掲載:2022年10月号
山あいの集落に空き家を求め、東京と二地域居住を始めた川口さん夫妻。しばらく放置されていた屋敷まわりの草を刈り、耕して野菜づくりを楽しむ。菜園初心者の2人は、近所の農家の助けも借りて、加工用のサツマイモ栽培もスタート。将来はお菓子の販売まで一貫する6次産業化を目指す。
家の周囲に自給菜園
サツマイモは6次産業化へ
「DIYやモノいじりが好きで、その拠点にと古民家を探しました。畑が付いていたので菜園を始めたら、これが思いのほか面白くてね」
と笑うのは川口貴之(かわぐちたかゆき)さん(52歳)。大子町の空き家バンクを利用して菜園付きの古民家を求め、妻の華子(はなこ)さん(51歳)とともに、昨年12月から都内のマンションと行き来する二地域居住を楽しむ。
「比較的渋滞の少ない東北自動車道か常磐自動車道周辺でと、最初に訪ねた栃木県の那須は管理別荘地が多く、イメージと違いました。車を東に小一時間走らせて大子町に来てみると、自分で手を入れられそうな古民家の空き家が何軒もあって。『ここだ』と思いました」
屋敷まわりは数年間放置され、伸び放題の草や樹木に覆われていた。それでも、春になるとチューリップが咲いたり、コンニャクイモが生えてきたり。元の家主のおばあちゃんは庭や畑を丹精こめてつくっていたそうで、その名残が顔をのぞかせた。
「グーグルマップのストリートビューには、手入れされていたころの屋敷の写真が残っていて。少しずつそのころの姿に近づけたいですね。1年目の今年は、草も一気に刈らず、どこから何が出てくるのか様子を見ながら進めています」
貴之さんの東京での仕事は比較的時間が自由になる営業職。木曜日か金曜日に仕事を終え、夜間2時間半ほどのドライブで移動、ほぼ毎週3日間、大子にいる。
「夏は草刈り、そして家のDIY。土曜日には妻も電車や高速バスで来て、一緒に野菜を育てています」
3人の子どもは大学生と高校生になり、子育てもそろそろ一段落。華子さんは夫婦で旅行でも楽しみたいと考えていたそう。
「1つの場所に通ってみると、春は花や芽吹きで風景が毎週少しずつ変わるのを見るのが楽しみで。夏は草が伸びていて驚きますけれども(笑)。そして何より地域の方が温かく迎えてくださるのがありがたいです。この町を少しずつ深く知っていけるのは、旅行では味わえないよさがありますね」
家庭菜園のほか、近所に約40aの農地を借りて、6次産業化を目指すサツマイモ栽培も開始。
「お菓子屋さんの知り合いから『サツマイモをつくってほしい』と頼まれたのがきっかけです。準備や植え付けには仲間もたくさん応援に来てくれて、今年は手作業で試しました。妻と法人を立ち上げたので、今後は機械化して規模を拡大し、メイドイン大子のお菓子を販売できたらと思っています」
川口さんに伺いました!
大子町の気候は野菜栽培に向いていますか?
ここは昼夜の寒暖差が大きく、夏は昼間暑くても熱帯夜はありません。冬は夕暮れになると一気に冷えます。傾斜地で水はけがよいので、ご近所の畑を見ると、どんな野菜もよく育ちますね。夜が冷えるほど甘みがのっておいしくなりますよ。
川口さんの菜園はじめの一歩
放置した畑を菜園に
もともと畑だった家の周囲の敷地。数年間放置され、草が茂って荒れた状態だった。
「最初は爪だけが付いた小さい管理機を購入して耕しました。いっぺんに土を深くは起こせませんから、何度も往復して。その後友人から、タイヤ付きで大きめの管理機を譲ってもらって、少し楽になりました」
菜園の工夫
二地域居住で水やり対策としてネット通販で見つけたソーラー自動潅水機器を導入。野菜の根元への最低限の水やりならタライの水で翌週まで持つ。
菜園生活 Q&A
Q. 山間の畑には獣害がありそうですが、どんな対策をしていますか。
A. イノシシ被害が多く、電気柵は欠かせません。電気柵購入費に1世帯4万円まで町の補助金があって助かります。トウモロコシはハクビシンにやられました。今後対策したいです。
Q. 野菜の育て方など、必要な知識はどこから得ていますか?
A. 菜園にいるとご近所の方が声をかけてくださいます。そこで教わることは多いですね。特にお隣の農家さんには、畑でスタックした軽トラックをトラクターで引き上げていただいたり、お世話になっています。
ライター・新田さんの菜園チェック!
二地域居住の菜園では収穫に着目した栽培を
川口さんは毎週末の通いでもできると、販売用の作物にサツマイモを選びました。植えた後は比較的手がかからず、収穫も一気に進められるため、広い面積にも向きます。サツマイモは乾燥気味の畑向き、湿った畑ならサトイモ、種蒔き適期は短いですが、味噌や煮豆用の大豆も二地域居住の畑向きです。
獣害対策の電気柵は、草に触れると効果が落ちます。夏場はこまめな草刈りが必要です。川口さんは柵の下に防草シートを敷き、手間を減らしています。
オクラなど実の生育が早く、毎日穫れる野菜は、畑に来られないなら小さい実まですべて収穫して帰ります。実を大きくし過ぎると収穫が長続きしません。
文/新田穂高 写真/菅原孝司(東京グラフィックデザイナーズ)
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