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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

男というもの/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(24)【千葉県八街市】

 6月19日。ようやく気温30度が訪れた。テレビのニュースはもう何日も蒸し暑くなります、熱中症にくれぐれもご注意を、そう言い続けていたのだが、ちっとも熱くなってくれなかった。しかし今日は間違いなく気温30度、僕の好きな夏模様だ。朝食をすませ、裸になって畑に向かう。スコップで草を削り取る。流れた汗が目に染みる・・・泥の着いた手で目をこすらねばならないのは厄介だが、このシチュエーションが大好きだ。

 トウモロコシは、生育にちょっとバラツキはあるけれど、まあ順調に育ってきている。オスが穂を出し始めたのは半月前だ。メスの穂はオスから10日遅れ。どの野菜にも授粉というプロセスはあるけれど、トウモロコシほど雌雄のカップルの「むつまじさ」を僕に感じさせるものはない。メスより10日くらい早く穂を出したオスはだんだんに穂の大きさを増し、花粉の準備を整える。そのタイミングを計ったかのように、メスの穂はヒゲ状となり、オスの花粉が上から落ちて来るのを待ち受ける・・・。

 この男と女の関係には、忖度、遠慮、気まずさ、そういったものがない。オスは、精一杯、穂を広げ、ひとつでも多く花粉を下に落とそうとする。その花粉をメスは、懸命に受け止め、彼女が目指すのはまさに「充実の人生」だ、たしかな実にしようとする努力だ。あとは天気である。この先、強い雨が降り続くか、豊かな光と柔らかな風に恵まれるか、気温はどうか。それは僕にもわからないし、トウモロコシたちにもわからないだろう。でも、この先がどうなるかを案じるばかりでなく、今という時に全力を尽くすのだ。

 今月末に大豆をまく。僕が作っているのは大豆の中でも晩生で、10月半ばにエダマメとして食べ、年末に大豆となる。味もよく、豊産性。いったんポットにまいてから移植するが、黒大豆と合わせて500株くらいつくりたい。その予定地の準備に半月前から汗を流しているのである。気温30度、湿度65%。汗は途切れることなく流れ、背中の皮膚が焼けて燃えているのが実感される。しかし僕は、これでいいのだ、いや、これがいいのだ、そう思う。近頃は、男でも日傘を差す、日焼け止めクリームを塗る人がいるらしい。そんなの男じゃあない・・・こう言えば、またまた「中村さんは絶滅危惧種だあ」の言葉のつぶてが飛んで来そうな気もするが、仕方がないネ、これは我が不変の思想なんだから。

 いずれ読んでみたいと思う本がある。モンティ・ライマン著『皮膚、人間のすべてを語る』(みすず書房)。著者はオックスフォード大医学部の皮膚科医、かつ著述家。そして、一昨日の朝日の書評欄に評文を書いているのは京大・藤原辰史氏。

皮膚とは何か。これが本書をつらぬく問いである。わずか1ミリに満たない皮膚の表皮には、死んで硬化した細胞の層があり、日々更新されている。無数の常在菌が住み、免疫細胞と健全な相互関係を築いている。そうした「サファリ」のような皮膚が、有害な攻撃や刺激のバリアーとなる。真皮に住む免疫細胞は、それらが連携して侵入してきた細菌を攻撃する。皮膚の各部位の連携で、繊細な触覚も構成している・・・皮膚は人間最大の臓器であり。社会や精神と深くかかわっているという。単なる我々の覆いではない。

 日々更新される皮膚の細胞。その更新を円滑に進めるためにはまず食事が大切。その次が、やたら過保護に走らないこと・・・これが原始人と呼ばれる僕が本能的に知り得たことである。ゆえに、僕は、上半身を光に当てる。大量の汗をかき、体表面の老廃物を汗とともに一掃するよう努める。そんな僕の目には、日傘を差し、日焼け止めクリームを塗る男の姿はどうにも「美しすぎる」と映る。叱られたっていい。笑われても構わない。思う通りを言う。それって、男の道を外れているんじゃあないかい・・・。

 6月20日。今日も昨日とほぼ同じ天気。気温30度、湿度65%。メロンとマクワウリの手入れに長い時間を費やす。メロンは5株、マクワウリは20株。ほとんど放任で、半月あまり現場に足を向けなかったが、その間にたくましく成長が進み、実も肥大していた。ただし、数えきれないほどのツルが互いに絡み合っている。せっかくの実を傷つけないよう、絡んだツルを各方向に誘導するのに難儀した。

 そんな僕の前方に栗の木がある。栗の花は、僕の胸の内では梅雨どきの季語である。そして、ここにもひそやかな男女の関係がある。栗の花穂には雄花ばかりのものと、雄花に雌花がまじるものとがある。総じて言えることは、にぎやかに、木全体を覆うようにして咲くのは雄花で、雌花は探し出すのも難しいくらいで花穂の付け根にひっそりとある。そして、役目を終えた雄花は順次地上に落下してゆく。今日現在、落下したのは全体の3割ほどだが、あと半月もすると地面をふさぐほどに、茶色に変じた雄花は散りつくしてしまう。

 僕はこの姿を見ていつも、男のガンバリと、合わせて男という性の切なさのようなものを感じる。地面から目を移すと、あれほどの賑わいを見せていた花穂が樹上からはすっかり消え失せ、替わって、ウニか、機雷のような形をした直径5ミリほどの栗の実の赤ん坊が涼やかな顔をして光を受けているのだ。これから8月末までの2か月余りの時を経て、その赤ん坊はたくましく育つ。一方、地面に落下した雄花の花穂はその頃すでに土に同化し、ほとんど原型をとどめない。

 ところで、読み進めている『どうぶつのタマタマ学』にも栗の花のことが出てくる。「精子と精液」と題された稿に、精液の30%を占めるのは前立腺液で、その前立腺液に含まれているスペルミンという物質が栗の花の匂いに似ているのだという。で、ついでに今日はもうひとつ『どうぶつのタマタマ学』から引こう。「睾丸と金玉」と題されたところにこのような文章がある。

金玉という語源にも触れておきましょう。漢字で金玉と表記されますが、もちろん「金色の玉」なわけではありません。タマタマは丈夫な「白膜」に包まれており、見た目は白、あるいは血液の色が透けてピンクに見えます。さらに、白膜を剥いてみても、クリーム色から薄い茶色で、残念ながらまったく金色ではありません。では、なぜ「金」なのでしょうか。「大切な玉」・・・だからというのはありそうな話ですが、そもそも金玉というのは当て字だと考えられています。ただし、語源ははっきりしておらず、「生の玉(生命の源である玉)」、「肝玉(肝となる重要な玉)」、「酒の玉(にごり酒に似た白い精液をつくる玉)」などという解釈もありますが、どれも決め手にかける印象です・・・。

 なるほどね、たかがキンタマ。されど、その言葉の発祥はとなれば、けっこう難しいものなんだな。で、キンタマついでにもうひとつ。数日前の朝日新聞、オピニオン&フォーラム「人生のための性教育」は助産師・桜井裕子さんのお話だった。これも少し引く。桜井さんは看護師になるため専門学校に通い始めて間もなく妊娠したという。相手は現在の夫だが、結婚する予定もなく、中絶するつもりで産婦人科に行った。男性医師は「妊娠しているけど、学生だから産まないでしょ」と言われて無性に腹が立ち、逆に産んでやると思ったそうだ。その桜井さんは、学校の生徒を相手に今は講演もする。

精巣のことを「キンタマ」というけれど、なぜ? と問いかけるといつも笑いが起こります。でも私が笑わずに説明していくと、子どもはクスクスしなくなる。「命のもとである精子を生み出すところで、金のように大切だから」と話し、蹴り上げたらダメだと伝えます。子どもたちが笑うのは、それが下ネタや下品なことだと大人からインプットされているから。子どもは案外センスがよくて、こちらが淡々と語ると、ちゃんとついてきてくれます・・・。

 我らの思春期と違い、世の中は確実に変化しているな・・・桜井さんの語りを読んで僕は思う。そういえば、つい先日、男子高校生たちが女子の生理について学ぶところをテレビで見た。生徒たちは、生理ナプキンにビーカーの水を垂らし、その吸水性を指で触って確認する。どの顔も真剣だった。へえっと僕が思ったのは、その生理用ナプキンを男子たちも着けて部活の運動をしてみる。それで女子たちの苦労が実感されたという。生理という機構がわかり、あるいは異性である女子への理解も増してゆく・・・。一人の男子がこう言った。一緒にいる女の子が急に生理になったら、僕は近くのコンビニに行ってナプキンとタオルを買って来てあげます・・・ああ、いいなあ。世の中は変化しているのだなとあ僕は感心したのであった。キンタマも、生理も、臆せず口にするのがいい。だって、今の命から、新しい命につなぐ、命という連鎖。どちらもそれに大切なものであり、大切なことなんだから。下ネタでも下品なことでもない・・・それを男と女が了解し合うところから、ひょっとしたら、本物の男女平等、ジェンダーレスは萌芽する・・・のではないだろうか。

 6月21日。光がない。今日は布団も洗濯物も干せないな。僕が仕事に取りかかる頃、朝の活動が早いチャボたちはすでにくつろぎタイムだ。この写真の風景を見て、「どうぶつのタマタマ学」、その「鳥にもタマタマはある」という項目を僕は思い出した。年に数回、オスが増えすぎないようにと解体するが、内臓を取り出しながら、ああ、これがタマタマだなと思ったことはない。本の巻頭に「ニワトリのタマタマ」としてカラー写真が載っているが、なるほど、今まで意識せずにいたけれど、これがそうなのかと、思ったよりも大きいので驚いた。今度解体する時はしっかり確認してみよう。そして、著者・丸山貴史氏はこう記す。

哺乳類とは違って、鳥類の97%にはチンチンがありません。チンチンからおしっこをするのは哺乳類だけで、鳥類はおしっこもうんちもおしりの穴(総排泄腔)からします。なので、チンチンがなくともおしっこをするには困らないのです。鳥類がチンチンを失った理由には諸説ありますが、空を飛ぶため軽量化を迫られたことは、その一因だといえるでしょう。鳥の体重は大きさのわりにとても軽く、歯を失っていることも、骨の内部が空洞なことも、体を軽くするための適応だと考えられています。チンチンを持たない鳥類の交尾はあっという間です。オスとメスは互いのおしりの穴をこすり合わせ、一瞬で精子のやり取りをすませます。交尾時間が長いと敵に襲われやすいので、短い交尾にはメリットが大きいのでしょう・・・。

 チャボの飼育経験がまだ浅かったころ、メスの上にのっかったオスが何度か腰をゆする、その背後に回って、僕は何度かおちんちんを見てみたいと思ったことがある。でも見えなかった。いま思えば、ほんとに鳥の交尾は早業である。なるほど、ゆっくりセックスを楽しんでいて敵に食われたのでは元も子もないからなんだね。チャボたちの骨が空洞な理由も「どうぶつのタマタマ学」を読んで納得がいった。

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