掲載:2022年4月号
「空気が澄んだ広い空の下で四季を感じながら暮らしたい」とかねがね考えていた夫妻は、名水百選の千種川が流れる兵庫県上郡町へ移住。自然素材に囲まれた古民家の心地よさを感じながら、人にも環境にも優しい農法での野菜づくりとDIY生活を満喫している。
自然素材に囲まれた家と約30坪の菜園にひかれて
三方を山に囲まれて昼夜の寒暖差に恵まれ、千種川(ちくさがわ)やその支流の周辺に肥沃な土地が広がるなど、おいしい米や野菜づくりの条件が揃う上郡町。このまちへ2016年に山梨県から移住したのが、ともに医療関係の仕事をしている齊藤実(さいとうみのる)さん(45歳)・三恵(みえ)さん(50歳)夫妻だ。三恵さんはこう振り返る。
「建物にこもって働く日々よりも、空を眺めたり、自然の風景を眺めたりする生活をしたいと常々思っていました。あるとき夫が体調を崩したことを機に、思いきって生き方を変えようと移住を決断したんです」
実さんの実家がある神戸市周辺を中心に物件を探し、巡り合ったのが推定築約200年という菜園付きの古民家だった。改修済みの床や壁を含めて自然素材で構成される建物と、木の温もりが感じられる内装にひかれたという。入居時にも、新建材は使わず約430万円をかけて住みやすく改修。床や壁への断熱材の施工など、可能な範囲で実さんがDIYした。
「DIY経験はなかったのですが、売主さんが工具をいろいろと残していってくださり、最初は寒さ対策など必要に駆られてやり始めました。実際に自分でやってみると、こういう古い家は手を入れやすいとわかり、徐々に楽しくなってきました」
そう話す実さんは、備前焼のタイルや耐火レンガを使って炉台も自作し、北欧製の薪ストーブを設置。プロパンガスの契約は止め、調理を含めて薪での暮らしに切り替えた。
健康的な野菜をつくり、四季の風景に癒やされる
三恵さんは念願だった菜園生活を開始。移住前から自然農や自然農法を学び、農業大学校へ通って、田舎暮らしを見据えた準備を進めていた。
「健康であり続けるために、以前から無添加食品や無農薬野菜を意識していました。安心・安全な野菜の自給率を少しでも上げられたらと思っています」
そう話す三恵さんだが、こだわり過ぎないようにもしている。
「働きながらの農作業なので、とにかく手抜き。例えば、最初はトマトに雨よけを施したり、キュウリに支柱棚をつくったりしていましたが、今はほったらかしです(笑)」
一方で、生ゴミを活用したコンポストはもちろん、自宅の精米機で出るヌカと庭の落ち葉を混ぜて腐葉土をつくるなど、土づくりを重視。栽培3年目からは地力の衰えを感じ、様子を見ながら鶏ふんなどで補っている。
実る野菜は、化学肥料をたっぷりと与えたものに比べると小さめながら、野菜本来の野性味がある。近所や職場の人にも配り、喜ばれているという。
「勤めを辞めて本格的に農業を始めることも考えましたが、今は仕事もまったく嫌ではなくなりました。休日に土いじりをしているだけで気持ちがいいし、ふと見る青空や夕日がきれいだったり、季節の野花が咲いていたり、喜びを感じる瞬間がいろいろ。それだけでごちそうです」
と、三恵さん。ときには実さんと一緒に近くの山へ登って野草を採取し、ホタルが乱舞する清流へ出かけるなど、心潤う日々を過ごしている。
齊藤さんの菜園のこだわり
在来種のタネを使う
「環境への配慮から種の保存も大切にしています」と話す三恵さんは、遺伝子組み換えが行われていない在来種のタネを使用している。「基本的に『野口のタネ』または自然農法センターのタネを購入しています」。そして、マメ類やオクラ、バジルなど、可能なものはタネを採って翌年の栽培に生かすという。
上郡町企画政策課の小西直哉さんに聞く!菜園の楽しみ方
モロヘイヤ栽培が人気です
町内では米・麦・大豆を中心に、野菜や果樹など幅広く栽培されています。基本的に一般的な栽培スケジュールと変わりませんが、平地から山間地まで多様な地域があるので、立地に合わせて育てる作物を選ぶといいでしょう。オススメの農作物は、特産のモロヘイヤです。
文・写真/笹木博幸
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