加速する車中心社会からの脱却を目指し、公共交通を軸に市街地に人や機能を集約するコンパクトシティを実現した富山市。身近な自然にも恵まれた環境は住み続けたくなる魅力にあふれている。
掲載:2023年8月号
富山県富山市(とやまし)
富山県のほぼ中央に位置する県都かつ県最大の都市。水深1000mの富山湾から標高3000m級の立山連峰まで、標高差4000mにおよぶ変化に富んだ地勢が生み出す豊かな自然の恵みと四季折々の美しい風景を味わえる。近年はコンパクトな街づくりに取り組み、住みやすく、働きやすい環境が整う。東京駅から富山駅まで北陸新幹線で約2時間10分、新大阪駅から特急と北陸新幹線を乗り継ぎ約3時間30分。
公共交通が充実し、車依存の少ない街暮らし
種昻 哲(しゅわりさとし)さん、 奈都子(なつこ)さん
哲さんは富山県上市町出身。同県高岡市、愛知県名古屋市の建築設計事務所に勤務後、2014年に富山市内に「studio SHUWARI」を設立。名古屋市から富山市へ一家で移住した。奈都子さんは香川県高松市出身。大阪の芸術大学を卒業後、作家活動と並行して美術教員として愛知県内の小・中学校に勤務。現在はイラストレーターとしての顔も持つ。中学生の息子さんと3人暮らし。
studio SHUWARI https://www.studio-shuwari.com
「立山あおぐ特等席。富山市」のキャッチコピーを掲げる富山県富山市。人口約41万人、県全体の約4割の人口が集まる中核都市で、公共交通を軸とした「コンパクトシティ」を実現する自治体として知られている。
2006年に国内初の本格的LRT(次世代型路面電車システム)を導入し、09年には富山駅から二方向に延びる路面電車(市電)の路線を結ぶ環状線を開業。市内中心部の回遊性を高めるとともに、市はまちなかエリアへの居住誘導を推進。自動車に過度に依存した社会からの転換を目指している。
一級建築士事務所「studio SHUWARI」を同市に構える種昻哲さんは同県上市町(かみいちまち)生まれ。大学から就職、結婚と主に愛知県名古屋市で歳月を重ねたが、「独立を機に地元へ」という思いは強く、14年に家族とともに富山市へ移住した。
一方で不慣れな北陸へとやってきたのが妻・奈都子さん。移住に合わせて自動車免許を取得したが、「公共交通の利用しやすさ」をポイントに市電駅から徒歩圏内に居を構えた。厳しい富山の冬であっても定時性に優れた市電は心強い味方。電車好きの長男も市電や北陸新幹線に大喜びで、すんなりと新しい環境になじんだそうだ。
もちろん街だけが富山市の魅力のすべてではない。
「移住してから自然がとても身近になりました」と奈都子さん。住まいから車で1時間もあれば海も山も楽しめる。休日にふと思い立ってお出かけ、というのも朝飯前だ。
「県のちょうど真ん中に位置する富山市は、街も自然も富山の〝いいところ〞をバランスよく堪能したい人にこそおすすめ」と哲さんは付け加えた。
街と人の相互作用で生まれる前向きなスパイラル
富山には「旅の人」という方言がある。内と外とを隔てる排他的な県民性を表した言葉だが、まちなか暮らしであればそうした気苦労もほとんど無用。奈都子さんが町内会の祭事のお手伝いをした際も、みんなで一緒に助け合おうという和やかな雰囲気で安心したそう。
控えめな気質から、以前は「富山は何もない」と自虐めいた市民の声もあったというが、変貌を遂げた街に触発され、いまではその心に「自慢の街」としての誇りが芽生えているという。街づくりが地域住民の自発性を促すという好循環を受け、かつてのシャッター街にも活気が戻ってきている。
「個性的な個人店も増えて、街全体に〝前向きな気配〞がある。一見派手さはないけど、暮らせばわかる濃い魅力がたくさんあるのが富山です」
種昻さん家族が移住した翌年に開業した北陸新幹線の恩恵で、「首都圏とかかわりやすくなったのも好材料」と哲さん。都会的なにぎわいと立山連峰や富山湾に代表される自然の豊かさ、その潜在力に鑑みると富山市はいまだ過小評価されているとさえいえるだろう。
富山市の人気の秘密!
□路面電車をはじめとした公共交通がとっても便利
□海あり! まちあり! 山あり!
その日の気分で何でも気軽に楽しめる
□三大都市圏へのアクセスもばっちり
□まちなかから山間部まで、居住地の選択肢が多数
富山市移住支援情報
市中心部における住宅取得や賃貸住宅の家賃を一部補助
富山市ではコンパクトなまちづくりの実現に向けて、まちなか(都心地区)などの居住推進地区において住宅取得費用や家賃の補助などの支援を行っている。例えばまちなかエリアでは住宅取得において最大50万円、賃貸住宅において月最大1万円(最長3年間)の補助がある。移住に関する相談や居住候補地域の周辺施設のアテンドなどにも対応する。
問い合わせ先:富山市企画調整課地域政策係 ☎076-443-2277
https://www.city.toyama.lg.jp/shisei/seisaku/1010755/1001811.html
文・写真/永島岳志 写真提供/富山市
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