神奈川県横浜市で飲食店を経営していた南雲さんは、コロナ禍のピンチを「新しい挑戦」の契機ととらえ、穏やかな海に囲まれた興居島に一家で移住。クラフトビール醸造所の開業に踏み出した。夢の実現までのさまざまな工夫を聞いた。
掲載:2023年2月号
愛媛県松山市 まつやまし
愛媛県のほぼ中央に位置する松山市。興居島(ごごしま)は市内の高浜港からフェリーで約10分と、松山市街地から最も近い島である。温暖な瀬戸内海気候で、柑橘「ごご島みかん」は特産品。松山市の総人口は、50万3123人(2022年4月1日現在)。興居島は881人(同)。松山空港へは羽田空港から飛行機で約90分。
職場から自宅へは徒歩3分。家族との時間もたっぷり
南雲信希さん●42歳、阿矢さん●35歳、夏雨ちゃん●3歳 、青波ちゃん●約5カ月
神奈川県横浜市で飲食店を経営後、2022年1月に愛媛県松山市の興居島に移住。同年12月に「ごごしまビアファーム」をオープン。改装中の「ごごしまビアファーム」にて一家で日なたぼっこ。市街地と島をつなぐ由良港から徒歩5分とアクセスもよく、門の目の前にはサクラの美しい中厳前(なかごぜ)神社がある。
移住前は、神奈川県横浜市で飲食店を経営していた南雲信希さん。転機はコロナ禍での営業自粛。その間に「店で待つだけではなく、積極的に販売ができる新しい生業にも挑戦したい」と、長年好きだったビールの醸造・販売に思い至った。
かねてから妻の阿矢さんとは、家族とゆっくり自然のなかで過ごしたいと夢見ていた。信希さんが幼少期によく遊んだ瀬戸内の島には憧れがあり、新天地もその周辺で探すことに。
ただ、そこには創業した店の後処理や開業準備など課題があった。信希さんは当時を語る。
「大切なお店にはそのまま続いてほしかったので、事業の継承を希望してくださったよい方に譲渡できました」
醸造所の開設場所も吟味した。
「観光地として人気の島もいくつか検討しましたが、愛媛県の興居島は安価な物件もあり、何より飲食店が少なく自分の経験が活かせると感じました」
「ごごしまビアファーム」 住所/愛媛県松山市由良町803-1 営業日などはInstagram(@gogoshima beer farm)を参照
のれんには阿矢さんの友人がデザインしたロゴが入っている。お店の飲食スペースは、洗練されたカウンタースペースと和室の2カ所を用意。
研修先で醸造した「ごごしま青みかんIPA」(800円)は、軽いボディの中にも青ミカンやホップのさわやかな香りや苦味が感じられて、また飲みたくなるおいしさ。
古民家の炊事場を活用した醸造所では、容量500Lのタンクが4本待機。「島の柑橘や島で焙煎されたコーヒーなどを使ってビールをつくりたいです」と信希さん。
松山市の空き家バンクを経由して紹介されたのは、築150年の古民家。古い佇まいを残した広い庭や家屋の梁などにほれ、2022年1月に一家で移住を果たした。住まいは物件から徒歩3分の定住促進施設「ハイムインゼルごごしま」。職住近接で家族との時間も充分にとれる。
「クラフトビールづくりに関しては、半年前から松山市内のDD4D BREWING & CLOTHING STOREさんという醸造所で研修を受けています」
開業に必要な経費のうち、半額程度は中小企業庁の事業再構築補助金で賄った。昨年12月から、「ごごしまビアファーム」として飲食店をスタート。醸造所の営業許可が下りれば、ビールの本格的な醸造・販売は3月開始を目指す。
「譲渡したお店へも、私のつくったビールを卸せることになりそうです」と、目を潤ませる信希さん。ビールの副原料には、島で摘果され使われなかった柑橘を活用する。お酒を飲める店がなかった島内では、住民が開業を応援してくれる。フェリー会社も観光客が増えると自主的に宣伝してくれているそうだ。地域住民の期待を追い風に、一家の新しい船出が今始まる。
自宅の庭では、ラッカセイやトマトを栽培。これら新鮮な野菜は、お店の料理としても提供される予定だ。
一家でよく散歩をする北浦海岸。青森県出身の阿矢さんは「冬でも外遊びをさせてあげられる子育て環境は、とてもうれしい」とほほ笑む。
南雲さんに聞く 田舎で夢をかなえるために大切なこと
「自分の経験が求められる場所を探すと応援されます」
自分の経験が求められる場所を選ぶことが大切です。そのほうが地元の人も応援してくれ、協力が得られやすいですよ。また、情報収集や計画も必要ですが、私の場合は「まずは行動」という姿勢でいます。課題に直面したら、そこで軌道修正すればいいという柔軟性も大事ですね。
【松山市】移住支援情報
1人最大5万円の補助あり。オーダーメイド型移住体感ツアー
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問い合わせ/松山市まちづくり推進課 ☎089-948-6095
「いい、暮らし。まつやま」
https://matsuyama-kurashi.com/
1泊2日の移住体感ツアーは、各家庭ごとに案内。子ども連れなどで団体ツアーには参加
しにくい人にもオススメ。
松山城のある勝山は市のランドマーク。近隣には市の主要施設や文化施設も集中し、街
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「松山は田舎と都会のよさがあり、暮らしやすいですよ!」
まちづくり推進課 久保明日香さん
文・写真/吉野かぁこ
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