戸数5軒の新潟県上越市柿崎区下牧集落に建てられた館。それは古民家再生に実績のあるドイツ人建築家、カール・ベンクス氏の作品だ。その建設には「移住者を呼び込みたい」という地元住民・中村さんの熱い思いがあった。
掲載:2021年10月号
自己資金を投じて古民家を芸術的に再生
実家の農業を継ぐためにアフリカから上越市の下牧集落に戻った中村和彦さん。かつて20軒あったふるさとの集落は、わずか4軒になっていた。何年かすると、集落は中村さんの家だけになってしまうかもしれない。
下牧には、山岳信仰の信徒をもてなした集落としての歴史もある。ふるさとを守りたいと思う中村さんは、移住者を増やすことを考えなければならなかった。
幸い、山の麓という立地から景色は抜群によい。四季がはっきりしていて、裏庭で山菜が採れ、棚田や森など美しい風景が広がっている。自然を愛し、四季とともに暮らすには絶好の土地だ。
「ここに移住者を呼び込むには、家が必要だ」と考えた中村さん。だが「それが普通の家では難しい」とも感じていた。
そんなある日、中村さんは古民家再生のテレビ番組を見て、実績のあるドイツ人建築家、カール・ベンクス氏を知る。古民家はじつは宝物であり、それを後世に残すことは意義のあることだという思いに共感。相談すると「空き家のうち2軒は再生できる」と言われ、自己資金を投入し、カールベンクスハウス「いなば」の建設を2018年4月に着工した。
改修した古民家は地域の庄屋が住んでいた家を譲り受けたもの。100年前に建てられた家には土間や台所、馬小屋など非常に大きな空間が残されていた。
改修は、古材を再利用できるようにていねいに解体し、古材はきれいに洗って磨き直し、傷んだ部分は継ぎ足す。通常より高めのベタ基礎を打ち、頑丈な家を建てていく。だが、古材には独特の自然なゆがみがあり、1本1本現場合わせで削りながら新しい材料と組み上げるという大変な労力と時間がかかった。
「いろんな方が手伝いに来てくれて。地域おこし協力隊の方が着任するなど、新しい出会いもありました」
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