山と川に抱かれた山添村でレンコン農家を営み、レンコン掘り体験などを企画。食育にも取り組む下川麻紀さん。ここまでの道のりは並大抵のものではなかったが、農業を続けてこられた原動力は、幼かった息子がかけてくれた言葉だったという。
掲載:2022年12月号
子どもがいつ畑に来ても、安心な野菜をつくりたい
奈良県山添村で2人の男の子の母をしながらレンコン農家を営んでいます。大阪市で働いていたときに出会った夫は奈良市で教員をしていたため、結婚して1年ほどは奈良市内で暮らしていたのですが、夫が22歳年上で、その両親が当時80代と高齢のため、夫の故郷である山添村に戻ることになりました。15年前のことです。
もともと私は田舎暮らしに憧れていたので移り住むことに抵抗はなく、夫の両親との同居も苦ではありませんでした。そんななか義母の家庭菜園を手伝うようになったのですが、少しの面積で自己流に栽培していた義母に、どう育てればいいのかなどを聞いても答えが腑に落ちない。また化学肥料や農薬も撒いているので、農薬を撒いた直後だと子どもに「さわっちゃダメ」と言わなきゃいけないことに疑問を抱くようになりました。
本気で野菜と向き合うきっかけとなったのが、息子の言葉。野菜嫌いだった息子が、私が初めてつくった野菜を畑でかじったとき、「ママの野菜は世界一!」と言ってくれたのです。そこから、子どもが畑でそのまま野菜をかじれるよう、無農薬の野菜づくりに取り組みはじめました。
苦難の連続だったレンコン農家への道のり
2011年に起業し、最初は2反弱の面積で始めた無農薬野菜づくり。「簡単にできるやろう」と安易に思っていましたが、いざハクサイを栽培してみたら虫食いだらけで葉がレース状に。とても商品になりません。なんとか虫食いを減らし出荷をしてみたものの、手間賃にもならないくらい安い値がついてしまう。さらに、2反弱の畑仕事では子どもを保育園に預けることもできないのです。つらい時期が続きましたが、青年就農給付金(現・農業次世代人材投資資金)の交付を受け、トラクターやハウスなどを購入。奈良県農業大学校(現・なら食と農の魅力創造国際大学校)シニアファーマー養成講座で週2回基礎を学び、書物を読み研究を重ねました。次に、葉物野菜は諦め、「レストランで買ってもらえる野菜をつくろう」と、西洋野菜や大和野菜など60種類余りを栽培したのですが、目新しすぎて売れず、苦難は続きます。
「どうしたら狭い土地で収益を上げられるのだろう?」と考え抜き、目を向けたのがレンコンです。レンコンなら冬場の畑の有効活用ができるし単価も高い。栽培方法を模索していたとき、知り合いから「山添でレンコンつくってる人いるで」と教えてもらえたのです。そのレンコン農家さんはとても親切な方で、2年ほどお手伝いをしながら指導をしていただき、無事栽培を始めることができました。
私のレンコン畑は少しかたい砂地なのですが、その分圧力がかかって身が締まり、もちっとして味も香りも濃いものが育ちます。レンコン掘りは地味な作業ですし、トラクターが壊れるなど大変なこともありました。でも、レンコンを掘り出したときの喜びはひと際大きい。手が足りないときは、奈良の農作業ボランティア「畑ヘルパー倶楽部」のお世話になり、少しずつ畑の面積を広げ、レンコン栽培に切り替えて10年が経過しました。
じつは私、内気な性格で友達付き合いが苦手。ですが、なら女性農業者グループ「和母」のメンバーにお声がけいただき入会したおかげでネットワークや視野が広がったと感じています。また、農林水産省の「農業女子プロジェクト」に入れてもらったのを機に、「レンコンの育ち方を知ってほしい」とレンコン掘り体験を企画。年間150人に体験いただいています。
ただ、レンコンはシーズンもの。ほかの季節にも楽しんでいただきたいですし、少しでもロスをなくしたいので、今後はレンコンを使った加工品を増やしていきたいと考えています。
【奈良県山添村(ならけんやまぞえむら)】
奈良県の北東端、大和(やまと)高原エリアに位置する山添村。村のシンボル・神野山(こうのやま)は星空観測の名所として知られる。村内には名阪国道のICが3つあり、大阪圏から約1時間、名古屋圏から約1時間30分でアクセス可能。
山添村移住支援情報
空き家リフォームで最大200万円、財道具整理に最大20万円などの支援あり
大阪市内から約60分、名古屋市内から約90と都会に近い田舎の山添村。空き家バンク制度があり、登録空き家のリフォームに最大200万円、家財道具整理に最大20万円の補助を用意。そのほか、空き家を用いての起業支援に最大200万円(改修及び設備投資が対象)や、若者(45歳未満)に対して家の購入に最大50万円の補助制度もある。
問い合わせ:山添村地域振興課 ☎︎0743-85-0048
https://www.vill.yamazoe.nara.jp/life/ijuu
文/横澤寛子 写真/古川寛二
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