掲載:2022年12月号
産前産後に無料でヘルパーを派遣する制度をはじめ、不妊治療費や高校生までの医療費、第2子からの学校給食費を無償化するなど、子どもを産み育てるための切れ目のない支援を行う北斗市。函館市への通勤通学もできるうえ、新函館北斗駅からは新幹線で東京へ直通。海山の自然に恵まれた、のびのび子育てできるまちとして、注目を集めている。
ヘルパー支援の2時間は、ママが息を抜けるひととき
北斗市に住む山森幸奈(33歳)は、夫の圭さん(36歳)とともに生後2カ月の杜季くんを子育て中。市が行う産前産後支援ヘルパー派遣制度を利用して、家事や育児へのサポートを受けている。
「実家は市内ですが母は介護を受けているので頼れません。産後ヘルパーさんの派遣は私たちにぴったりの制度だと思います」
と言う幸奈さんは結婚後、圭さんの職場がある森町のアパートに住んでいた。クワガタムシのエサを生産する実家に勤める幸奈さんの通勤時間は車で40分。そこで4年前、今度は圭さんが通えばよいと、新函館北斗駅にほど近い北斗市内の住宅地に新居を建てた。
「北斗市が子育てしやすい環境づくりを進めているのは当時から知っていました。それもあって北斗市に住もうと決めました」
ヘルパー派遣は1回2時間、週に1度のペースで利用。原則として毎回同じスタッフの訪問を受ける。生後間もなくは沐浴などの育児も手伝ってもらったが、最近は主に食事の調理をお願いしている。
「母と同じ世代のヘルパーさんで、お料理が上手な方なんです。あるものでパパッと工夫していただけるので、私もあとでまねしてつくったり」
幸奈さんは現在、子連れで実家に勤務している。仕事から戻って用意する食事は簡単になりがちで、出来合いのもので済ませることもしばしば。それだけにヘルパーさんがつくる野菜たっぷりの手料理はありがたい。
「仕事や家事をしていると、子どもとゆったり触れ合えるのは夜の短い時間だけ。ですから、ヘルパーさんに来ていただく2時間は本当に貴重です」
国の支援を市が補強。無料化で利用しやすく
北斗市が産前産後支援ヘルパー派遣を始めたのは北海道新幹線が新函館北斗駅まで開業した2016年。市役所子育て支援課の保健師、新川沙奈さんは言う。
「出産年齢が全体的に上がり、実家の親が高齢だったり、実家が遠かったりと、産後に頼れる人がいないケースは増えています。ヘルパー派遣の制度が始まるまでは、支援を求める問い合わせに対して民間のサービスを紹介していました。けれども利用料の負担は大きかったですね」
そこで子育て支援に国の補助金がついたのをきっかけに、市としてできるだけの支援をしようと始められたのが現在の制度。同様の制度はほかの自治体にも見られるが、北斗市は特に手厚く、無料で14 回の支援を受けられる。
「少子化を受けて、市では子育て世代へのサポートを重点的に進めています。ヘルパー派遣は利用へのハードルを下げようと無料にしました」
現在、支援にあたるヘルパーは2人。希望するお母さんには1〜2週間前に申請してもらい、訪問の日にちやサポートの内容を決めている。調整にあたるのは北斗市社会福祉協議会のアドバイザー、田中清美さん。
「利用するママは全体の2割ほどです。遠方から転入したため実家に頼れない方もいますし、2人目3人目を出産したあと、手伝ってもらっている間に上の子の面倒を見たいという方もいます。理由はさまざまです」
子育てのベテランが家事支援で伝える安心感
及川かおりさん(62歳)は、もと保育士で、自身の子育てのあと、親の介護も経験。昨年からヘルパーとして産前産後支援にあたっている。
「楽しいですよ。お子さんの成長が見えますからね。ほとんどのおうちには曜日を決めて週に1度伺いますが、訪ねるごとに子どももママもたくましくなってくるのがわかるんです」
サポートの内容は、求めに応じて調理や掃除、買い物などの家事が多い。その間、お母さんは赤ちゃんとゆっくり過ごせる。育児を頼まれるのは、お母さんがからだを休めたいとき。
「今は子どもの数が少ないぶん、大事に育てる思いが強いですし、スマホや雑誌には育児の情報が多い。ママは大変です。早い遅いはあるけれど、子育ての不安はたいてい時間が解決してくれます。でも、それはあとから振り返って言えること。ですから、お手伝いをしながら、がんばっているママから話を聞いて、少しでも安心してもらえたらと思っています」
生後3〜4カ月になると赤ちゃんが続けて眠る時間も長くなり、お母さんも育児のペースに慣れてくる。14回の支援はちょうどいい回数だと及川さん。
「といっても毎週通えば情が移って、自分の娘を見ているような気持ちになります。その後、どうしているかも気になりますし、町で会って声をかけられるとうれしいですよ」
ヘルパー派遣を利用するのは同じ月齢の子を持つお母さんたち。そこで及川さんと田中さんは、利用者同士の横のつながりがつくれたらと考えている。田中さんは言う。
「北斗市とお隣の七飯町には、育児を援助したい人と、援助を受けたい人に会員登録してもらい、1時間500〜600円で子育てを支援してもらう南渡島(みなみおしま)ファミリーサポートセンターもあります。そうした支え合いの輪も広げていきたいです」
年ごとに支援の幅を広げる子育て応援タウン
北斗市の子育てへのサポートは産前産後支援ヘルパー派遣だけでなく、さまざまな面で年々充実している。子育て支援課の新川さんは言う。
「今年度、不妊治療が健康保険の適用になったのに合わせて、北斗市では不妊治療費助成事業として、体外受精や顕微授精など、市が規定した特定不妊治療の自己負担分全額助成を決めました。これには反響が大きくて、転入したいという問い合わせも受けました」
そのほか、今年度拡充された支援は、妊婦のインフルエンザ予防接種費助成(自己負担額1000円)、中学2年生を対象にしたピロリ菌の1次、2次検査料に加えてピロリ菌除菌治療費の無償化など。さらに、学校給食費の軽減として大学生以下の第1子がいる世帯を対象に第2子以降は無償化された。
「北斗市は以前から子ども医療費助成により、高校生までの医療費が無料です。これが眼科や歯科などでの早期治療にもつながっています。子育て支援は各自治体で充実していく方向ですが、北斗市はいつでも1歩2歩先に進んでいるようにと、毎年要望に合わせて施策を見直しています」
北海道新幹線の開業当時、市は新函館北斗駅近くの国道沿いに看板を立てた。『母がハハハで元気な街!』。
「その後6年間、北斗市の子育て応援タウンの意気込みは変わりません。産前産後、育児から、幼小中高大学まで幅広いサポートを積み重ねて、ママとパパから『子育てしやすい』と選んでいただければと思います」
学習や部活を応援。音楽やスポーツが楽しいまち
市は、誰1人取り残さない教育環境の推進を掲げ、学校教育では学習支援員や補助教員の配置、外国語教育の充実、ICT機器の活用などを進めている。小中学生には英語検定料補助金交付制度もある。
自然環境に恵まれたエリアに立地する市内の小規模な小中学校への区域外通学を認める特認校制度も設けられている。この制度を活用する際には通学費の一部も補助される。
スポーツや吹奏楽など小学生のクラブ活動や、中学校の部活動も盛ん。市内施設の充実度も高く、北斗市運動公園にはオリンピックで使われたものと同じ特殊ゴム舗装の陸上トラックや、天然芝と人工芝のグラウンドもあり、夏は涼しさを求めて全国から、春は道内から、大学などのチームが合宿に訪れる。
移住支援を担当する北斗市企画課の東香澄さんは札幌市からの移住者。東さんは言う。
「函館湾に面した北斗市の海側は特に雪が少なくて驚きました。春の合宿は、この暖かさを求めて集まるわけです」
大小ホールのある総合文化センター「かなで〜る」も自慢。
「地元の中学校が部活動の練習でホールを使えるのはうらやましいですよ」
と東さん。北斗市は吹奏楽が盛んで、中学校は全国大会で金賞を連続して受賞する実力。合唱部も全国コンクールで活躍している。小中高校、市民楽団の交流も活発で市内のイベントでは合同演奏の場も。
「市では楽器や用具の整備費や、対外競技等参加経費として全道・全国大会への参加費用について予算化して応援しています」
北斗市通学定期券購入費補助は小中高校や大学、専門学校などへの通学で、函館市などへのバスや鉄道を利用する際の交通費を支援する制度。道南いさりび鉄道の通学定期券には3割、そのほかの通学定期券には2割の補助が受けられる。
札幌育ちの東さんは車の運転が苦手とのこと。
「いまは道南いさりび鉄道の駅近くに住んでいるので車なしでも生活できます。道南いさりび鉄道は1時間に1〜2本の運行ですが函館の学校に通う人は多いですよ」
子育て応援タウン 北斗市の出産・育児支援
①お知らせ機能付きスマホ母子手帳/北斗子育てサポーターアプリ(母子モ)
母子手帳機能の付いたアプリ。乳幼児健診や予防接種のお知らせなどのほか、沐浴の方法などの動画配信機能も付いている。
②助産師などが母子をサポート/産後ケア事業
沐浴や授乳など産後に必要なあれこれを助産師などがサポート。希望する母親は、医療機関への短期入所型は原則6泊7日以内、居宅訪問型は原則7回(1回2時間まで)以内の利用ができる。
③赤ちゃんの聞こえを早期にチェック/新生児聴覚検査費用助成
生まれて間もない赤ちゃんが出産した病院で任意で受ける新生児聴覚検査。難聴を早期に発見し、適切な治療や支援につなげるため、市はその費用を助成する。
④産前14回、産後2週&1カ月後 妊産婦健康診査への助成
出産前の健診は14回、超音波検査は6回を助成。里帰りなどで道外で診査を受けた場合は、その費用について償還払いが受けられる。産後2週間と1カ月ごろに受ける健診費用は、1回当たり上限5000円を助成。
⑤北海道の補助金に市が加算、不育症治療費助成事業
北海道の不育症治療費助成、1回の検査・治療につき10万円までに、市が1回につき5万円上乗せ助成。通算4回までで、夫婦の前年の所得合計額が730万円未満などの条件がある。
⑥未就園の親子のための遊びと相談の場、市内5カ所に地域子育て支援センター
市では保育園や認定こども園との併設や独自施設の形で5カ所の「地域子育て支援センター」を開設。遊び広場や絵本の貸し出し、お母さん同士の交流、育児相談などを進めている。5施設合同のお祭りや運動会なども開催される。
まだある! 北斗市の出産・育児支援
●助産施設入所経費の助成
経済的理由で入院や出産が難しい場合、出産費用を助成。
●妊婦・新生児訪問
保健師または助産師が訪問。
●こんにちは赤ちゃん事業
生後4カ月以内の全戸を母子保健推進員等が訪問。
●ブックスタート事業
市民ボランティアが読み聞かせ。無料で絵本をお届け。
●読書の通帳
図書館で借りた本の履歴を印字。
●市役所内に子育て相談室
子連れでゆっくり相談できるスペースを設置。
●歯科検診・フッ素塗布が無料
歯科検診は1歳6カ月児と3歳児の2回。フッ素塗布は1歳6カ月から4歳未満の各年齢全5回。
●保育料の軽減
国の基準額表を市町村民税の所得割により細分化。基準を引き下げて料金を設定。
●一時預かり保育
事情により育児が困難な場合、保育所に1日単位で依頼可。
●病後児保育
病気の回復期にある生後12カ月から小学校低学年までの子どもを無料で一時預かり。
【北斗市 移住支援情報】
購入費や改修費を最大100万円助成。北斗市空き家バンク利活用事業補助金
北斗市内では一般的な不動産物件も数多く探せる。また、市では空き家バンクも運営し、登録された空き家を居住目的で購入または賃借した人には、購入費や改修費などを助成する制度がある。購入の際の上限は50万円。中学校卒業前の子どもがいる世帯には30万円、指定された2地区の物件の場合には10万円、市内の親世帯と同居または近居する場合には10万円が加算される。
問い合わせ/総務部企画課
☎0138-73-3111(内線237)
北斗市移住ポータルサイト「キミとボクとホクト」
https://www.city.hokuto.hokkaido.jp/kimitobokuto-hokuto/
文・写真/新田穂高 写真提供/北斗市
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