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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

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人口問題を考える/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(50)【千葉県八街市】

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 1月31日「子どもたちとにぎやかに暮らしていた頃が懐かしく、胸がキュンと締め付けられます」。今朝も氷が張った。しかし、日中は桜が咲くころの陽気になりますとの天気予報通り、うしろ頭に心地よい南風が吹いてきた。昨日ホウレンソウをまいた。それにビニールを掛けてやる。まともな物は出払って、寸足らずビニールを張り合わせるのに苦労したが、まあいいだろう。その仕事を終えて、今日のお客さんに入れてあげようかとフキノトウを探す。我が体感としては決してラクな気温ではないが、統計の数字としてはやはり1月は暖冬であったらしい。たしかに、まだ1月だというのにフキノトウはけっこう顔を出している。

 朝日新聞「ひと」という欄で「12種類の鳥の飼育に挑み『鳥博士』と呼ばれる農業高校生」という見出しに僕は引かれた。赤羽栗(りつ)さん(18)。山口市で暮らしていた小学5年生の頃の成功体験が「鳥博士」への第一歩だった。テレビで、スーパーで売っているウズラの卵は孵化させられると知った。中学生になると将来は鳥と一緒に生活したいと願い、孵化から出荷までを手掛ける農場を営もうと心に決めて長野の上伊那農業高校に進んだという。

 愛情は深まった。難しいとされるホロホロチョウの人工授精の方法を習得し、停電で孵卵器が動かなくなると、高校のビニールハウスで卵を抱きかかえた。国内の養鶏場では、一般的に飼育舎に1種類の品種しか入れない。だが海外では複数を同じ場所で飼育する農場も多い。調べた結果、「孵化直後から一緒に飼育すれば同居してもケンカしない」という仮説を導き出した。校内と自宅でクジャクやシチメンチョウなど12種類、70羽を自主研究で飼育する。「お互いが刺激し合い、野性味あふれる鳥に育つ」。鳥たちが自由に駆け回ることで力強く成長していく。そんな農場を営むことを夢見ている・・・。

 お互いが刺激し合い、野性味あふれるヒトに育つ・・・人間社会もこうでありたい。そして・・・たしかに赤羽さんの言う通りだ。ヒヨコは、生まれてすぐ眼にしたものは肉親か仲間かのように認識する。たとえそれが猫であろうと蛙であろうとも。僕は何かと世話をする必要があるため、生まれたばかりのヒヨコと接する時、「はい、ママだよっー、ママですよっ」と声を発してから手を差し伸べる。するとヒヨコは僕の声、そして手の形をじき覚える。少し成長すると、僕が差し出した手に寄って来るようにもなる。こちら、ママどころか、老いた男、ジジイであるのに、ヒヨコたちは僕を若いママだと思ってくれる、そこが面白いではないか。

 さて、これも少し悲しい話だった。「ピーク過ぎ、老い先絶望感」と題された人生相談のことだ。しかし悪くはない、読み進むにつれ、母から子への愛も感じられたから。相談者は50代のフリーランス。この数年、入退院を繰り返しているが何とか家事や仕事をこなしている。子どもたちは家庭を持って幸せに暮らし、孫もでき、夫も優しい人だというから人生としては合格点ではないかと思うのだが・・・。

コロナ禍を経て、病気にもなり、昔のアルバムを見ると、子どもたちと忙しく、にぎやかに生活していたころが懐かしく、胸がキュンと締め付けられます。当時は子どもを叱ってばかりで、自分の時間が欲しいから早く成長してくれと考えていました。かけがえのない大事な時期を、どうしてもっと楽しんで育児できなかったのか後悔しています。キラキラしていたあの頃が人生のピークだったのではないか、これからは死に向かう下り坂で、老いて死ぬのを待つばかりかと絶望感でいっぱいになります・・・。

 病気を抱えているとはいえ、50代でのこの心境は早すぎはしまいか。まずはこれが僕の読んでの印象である。どうやら、ご本人の言葉「キラキラしていたあの頃」の記憶が鮮明に保たれすぎて、それゆえにこの落差に彼女は落胆しているようだ。自慢じゃないが、僕自身にはキラキラしていた過去なんて存在しない。早くここ(東京)から逃げ出したいなあ・・・それが我が過去というものだった。ゆえに今、百姓という逃亡場所、それが念願かなったからキラキラしているかといえば、キラキラするのは頭上の太陽ばかりで、うんと暑いか、うんと寒いか、さらには強風、豪雨、あれにもこれにも苦しめられる日常である。でも、人生相談の彼女より20歳年上の僕には絶望感がほとんどない。それは、病気でないだけでなく、やってもやってもキリなく発生する畑仕事ゆえであるかと思う。立ち向かう相手がいる、それがいい。相手に負けることもあるが、勝利に独り喜びの涙することもある。先にお見せした、布団や毛布を山ほど掛けて成長を願うエンドウやソラマメ。今日ビニール越しに覗いて見ると、エンドウは花の数を増やし、ソラマメは小さな蕾を持っていた。相談の彼女はフリーランス。フリーランスにもいろいろあるが、もし文章を書くのが仕事であるなら、時間を決めて、パソコンデスクを離れ、近所を散歩し、光を浴び、風に吹かれる生活をするよう僕は勧める。窓辺にいっぱい花を咲かせるのもいい。今のような心理状態だと病気回復どころか悪化させかねない。病は気から・・・そんな古い言葉があるが、我々が考えている以上に人間の精神・心理は健康・病気と結びつく。まっ、たいていのことは何とかなるものよ・・・アマチュア時代を含めて43年という百姓暮らしから得たのがこの人生哲学だ。僕が病気知らずでこの年齢まで来たのは、この自前の安っぽい哲学が間違ってはいなかったという証拠ではあるまいか・・・ひそかにそう自画自賛しているのである。大事なこと、それは、人工の世界から離れ、光、風、野鳥、花・・・自然と接する時間をいっぱい持つことである。自然から遠ざかれば遠ざかるほど、人の心はざわつく。

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