2022/04/01 05:00
庭先でニワトリを飼う/子育て上手なチャボがオススメ
農園を開いて以来、中村顕治さんは、敷地に放したチャボとともに暮らしてきた。チャボは卵をもたらしてくれるだけでなく、声をかければ懐いてくる。母性本能が強く、放っておけば自然に卵を抱き、ひなを育てる。かわいい親子の姿は、農園暮らしに豊かさを運んでくれる。
約1500坪の農園に約200羽のチャボを放し飼い。群を率いるおんどりの名前は「イチバン」。「優しくて人の言葉がわかります」と中村さん。
中村さんが宅配している野菜セット。チャボの卵はサイズは小さいが味は濃厚。
【乾いた土の上を歩き回れば元気いっぱい】
鶏の先祖と言われる野鶏たちは、雑木林の中で10〜20羽ほどの群れで暮らしているそうだ。千葉県八街(やちまた)市にある中村自然農園の鶏も、野生に近い環境で飼われている。ブルーベリー、アケビ、キウイ……。さまざまな果樹の茂る庭を生き生きと歩き回り、土をつついてエサを探したり、木の下に潜って隠れたり。母鶏の周りで遊ぶヒヨコもいるし、周囲ににらみを利かすおんどりもいる。地面のくぼみに体を沈ませバタバタと羽を動かす鶏を指して中村さんが言う。
「ああやって砂浴びのできる環境が大事です。からだに付いた虫を落とすためにね。元気に育てるには柔らかく乾いた土がたっぷりあること。鶏は寒さには強いけれど、暑さと、それ以上に湿気が苦手なんです」
狭いケージで飼われる養鶏場の鶏はワクチンや抗生物質で伝染病を防ぐが、砂浴びして日々暮らす鶏はウイルスへの抗体さえも身に付けて、自然のまま健康に生きている。産卵率が落ちる前に更新される養鶏場の鶏は2年ほどの命だが、卵を産まなくなってもそのまま置かれる中村さんの鶏は10年ほど生きる。
「エサ代もかかりますし、採算は合いません。僕にとって鶏は半分ペットですからね」
目の利かなくなった老鶏の口元に餌を近づける中村さんの目は穏やかだ。鶏にはそれぞれ個性があり、人懐っこい鶏は人間の言葉がわかるのだという。
【放し飼いに必要な面積】
鶏はしばらく小屋に閉じ込めて飼うと、そこが寝ぐらだと覚えて、昼間外に出しても夜は戻ってくるようになる。昼間行動するのは、普通は小屋周辺の限られた範囲。中村さんの農園では、収穫する野菜を鶏たちが食べないよう、畝まわりにネットを張る。敷地の外周は、鶏が出やすい場所だけネットでガードする。
「鶏は一定の縄張りを持っていて、そこを外れて逃げ出すことは普通ならありません。餌がふんだんにあれば、遠くまで行く必要もないですから」
ただし放し飼いには一定の面積が必要で、たとえ20羽でも300坪ほどはほしい。
「狭い敷地ではネットでぐるりと囲います。10羽なら1本の木の周りなどでも充分です」
【子育てするチャボは人にも懐きやすい】
中村さんが飼う鶏は、もとはチャボとウコッケイ。農園で自然交配を繰り返し雑種化した。色や形のパターンは100通りほどあるのではという。
「養鶏場で飼われている品種は産卵率が9割以上でほぼ毎日卵を産みます。うちのチャボは卵を抱かせないようにしても年間100個も産みません。卵の大きさも小さいです。味は抜群にいいですけれどもね」
養鶏用の鶏は卵を抱かない。チャボやウコッケイは卵を抱いてひなを育てる習性が強い。
「鶏の親子を見るのが好きだから、養鶏用の鶏を飼おうとは思いません。子どもを連れて歩く鶏は人にも懐きやすいです。名古屋コーチンも飼ったことがあります。おとなしいですが、チャボほどは懐かなかったなあ」
養鶏用の標準的な品種なら、ひなを販売するメーカーが各都道府県にあり、近所の養鶏家に相談すれば入手できるだろう。チャボやウコッケイはペットショップで見かけることがある。37年前、中村さんは「チャボ求む」の新聞広告を出し、あちこちの愛鶏家から譲ってもらった。
「当時は少し郊外に出るとペットを兼ねて鶏を飼っている人がけっこういたんですよ」
【10羽のチャボで夫婦2人の自給を】
チャボの産卵は平均すると3日に1個ほど。毎日1個を食べるには最低3羽の計算になる。
「自給用に飼うのなら羽数には余裕を持って、できれば人数の5倍。夫婦2人でメス10羽、オス1羽が目安です。オスは鳴き声が迷惑になる場所では飼えませんが、そうでなければぜひ飼って子育てさせてみてください」
田舎暮らしの庭先飼育なら、10〜20羽ほどのチャボやウコッケイがおすすめだ。
【夜寝るためだけなら小面積の小屋でいい】
中村さんが子どものころに憧れたのは友人の農家の庭先に遊んでいたチャボ。かつて農村では自給用の鶏を昼間は庭に出し、夜は小屋で眠らせ扉を閉めて外敵を避けるのが一般的だった。これに倣って中村さんも夜寝るための鶏小屋をつくった。鶏は並んで寝るため、昼は外に出し夜入れるだけなら70〜120羽に10畳ほどで足りる。建てる場所には地面に湿気がたまらず、乾燥したところを選ぶ。屋根高は2 m以上にして、高い位置に止まり木を渡す。
「鶏は高いところが好きです」
なお、庭に放さず小屋の中だけで飼うのなら、小屋の大きさは10羽で2〜3坪ほどほしい。
鶏は外敵を避けるため寝床には高いところを好む。中村自然農園では家の軒下で寝る鳥もいる。
このスペースに夜だけなら70~120羽は寝られる。
【卵を採るにはエサをしっかりと与える】
鶏のエサは内容や鶏の体重にもよるが、乾燥重量で1羽1日100〜130 gほど必要。さらに野菜くずなどの緑餌が最低30g、理想は100 gほしい。
「初めてチャボを飼ったころ、卵を産んでくれなかったんです。近所で放し飼いしていた人に尋ねると『下痢するくらい食わさないと卵は産まない』と言われたのを覚えていますよ」
と中村さん。とはいえ庭に放して飼えば鶏は多少のエサを自分で探すうえ、微量な栄養分や消化を助ける小石なども自然に補える。鶏舎の中でエサのすべてを人が与えるよりも量は少なめ、気遣いも少ない。中村さんは約200羽の鶏に鶏用の配合飼料を1日10kg用意する。
「飼料用のトウモロコシもつくっていますが、この数になるととても間に合わないですね」
加えて近所のスーパーで魚のアラや食パンの特売があると、まとめ買いして冷凍し、小分けにして鶏に与える。
「アラはタンパク源です。食パンはし好品かな。鶏たちも同じものばかりじゃ厭きますから」
緑餌は農園の畝間を鶏が歩いてついばむほか、収穫調整後の野菜くずもふんだんにある。
「それから水は朝晩忘れずに。うちでは朝は牛乳です。以前ヤギを飼っていたころ、乳を飲ませたら鶏がさらに元気になってね。それからの習慣なんですよ」
野菜くずや雑草などの緑餌は一年中ふんだんに与えたい。「特にアブラナ科の野菜や草が大好きです」。
水は朝晩与える。ヒヨコが溺れないように浅い容器を使う。朝、水の代わりに中村さんが与える牛乳は200羽に3ℓ。
市販の配合飼料にはトウモロコシなどの主成分のほかミネラルなどの微量栄養素や消化を助ける砂まで混ぜられている。
【産卵用に狭く安全な場所を用意する】
鶏は生後半年で成鶏になり、メスは1日1つ卵を産む。産卵には周りを狭く囲まれた場所を好む。このため鶏舎には縦横30×40 cm、高さ40〜50 cmほどの産卵箱をつくるのが一般的だ。
10〜15個ほどたまると、チャボは卵を抱いて座る。ヒヨコがかえるまでは3週間。
「この間、母鶏は1日一度だけ卵を離れて大急ぎでエサとトイレを済ませます。せわしない姿から懸命さがわかりますよ」
卵を抱き始めると、孵化後の子育て期間も含めて3カ月ほど卵を生まなくなる。人が卵を取り続ければ産卵箱に卵はたまらず、産卵を続ける。しかし、しばらく続けると卵がなくても抱卵のスイッチが入って座り込む。
「この場合は鶏があきらめて立つまで待つか、ヒヨコと一緒に2日間ほかの場所に閉じ込めて子育てをスタートさせます」
母鶏は卵を抱き始めると、ふ化するまで座り続ける。卵を放すのは1日一度の食事どきだけ。
抱卵に適した場所には母鶏たちが集まる。窓のひさしの上に載せたコンテナの中は、すし詰め状態。
農園内のあちこちの産卵場所から、その日のうちに集めた卵。味は濃厚。
【鶏ふんは寝かせて肥料に】
鶏舎の床は、夜寝るだけなら土のままでかまわない。床が乾燥していれば、積もった鶏ふんは自然と発酵して堆肥になる。年に一度かき出して畑の肥料にする。
「鶏舎から出したのちにさらに屋根の下に置いて、鶏ふんだとわからないくらいまで発酵させると理想的です。50羽いれば菜園1反(300坪)の肥料が賄えるでしょう」
小屋の中だけで飼うのなら、床にはワラや落ち葉などを厚さ30 cmほど敷いたうえで鶏を入れるとよい。その後は週に一度ほど鶏ふんの目立つ部分に落ち葉などをかけてやる。乾燥し過ぎたら水を撒いて湿らせると床の温度が上がり発酵が進む。
約5反(1500坪)の中村自然農園。畑に使う肥料は約200羽の鶏たちのふんからつくる堆肥で賄われる。「充分ではないですが、少なめの肥料で野菜を育てています」。
【母鶏は2~3カ月間子どもを羽の下に置く】
ふ化から2日間は、ヒヨコにエサは与えない。その後10日ほどは魚のアラなどのタンパク源を親より多く必要とする。とはいえ放し飼いではヒヨコは母鶏の羽の下で守られながらエサ探しを覚えるから、与えるエサに神経質になる必要はない。
「ただ、ヒヨコは飲み水に溺れることがあるので注意が必要です。僕は最初、パンに牛乳を浸してエサと水分とが同時にとれるようにしています」
同じ産卵箱に複数の鶏が入っている場合は、ふ化したヒヨコと親にしたい鶏1羽とを2晩ほど別の箱に入れ、エサも箱の中で与えて閉じ込める。
「こうすると親は子を覚えて面倒をみるようになります」
2〜3カ月後、親鶏は突然、子を放して高いところに上り、子が慌てて泣いても戻らない。そして再び卵を産みは始める。
生まれて2日ほどのヒヨコを、卵を抱こうと座る態勢に入った母鶏とともに2日間コンテナに閉じ込める。その後は、この母鶏がヒヨコを育ててくれる。
親鶏と一緒に土をついばみ、エサ探しを覚える。
ふ化したヒヨコは親鶏の羽の下で守られて、少しずつ外の世界に慣れていく。
【いちばんの心配は、カラス、犬、タヌキなどの外敵】
「10数年前、小屋に野犬が入って一夜にして何十羽もやられてね。オスは全滅。養鶏家に分けてもらいに行きましたよ。もとのような群に回復するまで、しばらくかかりました」
鶏を飼ううえで最も怖いのは外敵にやられることだ。中村さんは昼間の畑で、夜の寝床で、おんどりが泣き叫んで警告を発したらすぐに駆け付ける。
「被害が多いのはカラスです。人がいなくなるのを見計らって、ひなを1羽ずつくわえていきます。鳥ではほかにハヤブサにも狙われますね」
空からの攻撃を避けるには、鶏が逃げ込める背の低い庭木などがあるとよい。
動物では犬のほかネコも手強い。一度味をしめるとしばらく通ってひなを襲う。
「生まれたときから鶏と一緒にいるうちの飼い猫は共存してますけれどもね」
低いところの卵を狙うのはタヌキ、鶏小屋の高いところの破れた網でもくぐって入るのはイタチだ。鶏舎の中の鶏を知ると、穴を掘って入るのもいる。だから鶏舎の壁下には基礎としてコンクリートブロック2段分は埋め込めとも言われる。また、外を歩く敵から見えないように、鶏舎の壁を50〜60 cmの高さにまで板張りにするのも効果がある。
「夜、一風呂浴びて晩酌した後で鶏たちが騒いだら、たいていはヘビの仕業です。卵を食べに来ます。ヘビが出ると産卵率はガクッと落ちるので、僕は植木ばさみを持って駆け付けます」
自給用の10数羽では特に外敵からのダメージは大きい。鶏小屋は小さくても侵入できない頑丈なつくりにしよう。
頭上を低い木の枝で覆われた場所があれば、空からの外敵には襲われにくい。
小屋の床をポツンと歩くヒナを見つけた中村さん。「チビちゃん、おうちに入ろうね」と、親鶏のいる上の棚に戻す。
【気だてのいいおんどりを残す】
中村さんの鶏約200羽のうち成鶏のオスは5羽。生まれてくる鶏の半分はオスだが、現実的には卵も産まず鳴き声も大きいオスを飼い続けるのは難しい。
「残っている5羽のオスは人懐っこくて気だてのいい鶏です。オスとメスは、とさかや顔つきから、ふ化後2カ月ほどで区別できます。3カ月まではどちらもかわいいですけれどね。オスは5カ月で発声練習を始めます」
塩焼きにすると抜群なのは3カ月の鶏。軟らかくカッターナイフでも解体できる。6カ月の成鶏になればまとまった肉がとれるが、解体にはナタが必要になる。
文/新田穂高 写真/菅原孝司
中村顕治(なかむら・けんじ)さん
1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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