リンゴ農家の心意気と、棟梁の手腕が建てた、津軽地方に伝わる昭和初期の古民家。重厚かつ優美な姿の内に、生活と接客の場が明確に区分されている。店舗兼住宅や公共的施設にも向きそうな移築希望物件だ。
掲載:2022年10月号
2022年8月上旬の情報です。
すでに契約済みの場合があります。
日常とハレの空間を持つ。移築希望で保存状態良好
明治時代に始まった津軽地方のリンゴ生産。昭和9年には東京までリンゴ専用列車が運行を開始、同15年には青森県より1000万箱が移出され、販売は1つのピークを迎える。
「わが家も父の代までリンゴをつくっていました。この家屋は昭和10年代に曾祖父が建てたものです。以前はもっと山側に住んでいましたが、ここに新築したそうです。自分の山から伐り出した木を使い、基礎石を運ぶのも大勢がかかわった大工事で、本当かどうかわかりませんが『近所の人が見物に来た』と聞かされました」
と話すのは家主の佐藤悟さん(62歳)。この家で生まれ育った後、就職して弘前を離れたが、27年前に戻り、敷地内に建てた新たな住居に暮らしている。
「もとの家は思い出深いです。小さいころは便所が外にあって、夜は怖くて兄弟と一緒でないと行けませんでしたよ」
家屋は東半分が2階建ての居住空間、西半分は1階のみで高い天井を持つ座敷。全国古民家再生協会青森第一支部の大室幸司さんによると、こうした設計の民家は県内でも珍しいそうで、「施主さんの依頼を受け、腕利きの棟梁が知恵と技の限りを尽くして建てた家だと思います」
とのこと。佐藤さんは言う。
「座敷は冠婚葬祭などで使う以外、普段は出入りしませんでした。子どものとき、お供え物を下げに座敷に入ると、床の間の隣の仏壇までがずいぶん遠くに感じたものです」
床下に風の通る高い基礎と、雨と紫外線を和らげる深い軒、そして継続された手入れによって、建物の保存状態は良好。昭和初期の築を感じさせない。「思いを込めて建てられた家なので、何かのかたちで利用していただければ」
と、佐藤さんは急がず長い目で移築希望者を待っている。
【物件データ】
青森県弘前市
300万円(相談可)
延床:約65坪・125㎡
青森ヒバも用いた入母屋屋根の古民家
●1階8室、2階4室●約85年■伝統工法で建てられたリンゴ農家の古民家。入母屋(いりもや)型の屋根は、茅葺きから後にかけ替え、さらに屋根材のトタン板は20年ほど前に全面張り替えた。雪の多い地域だが雪は滑り落ちる屋根勾配。土台などの部材には防腐・防虫に秀でた青森ヒバも用いられ、構造材だけでなく外壁などもよく保存されている。
●問い合わせ:(一社)全国古民家再生協会 青森第一支部 大室幸子
☎090-1067-0664 https://www.kominka-aomori.com/
大室さんに聞きました!移築古民家Q&A
Q1/費用はどの程度かかる?
構造材だけなのか、壁土などもすべて運ぶのかで輸送費や解体費は変わりますが、この建物で標準的には20tトラック5~6台分、移築先が関東なら解体費と輸送費合わせて700万~800万円。加えて移築先での再建費は、工法によりますが、坪単価100万円が目安です。
Q2/解体・移築の方法は?
伝統工法の古民家と、現代の在来工法とでは求められる技術が異なります。古民家解体を手がける地元業者が解体し、移築先でも経験のある業者に依頼しましょう。全国にいる古民家再生協会のメンバーもご紹介できます。
Q3/移築後の再建築について
構造材だけ用いてほかは新しい部材で再建もできますし、いったん壊した壁土を練り直すなど、手間とコストはかかりますが、もとの材料を使っての再建もできます。どんな形が希望なのか、費用も含めて、依頼する業者とよく相談してください。
※古民家の移築についてはこちらのサイトでも確認してみよう
→古民家移築販売サイト「結」 https://kominka-yui.jp/
弘前市移住支援情報
2種類のお試し住宅でまずは弘前の暮らしを体験!
「移住お試しハウス」は、弘前駅近くの集合住宅の1室(1LDK)で、最長13泊14日の生活体験ができる。料金は1万8000円~/週。「弘前の暮らし体験」は、弘前公園近くのサービス付き高齢者向け住宅で、6泊7日~13泊14日の生活体験が可能。50歳以上対象。単身3000円/日、夫婦5000円/日。いずれも、滞在中に移住相談も受けられる。
問い合わせ:弘前市企画課 ☎0172-40-7121
「弘前ぐらし」https://www.hirosakigurashi.jp/
文・写真/新田穂高
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