掲載:2021年10月号
かつて祖父母が暮らした五戸町に移住し、不耕起栽培を実践する佐藤さん一家。念願の農家民宿も開業し、農業体験を通して交流が生まれる場をつくっている。子育てをしながら〝農ある暮らし〞を目指す家族の歩みと、これからについて伺った。
不耕起栽培を実践し、念願の農家民宿を開業
「子どものころ、夏休みに訪れた祖父母の家で過ごした日々が忘れられなくて。いつか五戸に住み、農業をしたいと思っていました」
そう語るのは東京都から青森県五戸町に移住した佐藤岳広さん(40歳)。妻の美穂子さん(38歳)にも結婚前より移住に強い思いがあった。学生時代、中国のハンセン病回復村でのボランティア活動に参加。自給自足生活を経験したことで自然に沿う暮らしを送りたいと思うようになったのだ。
「まず移住に向けてやったのが婚活(笑)。方々に『一緒に農村へ移住してくれる人いない?』と声をかけまくったら、友人から岳広さんを紹介されました」
2012年、岳広さんと美穂子さんは結婚。当時、岳広さんはⅠT関連会社でシステムエンジニア、美穂子さんは訪問介護事業所に勤めていた。
「仕事を辞めることに悩んだのですが、長男が小学校に入る前、マンションの契約更新のタイミングで移住を決めました」
2016年夏、五戸町の風はさわやかだった。
住まいは、かつて祖父母が暮らしていた家。9年ほど岳広さんの父が空き家の管理をしていたため、比較的状態はよかったが、風呂の修繕などは必要だった。そこで、民宿を営むことも視野に入れ、地元業者に改装を依頼。費用は1000万円ほどかかるため、県の女性起業家向けの低金利の融資制度を活用した。風呂が使えない改修期間は、近所の倉石温泉(現・休業)を利用。美穂子さんは温泉でパート勤めをすることになり、おかげで方言も覚え、地域となじむこともできた。
岳広さんは有機栽培農家「はる農園」のブログに掲載されていたジャガイモ掘りイベントに参加したことで転機が訪れた。
「自分の農業へのスタンスを話したら、よほどヤバイと思われたのか(笑)、手伝いに来ないかと誘ってくださったんです」
青年就農給付金(準備型)を活用し、2年間研修。2019年春に独立し、現在は祖父母が所有していた田畑で米や少量多品種の野菜を栽培している。実践しているのは不耕起栽培。一般的な農法に比べ、野菜の生長は遅いが、農業資材や労力を極力使わない農法は、書物を熟読し、岳広さんが行き着いた農業に対するスタンスである。
「農業の〝業〞を重視するのでなく、〝農〞ある暮らしが送れたら」と、自分たちの暮らしや、人との交流を大切にしたいと語る夫妻は、2019年夏には念願の農家民宿を開業。近隣学校の修学旅行などの体験民宿施設としても活用され、評判は上々だ。カフェ営業や、地元役場で野菜をたっぷり盛り込んだ弁当も販売する。また、ボランティアで近所に立つ築200年の古民家の管理を仲間としており、そこでフリーマーケットを開催。地域との交流を深めている。
「いつかは鶏を飼い、卵も自給したいけど、覚悟が足りない。理想の自給自足生活にはまだまだです」と夫妻は言うが、子どもたちとの日常を愛し、日々忙しく暮らす一家の表情は明るい。
五戸町 移住支援情報
子育て世帯に向けた生活支援や起業・就農を応援する制度が充実
若者夫婦世帯の家賃助成(月額最大2万円)や、新生児祝金(5万円)、多子世帯支援商品券(5万円)、子どもの医療費助成など、子育て世帯に優しい生活支援が充実。最大100万円が給付される「五戸町の未来を創る起業支援金」や、最長3年間で最大108万円給付される「五戸町青年就農ステップアップ支援金」もある。
総合政策課 ☎︎0178-62-7952
http://www.town.gonohe.aomori.jp/kurashi/sougouseisaku/ijuujouhou.html
文/横澤寛子 写真/船橋陽馬
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