サツマイモを救え! 民間企業がプロジェクトを立ち上げた理由
このようなサツマイモ基腐病の現状に対して、西日本最大の園芸・農業専門商社である株式会社welzoが設立したのが「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-SAVE THE SWEET POTATO-」。改善に向けて防除法を研究・発信し、サツマイモの産地を守る活動をしています。
株式会社welzo Biz Promotion Divisionの取締役で、本プロジェクトのリーダーでもある後藤基文さんと、前ページで話していただた古賀正治さんに、コンセプトについて伺いました。
「今回のプロジェクトを立ち上げた背景は、サツマイモ経済圏で生きている方々へ貢献していきたいという想いです。
昨今、基腐病の問題が深刻化し、サツマイモ農家だけでなく、サツマイモに関わるすべての産業に大きなダメージを与えています。基腐病の被害が最もひどかった鹿児島県では、焼酎用のサツマイモ生産量約15万トン、焼酎メーカーの売上高にして約650億円のうち、約47%が失われました。焼酎メーカーの生産量ベースでは3,500万本、売上高ベース換算で約300億円もの市場が失われています。
そして、南九州一体は、サツマイモ経済圏があり農家、加工業、アルコール産業など多岐に渡ります。その根幹となるサツマイモが穫れなくなるとすべての市場が喪失してしまうのです。
全国の皆さんにサツマイモとサツマイモ基腐病について知ってもらうために立ち上げた『みんなのサツマイモを守るプロジェクト-SAVE THE SWEET POTATO-』は、サツマイモの生産・加工に関わるサツマイモ経済圏の方たちの思いが一致して始まったプロジェクトです。
弊社は、あくまでもこのプロジェクトの裏方で良いと思っています。この国民食であるサツマイモを守りたいという皆様に是非参画してもらい、一刻でも早くこの状況を打破できるようにできることは何でも貢献していきたいと思っています。
これからも積極的にサツマイモ基腐病に関する知恵袋となるような内容をWEBサイトを通して情報発信をしていく予定です。興味がある方はサイトをご覧になり、今の状況を理解していただけるとありがたいです」と後藤さんは語ってくれました。
今後はプロジェクトに賛同する人を一人でも多く増やすために、サツマイモ経済圏を盛り上げられるようなクラウドファンディングも実施予定なのだとか。
「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-」のホームページ
実は、東日本最大のサツマイモ産地、茨城県でも2022年にサツマイモ基腐病の発生が報告されています。
「茨城県で盛んに作られている紅はるかはサツマイモ基腐病に非常に弱い品種なので、徐々にむしばまれていくのではと心配しています。特に紅はるかは焼き芋やスイーツなどで日常的に食べる機会も多い品種です。
今のところ、茨城県は被害がまん延していないようで、それほど問題とされていませんが、南九州ではあっという間に広まってしまった。そんな経験をしなくてもいいように、プロジェクトのWEBサイトから情報を得られるようにしていきたいですね」(古賀さん)
農林水産省農産局の資料に基づいて作成された県別サツマイモ生産量のグラフ。鹿児島県に次いで、茨城県が2位。生産量の22%を担っていることから、全国の被害拡大を少しでも食い止めたいところ。
実は自給率が高く輸入に頼っていない数少ない農産物であるサツマイモ。検疫や長期保管に向かない性質もあって、国内生産が減少したからといって簡単に輸入を増やすこともできないそうです。
「近い将来、南九州以外の鳴門や茨城、千葉などの産地もサツマイモ基腐病の影響が深刻化すると 、本当にサツマイモが枯渇する可能性が出てくると思っています。そうなる前に各地で危機感を持って対策がとれるといい。我々としても防除法を開発したり、抵抗性のある品種が育成できたりして、国内のサツマイモ関係者が一丸となって立ち向かえるようになったらいいなと考えています」(古賀さん)
今回この記事では、近い将来、私たちの食生活を揺るがしかねないサツマイモ基腐病の深刻な被害についてお届けしました。これを機に現状を知り、「サツマイモ経済圏」について考えるきっかけになればと思っています。
後藤 基文 / 株式会社welzo Biz Promotion Division 取締役
建築・外食などの事業会社を経てデロイトトーマツコンサルティングへ入社。中小企業のターンアラウンド(事業再生)、M&A業務に従事。地方・地域の中小企業・ベンチャー企業のさらなる成長の必要性を強く感じ、官民ファンドである地域経済活性化支援機構に転職。その後、事業再構築の当事者として中小企業経営者を支えるべく株式会社welzo(ウェルゾ)に入社。経営企画、広報ブランディング、新規事業(農業関連)、M&A、株式投資の責任者を務める。リブランディングの一環として2023年1月に社名変更・HPリニューアルを実施、同時に社内DXも推進中。また農業分野における様々な課題に対し、社内リソースを活用しながら社外との連携強化を積極的に模索している。
取材・文/田舎暮らしの本 Web編集部
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