜を見栄えよく上手につくる方法。自家用であれば、そこまで神経質にならなくてもおいしいものはできると思います。
文・写真/笹木博幸
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