演技の基本は〝ピンチ・アンド・アウチ〞
この日はすてきな着物姿。着付けも自身でこなすそう。
「全部、古着なんです。若いころから洋服も古着が好きでしたが、大抵が一点物で人と被らないところがいい。着物は先輩の女優さんがお稽古のときなんかにさらっと着ていらっしゃるのを見て、すてきだな〜と憧れていました。ファッションも、行き着くところにやっと来たなと。中身が追いついているかは別ですけど」
愛犬ルパンくんのような柄もキュートな帯、キッチュな帯締めと、個性的なコーディネート。
「着物だからとクラシカルにまとめるより、ちょっと外して、遊んでいる感じを出したくて。例えば着物のときは揺れるイヤリングは合わせるものではないみたい。でもそういう決まりはほぼ無視してます(笑)。着物って、何通りもの着こなしができるのも楽しい」
ひとしきり、着物の話でまた盛り上がってしまう。やがて話題はWBCに及ぶ。
「選手の1人が『野球ってこんなに面白いんだ!と思いました』と言っていて。ある水準以上の能力を持つ人、神みたいな人ばかりがぎゅっと集まり、初めて味わう楽しさだったのでしょう。お芝居でも、そういう瞬間ってたまにあります。するとお互い、すがすがしい気持ちになるんです」
藤田さんの場合はさらにその先というのか、あえて素人に交じってワークショップに参加したりするらしい。お芝居について語り始めると、いつの間にか顔つきまで変わっている。
「ある程度の経験があるプロなら、台本を読み込んで、〝ここはこれくらいの加減で〞などと計算して演じていきます。でも演技経験のない、原石のような人は無計画で。こちらの予想もつかない、とんでもない球を投げてくる。それが楽しくて!」
彼女ほどの経験を積んだ女優さんが、お芝居の楽しさを知ったばかり!みたいに瞳を輝かす。
「私、新人の女優さんと手合わせさせていただくことが多くて。今回、遥を演じた吉田伶香さんもそう。素直な役者を目指す人なら、こちらがちゃんとつねれば、痛い!と言ってくれるはず。〝ピンチ・アンド・アウチ〞が私の演技の基本です。だから今回もつねりまくって(笑)。彼女の心が動くよう、そして自分がやりたいように精いっぱい演じたつもりです」
『こわれること いきること』
( 配給:アイ・エム・ティ 配給協力:FLICKK)
●監督・脚本・編集:北沢幸雄 ●出演:吉田伶香、藤田朋子、宮川一朗太、斉藤暁、寺田農 ほか ●5月26日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国公開
福島県いわき市から上京して専門学校に通い、介護士を目指す遥(吉田伶香)。東日本大震災で家族4人を亡くし、深い喪失感のなかで生きていた。やがて学校を卒業、実家で一人暮らしをしながら地元の介護施設で働き始める遥。そこに高校時代の恩師で吹奏楽部顧問だった小田由美子(藤田朋子)が、夫(宮川一朗太)と一緒に入所してくる。
©三英堂商事/アイ・エム・ティ https://koikoto-movie.com/
文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 ヘアメイク/伊藤千栄子 衣装/本人私物
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