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田舎暮らしの本 11月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 11月号

10月3日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

【薪ストーブを楽しもう】絶対知っておくべき基本をプロが伝授【構造、選び方、設置、メンテナンス】

薪ストーブのこと、ちゃんと知っていますか?  正しい知識がないと、期待していたような薪ストーブライフが送れないばかりか、危険な事故につながる場合も。そこで、薪ストーブの施工実績を2000件以上持つプロに、絶対に知っておくべき薪ストーブの基礎知識を教わりました。

【教えてくれた人】
鷲巣 勤(わしす つとむ)さん

薪ストーブショップ「ブロス」のオーナーとして薪ストーブの世界にかかわること30年。自宅のストーブはバーモントキャスティングス・アンコール。

株式会社 ブロス
https://www.bros-stove.com/

「1台で家中暖かくなる」はウソ!?

 薪ストーブのカタログには、大抵最大暖房面積が記されている。小型モデルで約100㎡、中型モデルだと150㎡前後だ。平均的な日本の家の広さは100~120㎡なので、薪ストーブが1台あれば家中が暖かくなる計算だが……。鷲巣さんは、実際は簡単ではないと言う。

 「気密性が高く、間仕切りがあまりない家なら薪ストーブ1台で暖房を賄うことも可能でしょう。しかし、2階建てで部屋がいくつもあれば、暖気が流れにくい部屋も出てきますし、薪ストーブを設置する場所によっても暖まり方は左右されます。広い空間を暖めるには、薪も大量に必要で、時間もかかります」

 田舎暮らしだと中古住宅を選ぶ人も多いが、隙間風が入るような古い家ではどんなに優れた薪ストーブでも、暖気は逃げるし、窓がたくさんあれば熱損失も大きくなる。これでは家全体を暖めるどころではないだろう。

 薪ストーブ1台で家中を暖めるには、その家の構造と薪ストーブの特性や使い方をよく理解することが重要。他の暖房との併用も考えておこう。

二次燃焼で煙は出ない?

 欧米の薪ストーブには、薪を燃焼させる過程で発生した煙に含まれる未燃焼ガスをもう一度燃焼させる二次燃焼システムが備わっている。大気中に排出される煙は極めてクリーンというが、具体的にはどうなのか?

 「燃料と使い方によります」と鷲巣さん。

 二次燃焼システムは、大別して2タイプある。薪が燃えて発生した煙に高温の空気を送り再燃焼させるクリーンバーン方式と、特殊な部品(触媒)を通して未燃焼ガスを燃やす触媒方式だ。いずれも二次燃焼は一定の温度にならないと作動しないため、着火時は多少の煙が出るが、安定して燃焼すれば煙はほとんど見えない。

 「ただし、使い方が悪いとダメ。乾燥した薪を高温でしっかり燃焼させること。湿った薪を燃やしたり、空気を絞り過ぎたりするとくすぶってしまい、煙はいつまでもモクモクと出続けます」

左は着火時の煙の様子。炉内が高温になり、安定すると右のように煙はほとんど見られない。

触媒式の薪ストーブは、炉の奥や天板に触媒が収められている(写真では銀色の部品)。燃焼効率に優れ、煙も非常に少ない。

クリーンバーン方式の薪ストーブ。炉の上部から吹き出す高温の空気により、オーロラのように炎が揺らぐ。

すぐには暖かくなりません

 「薪ストーブは機械や電化製品とは違います。道具なんです」 と言葉に力を込める鷲巣さん。

 エアコンのようにスイッチひとつで温風が吹き出し、自動的に快適な温度を維持してくれる便利なものではない。使いこなすにはそれなりの技術が必要だし、薪の準備にも労力を伴う。便利さと効率が優先される現代生活に慣れた人にとっては、多分に使いにくい手間と時間を要する道具なのである。

 他暖房との併用については前述したが、これは忙しい現代生活を考えてもいえること。そもそも薪ストーブは着火してもすぐには暖かくならない。まず、薪ストーブ自体が蓄熱し、そのうえで本体から発する輻射熱(ふくしゃねつ)によってゆっくりと部屋が暖まっていくのだ。薪ストーブの大きさや部屋の広さにもよるが、20畳程度の空間を充分暖めるのにだいたい60~90分かかる。朝起きて1時間後に出かけるようだと、その時間に薪ストーブは暖房としてあまり機能しないのだ。

 温度調整にもコツがいる。天板などに取り付ける温度計で200~300℃程度をキープするように数時間ごとに薪をくべなくてはならない。

 「現代生活で暖房を薪ストーブだけに頼るのは無理があります。日中、奥さんや小さな子どもが家にいる家庭でも、薪ストーブを使いこなせるのがお父さんだけではどうしようもありません。薪ストーブは趣味的な道具です。楽しむ気持ちを忘れないように余裕を持って使ってください」

薪ストーブの着火方法。
安定燃焼まで約40分!

 それでは、薪の組み方から火が安定するまでの一連の手順を細かく解説しよう。

【1】1年以上乾燥させた太い薪を2本並べて置く。

【2】細い薪を井桁に組み、上に着火剤を置いて点火。

【3】給気レバーを全開にし、扉は隙間を空けておく。

【4】下の太い薪に火が移ったら完全に扉を閉める。

【5】太い薪がある程度燃えたら崩して燠(おき)を広げる。

【6】赤々とした燠が、高温になっている証拠。

【7】崩した燠の上に太い薪を1~2本載せて扉を閉める。

【8】薪に火がついて、安定したら給気レバーを絞る。

【9】炉内が高温になり、二次燃焼がスタート。

【10】天板の温度計が200℃を超え、安定燃焼に入る。

間違いだらけのストーブ選び

 「薪ストーブを選ぶとき、多くの人はデザインから入ります。それはいいと思います。でも、見た目で選んだ薪ストーブがその人の住まいやライフスタイルに合っているとは限りません」と鷲巣さん。

 薪ストーブは、大きさや構造などさまざまなものがある。暖房能力にも差がある。大きい薪ストーブほど暖房能力は高いが、一方で暖まるまでには時間がかかる。暖めたい空間を限定すれば広い家でも小型や中型のほうが使いやすかったりする。

 設置場所も考慮したい。縦長のデザインなら狭い場所にも収めやすいし、輻射式よりは対流式のほうがストーブの表面が熱くなりにくいので、可燃物までの距離を若干短くできる。

 薪ストーブを選ぶときは、暖めたい空間の広さ、使い方、設置場所の3つをよく考えよう。

■ 暖房方式の違い

【対流式】本体の外側に壁を設けて空間をつくり、そこで暖めた空気を放出する仕組み。輻射熱も放射される。

【輻射式】火室内の燃焼により暖められたストーブ本体から放射される輻射熱によって部屋を暖める仕組み。

■ 素材の違い


鋼板製の薪ストーブ】熱伝導率が高く暖まるのは早いが、蓄熱性は低いため冷めるのも早い。


鋳物製の薪ストーブ】鋼板製に比べると暖まるまでに時間はかかるが、蓄熱性が高く冷めにくい。

ストーブ本体よりも
煙突のほうが大事

 薪ストーブの導入にかかる費用はざっくりと100万円。じつは、この半分以上は煙突代である。なぜ、煙突にそれほど費用がかかるのか。それは薪ストーブの性能を遺憾なく発揮できるかどうかは、薪や使い方にもよるが、何よりも煙突にかかっているからである。どんなに高価な薪ストーブも煙を排出できなければ、燃焼はしないのだ。

 煙は煙突の中で発生する上昇気流によって排出される。いわゆる煙突効果(ドラフト)で、これは煙突と外気の温度差、煙突の長さ、煙突の断面積に比例して強くなる。逆に、煙突の曲がる数に反比例して弱くなる。煙をスムーズに排出するためには、ある程度の断面積と長さがある煙突を真っすぐ立ち上げ、煙の温度を下げないことが重要なのである。煙突の長さは最低4m。状況によっては煙突を曲げて壁から出すケースもあるが、その場合もなるべく曲げは少なくし、横引きも短く抑えるように工夫する。

 加えて、煙の温度低下を防ぐために求められるのが、保温性の高い断熱二重煙突である。1m当たり3万〜5万円と高価だが、安全に、安心して薪ストーブを使うためには必要不可欠だ。

 「煙突には断熱二重煙突のほかに、シンプルな筒状のシングル煙突がありますが、これは外気温の影響を受けにくい室内での使用が原則です。屋外で使うと中を通る煙がすぐに冷えて、ドラフトが発生しにくくなります。煙が冷えると煙突内にはすすやタールが付着しやすくなり、それがたまると煙突が詰まってしまう。当然、期待するような暖かさも得られません」

 正しい煙突の設置なくして、薪ストーブの楽しさは味わえないのである。

シングル煙突(右)と断熱二重煙突。専用のアダプターを使って連結できる。

断熱二重煙突の断面。内部に充填された断熱材により外気温の影響を抑える。


費用を抑えるなどの理由で室内にはシングル煙突を使うケースも多い。

スムーズに排気させるため煙突はなるべく真っすぐ立ち上げる。横引きが長いと煙が停滞しやすく、逆流することも。

どこに設置するかが問題だ

 薪ストーブを家のどこに置くかは重要だ。暖房効率を考えると暖めたい空間の中心に置くのが理想。360℃熱が放射されるので効率的だ。しかし、よほど広い部屋でない限り、使用しないオフシーズンのことなどを考えれば、邪魔になる場合も。そのため大抵は、動線を妨げない壁際や部屋の角に置かれるケースが多い。壁や家具など可燃物と安全な距離を確保できない場合は、レンガなどの不燃物で炉壁を設ける。

 使い勝手を考えると薪の搬入のしやすさも大切。薪は1日に何回か運び入れなくてはならないので、例えば、掃き出し窓のすぐ近くに薪ストーブを置けば便利だろう。木くずなどが落ちてもすぐ外に掃き出せる。古い家では生活空間とつながった土間に置くケースも見られる。

 「中古住宅の場合は煙突がスムーズに出せるか確認してください。また、薪ストーブは100〜230kgほどの重さがあるので、床の補強が必要になる場合もあります。家の構造や工事にかかる費用なども考えて慎重に設置場所を検討しましょう」

薪ストーブを壁に近づけて設置したい場合、壁との間に25㎜以上の空気層を設けて炉壁をつくる。

【理想的な設置場所】暖めたい空間のなるべく中心に薪ストーブを置くと、空間全体を効率よく暖められる。オフシーズンのことやインテリアとしての見栄え、動線も考えよう。

【可燃物までの距離】可燃物とは一般住宅の壁や家具など。この距離は炉壁を設置することで縮められる。

セルフメンテナンスは
かえって高くつく場合も

 薪ストーブは使っているうちに、多少なりともすすやタールが煙突内に付着するので、定期的なメンテナンスが必要だ。

 「きちんと乾燥した薪を使い、上手に燃やせる人なら、煙突掃除は2〜3年に1回でいいかもしれませんが、基本的には毎年シーズンが終わったらやるようにすすめています」と鷲巣さん。

 煙突掃除は自分でやる人もいるが、屋根に上るのは危険を伴うし、室内の煙突を外して下からブラシを突き入れるやり方では煙突トップを掃除しきれない。

 「安心して薪ストーブを使ううえでも、プロにお願いしたほうがいい」と鷲巣さんは助言する。

 自分でやった結果、すすやタールを取り切れずに煙道火災を引き起こしては元も子もない。

 煙道火災とは、煙突内に付着したタールが引火して炎上する現象。煙突上部から炎が噴き上がり、その温度は1000℃を超えることも。事故を起こせばメンテナンス代よりずっと高くつくし、何より近所に迷惑をかけてしまう。それは避けたいものだ。なお、煙突掃除をプロに依頼した場合、費用は3万〜5万円が目安。

メンテナンスに使用する道具。長い柄を連結しながらブラシで煙突の上から下まで掃除する。

煙道火災を起こした断熱二重煙突の内部。高温で溶けたステンレスが波を打っている。外側には大きな損傷はない。

専門店で買ったから
安心というわけではない

 薪ストーブは、専門店で入手するのが一般的だ。設置には正しい知識と技術が欠かせないし、使い始めてからも想定外の不具合など、素人では対応できないことが発生するものだ。鷲巣さんも「うまく燃えない」「暖かくならない」などの相談をときどき受けるという。

 ただ、専門店といっても、そう名乗るのに何か資格が必要なわけではなく、なかには安価を売りに安全への意識が乏しい店や、副業でやっているような経験の浅い店がないとは限らない。

 「ひとつの目安として、日本暖炉ストーブ協会による認定技術者制度の認定証を有していれば信頼できる知識と技術、経験を持っていると思っていいでしょう。日本で最大の業界団体が行う薪ストーブ施工業者の認定制度です」

 薪ストーブを設置した後も薪ストーブ店との付き合いはずっと続いていくのである。

一般社団法人
日本暖炉ストーブ協会
安全で快適な暖炉・薪ストーブ生活の普及を目的に活動。専門店など約100社が加盟しており、勉強会や講習会を定期的に開催して知識・技術レベルの向上に努めている。また、20年以上にわたり培ってきた実績とノウハウをベースに独自の認定技術者制度を設立。資格試験を実施し、確かな知識を有した認定技術者を世に送り出している。
☎03-6206-2311
https://www.jfsa.gr.jp/

薪ストーブ専門店
ブロス横浜店

年間約100台の施工実績を誇り、確かな技術で設置からメンテナンスまで、一貫してサポート。バーモントキャスティングスやヨツールをはじめ高品質な欧米の薪ストーブを多数取り扱っている。
神奈川県横浜市戸塚区名瀬町691-1
☎045-813-4660
営業時間/10:00~18:00(毎週水曜日)
https://www.bros-stove.com/yokohama.html

 

文/和田義弥 写真/冨田寿一郎 イラスト/関上絵美
※田舎暮らしの本 2018年11月号より転載、加筆しています。

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