神奈川県横浜市で飲食店を経営していた南雲さんは、コロナ禍のピンチを「新しい挑戦」の契機ととらえ、穏やかな海に囲まれた興居島に一家で移住。クラフトビール醸造所の開業に踏み出した。夢の実現までのさまざまな工夫を聞いた。
掲載:2023年2月号
職場から自宅へは徒歩3分。家族との時間もたっぷり
移住前は、神奈川県横浜市で飲食店を経営していた南雲信希さん。転機はコロナ禍での営業自粛。その間に「店で待つだけではなく、積極的に販売ができる新しい生業にも挑戦したい」と、長年好きだったビールの醸造・販売に思い至った。
かねてから妻の阿矢さんとは、家族とゆっくり自然のなかで過ごしたいと夢見ていた。信希さんが幼少期によく遊んだ瀬戸内の島には憧れがあり、新天地もその周辺で探すことに。
ただ、そこには創業した店の後処理や開業準備など課題があった。信希さんは当時を語る。
「大切なお店にはそのまま続いてほしかったので、事業の継承を希望してくださったよい方に譲渡できました」
醸造所の開設場所も吟味した。
「観光地として人気の島もいくつか検討しましたが、愛媛県の興居島は安価な物件もあり、何より飲食店が少なく自分の経験が活かせると感じました」
松山市の空き家バンクを経由して紹介されたのは、築150年の古民家。古い佇まいを残した広い庭や家屋の梁などにほれ、2022年1月に一家で移住を果たした。住まいは物件から徒歩3分の定住促進施設「ハイムインゼルごごしま」。職住近接で家族との時間も充分にとれる。
「クラフトビールづくりに関しては、半年前から松山市内のDD4D BREWING & CLOTHING STOREさんという醸造所で研修を受けています」
開業に必要な経費のうち、半額程度は中小企業庁の事業再構築補助金で賄った。昨年12月から、「ごごしまビアファーム」として飲食店をスタート。醸造所の営業許可が下りれば、ビールの本格的な醸造・販売は3月開始を目指す。
「譲渡したお店へも、私のつくったビールを卸せることになりそうです」と、目を潤ませる信希さん。ビールの副原料には、島で摘果され使われなかった柑橘を活用する。お酒を飲める店がなかった島内では、住民が開業を応援してくれる。フェリー会社も観光客が増えると自主的に宣伝してくれているそうだ。地域住民の期待を追い風に、一家の新しい船出が今始まる。
南雲さんに聞く 田舎で夢をかなえるために大切なこと
「自分の経験が求められる場所を探すと応援されます」
自分の経験が求められる場所を選ぶことが大切です。そのほうが地元の人も応援してくれ、協力が得られやすいですよ。また、情報収集や計画も必要ですが、私の場合は「まずは行動」という姿勢でいます。課題に直面したら、そこで軌道修正すればいいという柔軟性も大事ですね。
【松山市】移住支援情報
1人最大5万円の補助あり。オーダーメイド型移住体感ツアー
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問い合わせ/松山市まちづくり推進課 ☎089-948-6095
「いい、暮らし。まつやま」
https://matsuyama-kurashi.com/
文・写真/吉野かぁこ
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