都会的で、理知的なたたずまいの俳優、本郷奏多さん。子役からキャリアをスタートさせ、30代を迎えた今、その役柄はますます幅広くなっています。そんな彼の最新作は、テレビ東京系の連続ドラマ『姪のメイ』。東京の会社に勤務してリモートで仕事をしながら、姪っ子と福島県へ仮移住する小津を演じます。福島で考えたこと、そしてご自身のYouTubeの活動について、お話を聞きました。
掲載:2023年11月号
だいぶ合理主義で無駄なことは嫌い
「今のお仕事は東京でなければできないこと、自分の身を使ってやることが多く、もともと移住に興味があったわけではありません。でもドラマのなかで移住者の、『もはや場所は関係ない』というセリフがあって。物価や家賃のことを考えたら、地方への移住は選択肢としてアリ。もし仕事柄可能なら、合理的にいって、もう移住しているかもしれません」
そう語るのは、『姪のメイ』に出演した本郷奏多さん。両親を亡くした姪のメイを1カ月引き取ることになり、福島へ仮移住する小津を演じる。
「演じるうえで、特に改まって何かをするということもなくて。年齢も自分に近く、等身大の人間で。いい意味で気負わずに入っていけました」
小津は都会育ちで現代的な思考を持つ独身男子。確かにどこか、本郷さん自身のイメージと重なるよう。
「僕もだいぶ合理主義で、無駄なことは嫌いです。それで小津は、言わなくてよくない?みたいな空気の読めない、冷たい一言を発してメイちゃんに怒られたりします。でも僕自身は……あの、頭がいいので(笑)。トータルで考えて発言します。それに小津は最初、周囲に興味を持てないタイプの人間でもあって。僕はこう見えて意外と人に興味を持つ、わりといい人間なんです(笑)」
さらりと言い放ち、確信的に笑わせる。確かに頭がいい。
そんな小津が、メイと暮らし始める。メイは12歳らしい無邪気さと年齢を超えた達観した物言い、そしてコツコツと小説を執筆する芸術家風の感性を備えた不思議な女の子。
「大事なのは、メイ役の大沢一菜ちゃんといかに仲よくなれるかだろうなと。でも12歳って〝子ども〞でもなく、どう接したら?と思っていました。すると人懐っこい子で。業界に染まってないというのか、のびのび育ったのだなと思わせる子で、すぐ仲よくなれました。相手がどんな立場でも同じように明るく接し、そんな姿にステキだなとハッとさせられたりして。それでいてお芝居になると、グサッと刺さるセリフを言うときの目の力強さもある。堂々としているんです」
そんなメイと過ごすひと夏、移住先の人びととのかかわりもあって小津は変化していく。
「小津は斜に構えたところのある人間でしたが、メイと生活していて、ふと心から笑う瞬間が生まれます。そうした感情は僕自身が、メイちゃんと過ごして引き出してもらったものかも。本当に楽しかったですから」
撮影を思い出し、本郷さん自身も優しくほほ笑んでいる。
「メイちゃんが周囲を動かしていく、メイちゃんを楽しむドラマになっていると思います」
福島という舞台が作品の大きな柱に
ドラマの舞台は福島。小津はリモートワークをする会社員で、上司の知り合いから紹介されたのが、楢葉町(ならはまち)にあるマンスリー貸しの一軒家だった。ワイン農園を経営する夫婦、ハンドメイド雑貨のインターネット販売を手掛ける女性と、さまざまな移住者がわらわらと小津とメイの元へやってくる。
「実際に僕が移住したわけではありませんが、ドラマを通して、なるほど移住した人同士でコミュニティを形成しているのかと。新たな移住者を気遣ったり面倒を見ようとしたり、そういうこともあるんだなって」
楢葉町以外にも南相馬市(みなみそうまし)、富岡町(とみおかまち)など、東日本大震災の際に避難指示の対象となった12市町村でロケを敢行した。
「避難指示だった場所がメインのロケ地でした。そこはほんの少し前までは立ち入ってはいけない場所で、だからこそ自然豊かな環境になっていました。そういう場所でロケをすること自体が作品のメッセージ性につながるだろうし、リアリティをもたらすはず。福島という舞台が、作品の大きな柱になっているんです」
劇中、小津とメイは浪江町(なみえまち)の請戸(うけど)小学校を訪れる。津波による倒壊を免れた校舎が、教師と生徒が全員無事に避難した奇跡の学校として一般公開されている。
「広島でいう原爆ドームのように、あえて被災した当時そのままに残されていました。〝〇時×分に津波が来て、校内放送があって、山へ逃げた〞など、絵本とともにパネルが展示されていて。時計の針もその〇時×分で止まっていた。それを見てメイちゃんと、〝ここだったんだね〞というお話をしました」
現場が持つ圧倒的な力、映像や文字では伝わらない何かを2人はしかと受け止めた。かといって自分に何ができるわけでもなく、「大それたことは言えないんですけど」と本郷さん。それでも福島ロケは、さまざまな思いをかき立てた。
「海だったり山だったり、そういうロケーションでもたくさん撮影しました。それは都心ではリアルに撮れるものではなく、自然の力強さが映っているはず。撮影は7月でしたが、すごくいい夏休み、そんなステキな画が撮れたんじゃないかと思っています」
YouTubeはモノづくりの“延長線”
本郷さんは宮城県仙台市出身。中学までを過ごした。
「祖父母は亡くなり、両親も東京に出てきて、なかなか帰ることもなくなってしまいました。だから、いつか故郷に帰って拠点にする、そうした感覚はないかもしれません」
芸能活動は歳からスタート。一方で、NHK Eテレで放送されていた子ども向け番組『つくってあそぼ』から影響を強く受けたそう。
「〝ワクワクさん〞のマネをして工作をしていたのがルーツとなり、今もプラモデルや動画制作、音楽と広くモノづくりが大好きになりました。YouTubeもその〝延長線〞です」
2020年、30歳の誕生日を機にYouTubeチャンネル『本郷奏多の日常』を開設。ゲームやプラモデルと〝オフでの日常〞というコンセプトでチャンネル登録者数は62.4万人(2023年9月現在)。撮影、編集もすべて自ら手掛ける。今回『姪のメイ』の撮影中も、ポケモンのキャラクターをモチーフにした「ラッキー公園 in なみえまち」で、半日あった休日にすかさず動画を撮影した。
「昔から、人を楽しませることが好きで。例えば友達の誕生日会を率先して計画して準備する、そういうことを楽しんでやるタイプなんです。YouTubeはすべてを自分でつくれるし、観てくださった人のリアクションも直接感じ取れる。自分に合っているなって」
もともと観る側としてYouTubeが好きだった本郷さんは、自分がやるなら?と緻密な戦略を立てて始めたそう。
「やっぱり頭は使ったほうがいいと思います。ちゃんと考えていろいろなケースを想定したほうが何かと対応できますから。そもそも頭を使うという作業が好きなんです。YouTubeって、動画の視聴者層やどういうルートで興味を抱いてその動画を観たのか?など、細かいデータが出ます。すると、次はこうしたらもっとたくさん観てもらえるかも?と切り口を考えたりできる。そういう作業が楽しい」
熱心なゲーマーでもある彼は、YouTubeもリアルなゲームとして〝攻略〞するかのように知恵を絞る。
「ある企画を立てたら、それがどれくらいの再生回数を記録するか? だいたいわかるようになってきました。それが想定以上に多くなる場合はありますが、想定を下回ることは基本的にありません」
なんか、格好いい! ゲームが得意でプラモデルをつくるのが好きで動画制作にも熱心で。それでいて「お菓子が大好き」と聞くと、ちゃんとご飯食べてる?みたいな親戚のおばちゃんのような気になる。すると「結構、料理も得意なんですよ」と本郷さん。『姪のメイ』には、卵焼きが印象的に登場する。小津は食べ物に無頓着で、メイと暮らし始めたころは朝食も菓子パンだけ。そこから卵焼きに挑戦するようになり、焦げ付いて塩が利き過ぎたしょっぱい卵焼きから、メイが好きな甘いものへ。2人の関係性も、より味わい深いものとなる。
「僕自身、卵焼きはしょっぱいほうが好きです(笑)。ドラマに登場する卵焼きは美術スタッフさんがつくってくれたのですが、おいしくて! 大沢一菜ちゃんと『ねぇねぇこれ、撮影が終わったら食べていいの?』『大丈夫。一緒に食べようぜ』とバクバク食べました。僕も一度だけつくったことがあるのですが、あまりに難しくて。その瞬間、卵焼きは食べる専門になりました(笑)」
常に根底にある思い“噓をつきたくない”
人を楽しませたい――。その思いは、そのまま俳優業とも直結するように思える。
「出演した作品を観ていただき、感想をもらう。それがうれしく、次はもっと頑張ろう!と思えます。幼いころのスタートは親が始めさせたという感覚でしたが、今は本当に俳優業が好き。信念を持ってやっています。両親に感謝ですね」
10代の後半ですでに、「真面目にストイックに仕事をすることが人生の最優先事項」と語っていたというから驚く。
「観てくださった方のリアクションがありますし、とてもやりがいのある仕事です。能力がなければ次の仕事が続かない世界でもあります。すると惰性で仕事をしなくなる。緊張感があって、それが楽しい。だから一生懸命にやってます」
それでいてもちろん、頭を使う仕事でもある。
「頂いた役柄のことはしっかり考え、向き合っていきます。自分の影響ができる範囲は狭いものですが、一生懸命に考える。台本を理解し、例えば歴史モノならその勉強と事前準備をしたり、原作があればどこがいい点なのか?考える。でもお芝居をするときは、自分ひとりで作品をつくるわけではありません。事前に考えることより、現場に入ってその空気を感じ、柔軟に対応するほうが大事ですけど」
頭で構築するのと感覚で反応する部分と、そのバランスは作品によって変動する。俳優として、演技のそうした〝戦略〞も、頭のいい彼はやはり外さないのだろうか。
「それはわかりません。別の選択肢の結果を目にすることはできませんから。でも一応この年齢まで仕事を続けてこられたということは、基本的には、だいたい、合っているのかもしれませんね」
そうした物言いも、なるべく正確に言葉を選んでいく。
「噓をつきたくない、その思いは常に根底にあります。噓をつくとボロが出るし、人が離れていく。僕自身、噓をつく人が苦手で。それに噓をつくって無駄なカロリーを必要とする、余計な頭の使い方をしなきゃいけない局面が多くなる気がします。合理的に判断しても、噓は最終的に自分の首を締めることになる。だから噓をつかないことは大きなテーマで、約束を守ることとあわせて徹底しています」
俳優デビュー20年もすぐそこなのだから当然かもしれないが、隅々まで、俳優としてのやり方が確立されている。
「今後もお仕事をきちんと続けていくこと、求められるものをしっかりとやり遂げ、次の仕事につなげていくことが大事だなと。一つひとつの作品と真摯に向き合い、自分にとって最大のパフォーマンスを出す。それを徹底していきたいと、思っているんですよね」
木ドラ24『姪のメイ』
●出演:本郷奏多、大沢一菜、田中美奈子、川田広樹(ガレッジセール)、橋本淳、清水葉月、土居志央梨、岩田奏、真飛聖、竹原ピストル、関智一、須藤理彩ほか
●監督:清水康彦、大内田龍馬●脚本:小川康弘●企画・プロデュース:青野華生子●毎週木曜、深夜24時30分~テレビ東京系にて放送中
https://www.tv-tokyo.co.jp/meinomei/
文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 ヘアメイク/髙橋幸一(Nestation) スタイリスト/川地大介
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