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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

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人口問題を考える/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(50)【千葉県八街市】

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 1月22日「母親の自覚が持てない」。午後からちょっと雲が増えたのだが、風がなく、霜も降りず、ハッピーな気分の1日であった。ヒヨコたちが庭を元気に歩き回っている。10日ほど前、バリバリの氷が張る寒さの中で生まれたヒヨコたちだ。僕はチャボを飼ってすでに45年になるのだが、すべてが凍り付く朝、姿は見えない、でも母鳥のおなかの下からピヨピヨの声が聞こえる、その場面では毎回、初心者のごとく感動する。テレビの天気予報では、強烈な寒波です、車の運転にはご注意ください・・・そう呼びかけている厳寒だが、それでも小さな命は誕生する・・・。外がどれだけ寒くとも、母鳥は43度以上の体温を維持する。そして、ひたすら卵を抱き続ける、21日間。トイレと食事は1日1回、大急ぎですませる。のんびりご飯を食べたりウンチしたりしていると卵が冷えちゃうもの・・・その早業を真似するなんて・・・人間にはとうてい無理である。

 21日間、卵を抱いて、独り立ちできるまでのおよそ2か月、母鳥は今度は育児に精を出す。土を蹴って、クチバシでかき回して、かすかな虫を探す、それを毎日繰り返すことで、我が子に生きる術を教える。ニワトリを研究しているある方が、ニワトリは1日1万回以上も土を蹴ると書いていたが、たしかに、好天の日、土に体を埋め、目を細める時間がわずかにではあるにしても、起きている間の10時間はひたすら食べ物を見つけ出すために土を蹴る、ほぼ1日を費やすのだ。ときどき笑ってしまう場面を目にする。母鳥は脚で大きく土を蹴りながら、意識が向かうのは地中の虫にだけ。そこに目を凝らすあまり、すぐそばにいる我が子への注意が欠ける瞬間がある。蹴り上げたママの脚がその背後にいたヒヨコを直撃、吹っ飛ぶのだ。

 昨日、口移しでごはんを与えるゴキブリの話を書いた。チャボの場合は、食べ物を見つけた瞬間、甘くやわらかな声でココッコと鳴き、ヒヨコに意識を向けさせる。気づいた、特に元気なヒヨコだと、ママの口にある食べ物に向かってジャンプする。そうでないヒヨコは、ママが目の前に落としてくれた食べ物をすぐさま自分の口に運ぶ。命とは何か。生きるとはどういうことか・・・。チャボの暮らしを見て僕は思うのだ。それは、ひたすら食べ物を得るために体を動かすこと。そして、次の世代を作ること。チャボを飼い始めて45年。幾世代の命がかようにして引き継がれてきたことだろう・・・。

 「母親の自覚が持てない」という見出しのついた人生相談を一昨日、読売新聞で読んだ。30代の女性医師で双子を実家で両親とともに育てているという。子どもはかわいい。でも、親に育児を頼っているせいか、子育てごっこをしているような感覚で、母親の自覚が持てず悩んでいるのだという。

妊娠後、付き合っていた彼に「父親になれない」と言われました。彼は養育費は払っていますが、子どもと会ったことはありません。子育てリズムがつかめないときイライラして子どもを叱り、親にあたってしまいます。親や親戚に支えられ、恵まれているのに、シングルマザーであることのさみしさ、子どもへの申し訳なさを感じます・・・。

 双子を育てるのはとても大変だと聞く。その苦労はよくわかる。しかし、僕の体験では、上に掲げた写真のごとく、最高15匹のヒヨコを育てたチャボがいる。小さな新生児段階でも母のおなかの下にはうまく入りきらない。ましてや、生後1か月以降、体が大きくなり、やんちゃ盛りとなった我が子をコントロールし、平等に世話するのは並大抵ではない。人間とチャボはどこが違うのだろうか・・・。乱暴な言い方になる、笑われるかもしれないとも思う。でも・・・僕はこう考えるのだ。チャボは会社に行っていない。通勤も残業もない・・・。そこが人間と違う。百姓暮らしも大変だが、会社勤めはもっと大変・・・サラリーマン経験のある僕にはそれがよくわかる。勤めとは他律的。のみならず、自分の「ホーム」を離れる時間が往復の通勤を入れると10時間くらいになる。もし・・・チャボが、食べ物を手に入れるため「ホーム」を長時間離れる、そして、やっと見つけた食べ物を背負ってヒヨコたちのいる場所に戻って、ママ、おなかすいたよおっーと泣き叫ぶヒヨコたちの面倒を見るのだとしたら・・・ほとんど育児は不可能である。あらゆる種の生き物で、会社勤めをしているのは人間だけである。それだけではない。人間は考える生き物。自分の理想を掲げ、そこに向かって懸命に努力しようとする生き物。映画を見たい、音楽を聴きたい、ときに洒落たレストランでディナーがしたい、ファッションにも情熱を注ぐ・・・チャボはそこが違う。少なくとも人間のような思考力はない。理想を追うということもしない。ひたすら土を蹴って口に入るものを探し、卵を産み、それを温め続けて次の世代への命のバトンタッチとする。近代社会は人間に豊かな幸福をもたらした。その一方で、良くも悪くも原始のエネルギーを削いだ。

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