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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

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移住にオススメなまち/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(46)【千葉県八街市】

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 9月24日。「情けも、朝の挨拶も、他人のためならず」。6時50分起床。ランニングに行こうと庭に出ると、おお、涼しい、というよりかシャツ1枚では寒い。急いでセーターを着た。ランニングの最終地点は村の墓地。お彼岸ということでどの墓石の前にも美しい花が供えられている。村の知人、AさんBさんが夫婦で墓参りに来ているのに出会う。おはようございますと挨拶し、しばし立ち話をする。それとは別に、特に親しくはなくとも、村人と顔を合わせたなら僕は必ず会釈し、毎日暑いですねえとか、やっと涼しくなりましたとかの挨拶をする。

 『週刊ポスト』9月29日号が「人生最後に間違えた人の最悪の選択」という特集を組んでいる。そのひとつの項目が地方移住・都会に逆戻りする人の共通項」である。せっかくの移住生活が長続きせずまた都会に戻るという事例は結構多いらしい。僕自身の移住は不退転の決意だった。もしこれがダメならここで死ぬしかないな・・・そんな思いでなされたのだが、正直に言うと、もしダメになっても、もはや戻れる場所なんて自分にはなかったのだ。再び都会に戻れる場所がある人というのは幸運なのか、それともイージーな醜態なのか・・・。僕が考える移住失敗の原因は案外と単純なところにある。爽やかな挨拶ができない。なすべきは、相手の話を途中に言葉をはさまずじっくりと聞く。そして最後に簡潔に、その話題をフォローする。そうすることでふんわりとした人間関係が生まれる。この逆が移住でのギクシャクを生む。ろくに挨拶をしない。頭を下げない。あるいは、もし会話の機会が生じた際でも、相手の話にはほとんど耳を傾けず、自分語りに熱を込める。自分の都会における過去の栄光、どんな役付きだったとか、年収はいくらだったとか、そんなことを口にする人もいるらしいが、そんなのは最悪である。

 わかりやすいダメ事例がある。よくもまあここまで、そう感心するくらい田舎人をバッタバッタと切り捨て、返す刀で自分の自慢をする。この人が脱サラで始めた農業は7年で行き詰り、無力感やうっぷんがたまっているのだとは思うのだが、それにしても・・・。少し長いが引用する。プライバシーにかかわる部分はカットしてある。

なんせ寄るとさわると、孫の自慢話と、嫁の陰口以外に話のネタがないのが農村。私が田舎に居を構えたのは36の時だったけど、なんだ女じゃねぇのか、ということを露骨に言われたことがある。どう見ても嫁が来るはずのねぇようなジジイに。農村部に移住するうえで何が必要か、金か、伝手か、コミュ力か、そう問われれば、即座にこう答える。メンタルタフネス。ふてぶてしいぐらい図々しくして面倒な人だと思われるぐらいでちょうどいい距離感が保てるのがド田舎というもの。むしろそのぐらいでないと、変にこちらが一方的に損するような話ばかり持ってくるろくでもないのがへらへらと寄ってきて大変な目に遭います。地方都市、市街地近郊ならいざ知らず、農村部への移住は極めて面倒ごとが多いのを本音として述べておきます。神経質な人、潔癖症の人、花鳥風月を愛でたい文化的な人は、田舎はたまに遊びに出かけて見に行くところと割り切って、都市生活者に徹することをおすすめしますよ。思うにこのババアども(やたらおせっかいする老齢の女性を指して:中村注)には悪気は無かったんだと思う。単純にバカな田舎者なのだ。バカと言葉を交わす以上の苦痛はない。移住して最初に親し気に寄って来るやつというのはたいがい、ヒマを持て余している村の鼻つまみ者。誰にも相手にされないやつほど相手にしてほしくて親し気に近寄って来る。いろんな人が移住してきて、また、落胆して都会へ戻ってゆくのを見てきたけれど、いわゆるブラックと呼ばれる風土が日本の原風景であって、都会はその縮図なんだと思う。都会なんて田舎じゃ暮らしてゆけなかった田舎モンの巣窟なんだから。田舎ってなんだかんだ言って搾りカスなんですわ・・・。

 この人物は自分の優秀さを常々語る。IQの高さだとか、はるか何代もの先祖にまでさかのぼって自分の血筋の優秀さとかを語る。さらには、何かあったらすぐに駆け付けるからと言ってくれる海外の友人が何人もいるとか、会社員時代、東大出の部下がいたが、賢くなかっただとか・・・。しかし、僕はすでに田舎暮らしを43年やっているが、この人が言うような「バカで図々しい人」には一度も出会ったことがない。ましてや、「こっちが一方的に損する話ばかり持ってくる人」の存在なんて、微塵も感じたことはない。移住地で大切なことは何だろうか。笑顔でかわす爽やかな挨拶である。すべてはそこから始まる。情けは他人(ひと)のためならず・・・というが、挨拶も他人のためならず自分のためでもある。明るい笑顔でかわす挨拶は、じつは自分自身の心を優しく穏やかにする。いま引用した人物の言葉が、優しくも、穏やかでもない、かなりトゲトゲしいことでもって、どんな日常を過ごしてきたか、なぜわずか7年で農業に行き詰ってしまったか、おわかりだろう。ついでに言うと、有名人、金持ち、何かの業績で注目を集めている人などを彼はとことん罵倒する。農作業なぞやっている気配はない。同じ脱サラ農業の僕としてはなんとも悲しい姿に思えるのである。

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